全国自治体病院経営都市議会協議会第13回地域医療政策セミナー

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日時 2017年10月26日 13:00~16:40

場所 都市センターホテル

Ⅰ 美濃市立美濃病院の経営再建のアプローチとその成果

講師:美濃市立美濃病院 坂本研一院長

1、テーマ1:再建の取り組み

美濃病院の概要

開設者:美濃市 地方公営企業法一部適用

診療科:常勤の医師の診療 内科、外科、整形外科、眼科

非常勤の医師の診療 脳神経外科。小児科、産婦人科、耳鼻咽喉科、放射線科、皮膚科、

泌尿器科、リハビリテーション科

病床数:122床 DCP2病棟(77床)、地域包括ケア1病棟(45床)

職員数:180名 医師(常勤11名、非常勤27名)

1)坂本医師が赴任してきた時期の美濃病院が置かれていた状況

➀合併問題による病院スタッフの動揺

美濃病院は平成10年に病院に移転マスタープランが策定され、平成13年に着工し、平成15年6月に新病院の運営が始まった。新病院建設が始まった時期は隣の関市との合併が議論され、平成16年9月に合併の賛否を問う住民投票条例が可決、平成17年1月に住民党が実施され、結果は合併しないとなった。この時期は、合併の如何によって美濃病院の位置づけが変わることから職員や医療従事者は漠然とした不安感があり、病院経営について将来展望がなく、新たな計画や職場改善の意思が乏しかった。

くわえて、平成16年4月から森林省研修医制度が始まり、美濃病院のような小規模病院には研修医が来なくなり、産婦人科が非常勤化するため業務を撤退、内科は全員大学に引き上げ、その結果常勤15人の外科を中心とした医師が常勤11人の体制となった。

②中濃医療圏での美濃病院の位置と経営の問題

中濃医療圏は岐阜市を含む岐阜医療圏に隣接し、3割の患者が岐阜医療圏に流出している。さらに、隣の関市には346床のJR病院(5km)、145床の民間病院(8.5km)があり、経営的に競合が起こっていた。移転前は経常収支比率95.6%、医療収支比率95.2%、累積欠損金は二億2千万円、年度末残金は5億5千万であったが、新築移転により起債が53億円生じ、経営的に厳しい状況になりつつあった。

2)改革の取り組み

坂本医師は平成17年4月に病院長に就任、病院改革に着手。基本理念を示し共有化することで職員・医師の意識改革を行った。短期間に成果が見える改革を行うことで意識改革が進んだ。改革は組織運営体制の改革と、経営改革に分けることができる。市長と病院長との協議の場を定期的に持ち、課題の共有と必要な人事体制を求めた。組織運営のプロと経営のプロが必要という認識の基に、事務職員の配置期間を長くすることと、職員の職位の格上げを求めた。

まず、病院の将来像として、限られた資源を最大に活用し、病院経営を安定化させるために、診療報酬が高い入院を中心とする病院に替えることとした。また、地域の患者の流出をなくすために、地域密着医療機関にすることにした。すべての診療を行い、足りない医師は岐阜大学医学部を通じて非常勤医を確保した。同時に近隣の民間医療機関と連携し、美濃病院が中心の医療連携システムを作り、専門医療は岐阜大学医学部につなぐシステムを構築した。入院施設は亜急性期病床中心に切り替え、平成21年からはDCP(包括支払制度)を導入することで収入を安定向上させた。平成26年からは地域包括ケア病床を設置し、地域密着医療を進めている。

運営の改革として、自治体の組織マネジメントの弱点である縦割り、総合職制、事業の進捗状況が管理できないなどの問題を克服するための組織体制の見直し、市長に組織マネジメントのプロ、経営のプロの配置を要請した。職員の能力を生かしスピーディな執行体制にするために、目標達成ごとの横断的な目的別に委員会を設置し、委員会に一定の権限を与えることで自立性を高めた。各委員会の情報は全員で共有し、経営部門が情報を一元管理することにした。

経営的にはコスト感覚をもつこと、データに基づく経営ができる体制にした。部門別経営データを事務局が一元管理を行うことで担当者ではない第三者の目で評価できるようにした。診療収入を向上するために、外来中心から入院中心へ(1:2→2:1)に替える、患者の病院圏外への流出を減らすために、➀地域に必要とされる病院にするためにすべての診療を行う、➁地域の民間医療機関との連携し、専門治療は岐阜大学医学部につなぐシステムを構築した。また、地域密着した病院にするために地域への情報発信を強化した。また、DCP導入と回復期病床に転換を進めることで経営を向上させた。

