自衛隊名簿提供を求める請願が出されており、7月20日に請願審査がありました。筆頭紹介議員として請願趣旨の説明をしました。審査は継続審査となりましたが、自衛隊への名簿提供を中止する運動は継続されます。
高度情報化社会になり私たちの個人情報保護が重要な時代になっている中で、自衛隊員募集のため,しかもポスティングのために個人情報を渡すことに公益性はあるはずはありません。地方自治体は個人情報を保護する責務があり、自衛隊への名簿提供は地方自治の本旨に反します。
また、2015年の戦争法強行採決以降、集団的自衛権行使が容認され、海外の紛争地に米軍とともに派遣されることが可能となました。2016年に南スーダン・ジュバに自衛隊が派遣され、戦闘に巻きこれる状況に直面しています。このようの自衛隊は米軍やその他同盟国との軍事訓練が頻繁に行われ、専守防衛の時代から大きく変容しています。自衛隊へ名簿提供することは市民を戦場に送ることに繋がり、住民の福祉の増進を図るという地方自治の本旨に反します。
請願項目
2年請願9号は自衛隊へ18歳及び22歳の市民の個人情報を記載した名簿の一括提供を行わないこと、2年請願第10号は18歳及び22歳の市民の個人情報を自衛隊に閲覧させること並びに個人情報を記載した名簿の一括提供をやめること、2年請願第12号は自衛官募集のための18歳及び22歳の市民の住民基本情報の一括提供を撤回すること、3年請願第6号は令和2年4月1日に締結された募集対象者情報の取扱に関する協定が厳格に遵守されたのかどうか、2020年度の実施状況を市議会として調査検証すること、3年請願第7号は、第1点、18歳と22歳の若者の個人情報を名簿にして渡さないこと、第2点、2020年6月5日に提供した募集対象者情報の取扱いに関する協定第1条ないし第5条の各項目について、自衛隊に実施状況を報告させ、監査すること、第3点市の意思として名簿を渡さないことを前提に、募集対象者情報の取扱いに関する協定を破棄すること。
請願の趣旨説明をします。
まず、2年請願9号、10号、12号、3年請願7号第1項のいずれの請願も福岡市が自衛隊隊員募集のために18歳及び22歳の市民の個人情報を自衛隊に渡すことをやめるようを求めています。また、2年請願10号は自衛隊募集のために自衛隊が住民票を閲覧することも問題としています。
福岡市は名簿提供する理由に、自衛隊法97条および同法施行令120条を根拠に法定受託事務であること、福岡市個人情報保護審査会に諮問し自衛隊は災害救助など公益性があるとの答申を得たので本人の同意を得なくても名簿を提供できるとし、審議会の意見により提供を望まない市民は提供する名簿から除外するとしています。請願者は、福岡市が自衛官募集のために自衛隊に名簿提供することは、原則目的外利用を禁じる個人情報護法及び福岡市個人情報条例に反し、同意がない提供は市民の権利利益を侵害すると主張しています。その理由として、一つは名簿提供は法定受託事務でないこと、次に自衛隊員募集に名簿提供する公益性がないこと、そして地方自治の本旨から名簿提供は問題があるとしています。
まず、自衛隊員募集のために名簿提供することは法定受託事務ではありません。自衛隊法97条および自衛隊員の募集の事務の一部を行うことを求めており、同法施行令は必要な報告や資料を求めているに過ぎず、18歳および22歳の市民の個人情報の提供を法定受託事務として規定しているわけではありません。2020年9月19日の本会議における私の質問に、下川局長は「自衛官等募集事務にては、法定受託事務として可能な範囲で協力する必要がある」と答えていることからも、名簿提供は法定受託事務でないことは明らかです。
請願者は6割の自治体が名簿を提供していないこと、神奈川県葉山町は以前は名簿の一括提供を行っていたが、再度法的な検討を行い、一括提供しなければならない法的根拠がないとして名簿の提供をやめたことを紹介しています。福岡県内でも、小郡市では2016年度に個人情報保護審議会は 「自衛隊法施行令第120条で規定されている『資料』に個人情報が含まれるとの解釈は困難」「適齢者情報を提供することの妥当性は認められない」との答申を受け、従来「提供」していましたが、「閲覧」へ切り替えています。
また、筑後市は今年6月1日行政審査会が市長に「個人情報の取扱いに係る意見について」という答申をしました。答申は「名簿という形で自衛隊へ提供してきた個人情報は、いずれも住民基本台帳法第11号第1項の規定による閲覧により取得できることからすると、名簿の提出は単に自衛隊に対し便宜を図る行為にほかならず、名簿がなければ自衛官等募集事務を遂行できなくなるような特段の事情も見受けられない。本来地方公共団体は、個人情報を慎重に取り扱い、個人の権利利益を保護すべき立場であるので、今後もこのような形で個人情報を自衛隊へ提供することは妥当とはいえない。」と述べています。
各地で自衛隊員募集のために住民の個人情報を提供することに疑義を持つ住民からの問い合わせがあることから、「令和2年地方分権改革に関する提案募集」に、自衛官等の募集に関する事務について「住民基本台帳の一部の写し」を国に提出できることの法定化(長崎県大村市など19市)、自衛隊法等に基づく自衛官等の募集に関する事務について住民基本台帳の一部の写しを提出できることの明確化(熊本県合志市など1府21市)、の「提案事項」が提出されました。
これに対して、令和3年2月5日付けで、 各都道府県市区町村担当部長宛てに防衛省人事教育局人材育成課長 、総務省自治行政局住民制度課長名で「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について」という通知が出されています。通知には「本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的助言である」と記載され、以下のようになっています。
1) 自衛官及び自衛官候補生の募集に関し必要となる情報(氏名、住所、生年月日及び性別をいう。)に関する資料の提出は、自衛隊法第97条第1項に基づく市区町村の長の行う自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務として自衛隊法施行令第120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の長に対し求めることができること。
