第4回自衛隊名簿裁判意見陳述

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 私は準備書面(3)において主張する国の違法な市区町村への関与と、福岡市が市民の基本的人権を守る責務を放棄していることについて意見を述べます。

1、国の違法な関与について

乙3号証 「令和2年2月13日付け福岡市長宛、防衛大臣名、自衛官募集の推進について(依頼)」における「1、募集対象者情報の提出について」では募集対象者の氏名、出生の年月日、男女の別及び住所の4情報を紙媒体、電磁媒体での情報提出を依頼しています。その法的根拠として自衛隊法97条及び自衛隊法施行令120条によって明確な根拠を持っていると記載しています。しかし、

第1点として、国が普通公共団体に関与する場合は、地方自治法第1条の2第2項の趣旨及び第245条の2第1項「普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。」とあることから、市区町村に義務を課す場合は法に明記していなければなりませんが、自衛隊法第97条及び自衛隊法政令120条においては明記されていません。甲第7号証2020年2月18日福岡市議会総務財政委員会における報告において、委員からの「自衛隊法第97条第1項及び同法施行令第120条には、自衛隊に名簿を提供しなければならないとは規定されていないのではないか。」との質問に、市は「提供を義務づけている規定であるとは認識していない。」と答えていることからも、募集対象者の4情報の提供の法的根拠がないことは明らかです。

第2点として甲16号証令和3年2月5日付け、各都道府県市区町村担当部長宛防衛省人事教育局人材育成課長及び総務省自治行政局住民制度課長連名による「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)」では「本通知は地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言である」と記載されており、募集対象者の4情報の提供が法定受託事務でないことは明らかです。

 この通知は防衛大臣が自衛隊法施行令120条の資料として住所、氏名、生年月日及び性別の個人情報を求めることができるとし、住民基本台帳法上、特段の問題がないとしていますが、これは個人情報保護に関して思慮しておらず問題です。住民基本台帳法第3条第4項には「この法律の規定により交付される書類の交付により知り得た事項を使用するに当たつて、個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」とあり、同意がない個人情報の提供はプライバシーの侵害であり人権侵害で、住民基本台帳法及び個人情報保護法に違反します。住民基本台帳法第11条第1項では「国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条、次条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)を当該国又は地方公共団体の機関の職員で当該国又は地方公共団体の機関が指定するものに閲覧させることを請求することができる。」とありますが、「閲覧させることを請求することができる」ということは「閲覧」以外のことを認めていないと解されることから、4情報提供は問題ないとする国の通知は違法な関与です。

また、防衛大臣が住所、氏名、生年月日及び性別の個人情報の提供を求めることができるとしていますが、4情報がなければ自衛官及び自衛官候補生の募集業務ができないという事実はなく、資料とは何か法的根拠が明示されないまま「依頼」ということで4情報の提供を求めることは法定主義に反し、違法な行為です。

第3点、地方自治法第245条の4第1項では「普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。」とありますが、自衛官の募集事務は国の事務であり、地方公共団体の事務ではないことから、「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)」(甲16証)は「普通地方公共団体の適正な処理に関する情報を提供するため」とはいえず、通知そのものに法的根拠はありません。加えて、名簿がなければ自衛官の募集業務を行うことができないという事実はなく、このような「依頼」や「通知」を出すことは、国の普通地方公共団体に対する違法な関与です。

以上の点から乙3号証における募集対象者の4情報提供については法的根拠があると記載していることは国の違法な関与です。

また乙3号証 「令和2年2月13日付け福岡市長宛、防衛大臣名、自衛官募集の推進について(依頼)」には入隊予定者の激励会開催も依頼しています。これは戦前の地方自治体が国の機関として兵士の募集業務を行った行為を彷彿とさせ、普通公共団体への過剰な介入といえます。

2、福岡市の市民への基本的責務の放棄について

 甲第7号証2020年2月18日福岡市議会総務財政委員会における報告において委員からの「2017年の南スーダンへの自衛隊の派遣延長にも公益性があるとの認識か。」との問に、市は「国防や海外活動における公益性については判断する立場にない。」と答えています。これは地方自治の本旨である「住民の福祉の増進を図る」ことに反します。地方自治は住民自治と団体自治から構成され、住民自治は一定の地域社会の公的事務を住民みずからの意思に基づいて自主的に処理し、団体自治とは国家から独立した法人格を持つ地域的統治団体の設置を認め、地域社会の公事的事務を処理することです。それゆえ、国の恣意的な権力支配に対峙する民主主義的統治機構として設置されていると解されています。このことから、市は自衛官の募集のために名簿を提供するに当たり、自衛隊の任務について検討する責務があります。

ところが市は「国防や海外活動における公益性については判断する立場にない。」として自衛隊の業務全体について検討していません。これは2016年にPKOとして南スーダンに自衛隊が派遣され、自衛隊員が戦闘に巻き込まれる状況にあったことや、海外の軍隊との共同の戦闘訓練をしている状況、2015年の安全保障関連法が制定されて以降米軍警護等での戦闘に参加する蓋然性が高くなっているなど、自衛隊の活動が住民の生命の危険や権利の侵害になる恐れが高まっていることから、自衛隊の国防や海外活動について検討し、住民の生命や権利を守る責務があります。

また、令和2年2月7日開催の福岡市個人情報保護審議会目的外利用等審査部会においても自衛隊の国防や海外活動については審査していません。個人情報保護条例第10条第1項では原則目的外利用は禁止しており、第2項では本人の同意等による除外を認めていますが,「本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは」認めないとされており、自衛隊の国防や海外活動について審議されておらず、条例違反です。

 以上、国の違法な関与及び福岡市の責務放棄について、意見陳述を終わります。