2) 上記の規定の募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、住民基本台帳法上、特段の問題を生ずるものではないこと。
となっています。この通知は募集の資料として住民基本台帳の写しを用いることは特段の問題はないとしていますが、あくまでも技術的助言であり、法律でないことこと、住所・氏名・年齢・性別の4情報は資料には該当せず、自衛官等募集事務の遂行のために,防衛大臣が都道府県知事および市町村長に対し,募集に対する応募者数の見通し,応募年齢層の概数等に関する報告および県勢統計等の資料提出を求め,募集事務を円滑に行うための判断材料を求めるものであり、個別住民の住所・氏名・年齢・性別4情報を求める根拠にはなりません。地方自治法第245条の2「普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。」とあり、通知は技術的助言であり名簿提供の法的根拠にはなりません。自衛隊員募集のために名簿を提供することは法定受託事務ではないことは明らかです。そもそも、自衛隊法97条第1項及び同法施行令120条には個人情報保護の視点がないことに問題があります。
また、通知では募集に住民基本台帳の写しを資料として使うことも問題ないかのように言っていますが、「住民基本台帳法第3条 市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
同条第4項 何人も,第11条第1項に規定する住民基本台帳の一部の写しの閲覧又は第12条第1項に規定する住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書,第15条の4第1項に規定する除票の写し若しくは除票記載事項証明書,第20条第1項に規定する戸籍の附票の写し,第21条の3第1項に規定する戸籍の附票の除票の写しその他のこの法律の規定により交付される書類の交付により知り得た事項を使用するにあたって,個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」とあり、市区町村長は,住民基本台帳法上の住民個々人の個人情報について厳格な管理責任を負っており,しかも個人情報は憲法上の人権であるから,プライバシー侵害にならないよう適切に配慮,管理することが求められます。このことからも、同意がない名簿を渡すことは人権侵害になるといえます。
次に、2年請願10号は自衛隊員募集のために自衛隊が住民票を閲覧することも問題としています。国又は地方公共団体の機関は、住民基本台帳法第11号第1項法令で定める事務の遂行のために必要である場合には閲覧できるとあります。他方、住民基本台帳法第3条第1項及び同条第4項で、市区町村長は,住民基本台帳法上の住民個々人の個人情報について厳格な管理責任を負っており,しかも個人情報は憲法上の人権であるから,プライバシー侵害にならないよう適切に配慮,管理することが求められていることから、請願者は自衛官募集業務のための閲覧には公益性はなく、募集業務のための閲覧も問題があるとしています。
自衛隊員募集のために名簿を提供することは今年6月1日の筑後市行政審査会で指摘しているように、募集業務に便宜を与えているだけで、名簿提供がなければ募集業務ができないことはないことは明らかです。公共性がある業務の職員募集のために名簿提供している事例は「自衛隊」以外にはなく、名簿提供しなければならない根拠はありません。
更に、2015年安保関連法いわゆる戦争法の強行採決以降自衛隊は、大きく変容しており、2016年には紛争地の南スーダン・ジュバに自衛隊は派遣され、戦闘に巻き込まれる事態に直面したことが明らかとなっています。また、米軍と一体となって海外の紛争地へ派遣されることが可能になり,米軍のみならずフランス、オーストラリア、など多くの国との軍事演習を繰り返し、専守防衛を超えて集団的自衛権の下、海外での戦闘に参加することが現実的となっており、憲法違反の状況にあります。このような自衛隊には公益性を認めることはできず、同時に海外で戦闘する自衛隊の隊員募集のために同意をとらずに名簿提供することは権利利益の侵害になり、憲法違反の政府の行為を追認することは地方自治の本旨に反するとしています。
次に3年請願6号及び3年請願7号第2項は、請願者は自衛隊への名簿提供をやめることを求めていますが、名簿提供がなされたことから、名簿提供に係る協定書の厳格な履行を求めるものです。個人情報審査会は答申において個人情報保護の厳格化を求めています。市より提供された個人情報を扱う主体は自衛隊であり、自衛隊内部における取扱いの状況について市当局が直接現場に出向き取扱いを確認する責任を求めています。前述の筑後市行政審査会でも、名簿提供をすべきでないとする答申をし、付帯意見として「仮に今後も名簿の提出を継続しようとするのであれば、個人情報を提供することを本人に対しあらかじめ文書で通知し、本人から申し出があれば提出名簿から除外するとともに、自衛隊に対しては使用後の名簿を確実に処分するよう誓約させ、その処分には市の職員が立ち会うべきであることを付言する。」としています。憲法に保障されている基本的人権であるプライバシーを守るためには厳格な措置が求められます。先に述べたように住民基本台帳法では、市区町村長は,住基台帳法上の住民個々人の個人情報について厳格な管理責任を負っており,しかも個人情報は憲法上の人権であるから,プライバシー侵害にならないよう適切に配慮,管理することが求められています。請願者は個人情報の厳格な取扱いの具体的な措置として、市が自衛隊に出向き個人情報の取扱いを直接確認することを求めています。
また、3年請願7号第3項はそもそも名簿提供すべきでないことを考えると、協定そのものものが必要ないことから、請願者は名簿提供をやめるとともに名簿提供に係る協定も破棄することを求めています。
なお、3年請願6号は議会が機能することを求めています。いずれにしても、議員各位の賢明な判断を求めます。