3)改革の成果

改革によって外来患者数は減少したが、外来単価が上昇したことで外来収益は増えている。入院患者は増減はあまりなかったが、平均日数が改革以降増え病床利用率は90%前後を維持している。また、DCP導入、地域包括ケア病床を設置することもあり、病院収益は向上している。その結果、病院長交代5年で単年度黒字になり、黒字後7年で累積欠損金をゼロにし、平成27年度、28年度は剰余金が積み立てられされて9千万円になっている。他会計からの繰入金に対する医療収益比率は2.7%で、岐阜県内では二番目に低く、全国平均10.5%に比べても非常に少ない状況である。

このような改革により、美濃病院は平成27年度に全国自治体病院開設者協議会および病院協議会会長により表彰を受けた。平成29年度は総務大臣賞を受けている。

 

2、自治体病院としての美濃病院のあるべき姿

美濃病院では2025年を見据えて、留保資金を地域の医療ニーズに合わせた戦略的に投資することを検討している。超高齢社会を迎え、2010年に比べて2030年には医療介護の対象人口は2割増加する推計している。美濃病院では地域包括ケアシステム支援病院を目指し、病院敷地の空きスペースにリハビリ施設、相談施設の増設を計画している。新公立病院改革プランの新たな視点である地域医療構想を踏まえた役割の明確化とし、自治体病院は地域包括ケアシステム支援機能があるとしている。

公立病改革ガイドラインによる取り組みで全国の自治体病院はコスト削減を中心に経営改革をしてきたが、再び赤字になる病院が増えつつある。大規模病院ほど経営状態はよく、高い他会計からの繰り入れは少ないが、規模が小さくなるほど他会計からの繰り入れは増える。自治体病院は様々な改革をしてきたが、形態は異なっても結果を見るとほぼ同じような状況になり、大病院も経営は苦しくなり始めている。厳しい財政状況で維持されている小規模自治体病院の今後の地域での役割は、地域包括ケアシステム支援になると考えるが、課題は200床以下の病院は医師および看護師が確保できない状況にある。地域医療計画を進める県の姿勢が求められている。

平成16年の新診療研修制度が始まり、大学の医局から自治体病院への配置がなくなり、研修医は大病院に行くため、200床以下の小規模自治体病院の医師は増えていない。看護師についても平成16年から始まった地域医療構想で急性期医療に新たに看護加算制度ができたことで、診療報酬が高い看護加算を利用する急性期医療機関が増えた。その結果、看護師の奪い合いが起こっており、看護師の報酬が上昇し、小規模病院は看護師を確保できない状況がある。さらに、平成30年度からキャリアパス制度が始まるとさらに大病院へ研修医が集中し、小規模病院には医師が来なくなる可能性が危惧される。自治体病院の70%は10万人以下の都市にあり、地域の医療を支えている。地域包括ケアシステムが求められ、自治体病院が今後担う役割と考えられる。経営の効率化、医師の確保、看護師の確保など自治地帯病院が存続できるよう、行政への働きかけと地域住民が自治体病院の意義を共有できるよう、議会としてサポートをお願いしたい。

 

所見

自治体病院は不採算部門を担わざるを得ず、赤字になりやすい。美濃病院では自治体が持つ本質的な弱点である縦割り、総合職、による組織マネジメントの脆弱性と、経営感覚・コスト感覚の弱さを克服する人事体制、組織運営を構築できたことが成功の鍵である。また、短期間で成果が誰でも見える、結果を出すということが職員のモチベーションを上げたということはうなずけた。その前提となる、データによる状況分析と課題の整理、出身大学との連携による医師の確保、地域への発信の強化と地域民間医療機関との連携・ネットワーク化という解決の方策が的確であったことは病院長の能力による。今回の事例報告は、病院の問題だけでなく、行政組織運営のあり方の基本的な課題と考える。また、現在の医療機関における構造的なゆがみを改めて理解できた。

 

Ⅱ 少子高齢・人口減少に求められる医療・介護の本当の姿とは~今夕張市民に学ぶこと~

講師:南日本ヘルスリサーチラボ主催者 森田洋之医師

 

森田医師は夕張市が財政破綻後に診療所で勤務し、そのときの経験とその後の調査から、超高齢社会における医療・介護のあり方を提起した。

夕張市は札幌市から60km山中にあり、かつては人が住んでいなかった場所であった。明治時代に石炭鉱脈が発見され炭鉱の町として栄えた。昭和の最盛期には11万人を超える人口であったが、エネルギー政策転換で炭鉱が閉鎖され、平成19年には財政破綻した。破綻後人口は減り続けているが、高齢者は年金で生活できるため減っていない。多くの人が夕張市は財政破綻したので医療も破綻し、高齢者の生活環境も厳しいのではないかと思われているが実態はそうではない。

夕張市の財政破綻したことで夕張市の唯一の病院である市立病院は190床の病院から19床の診療所になった。しかし、日本人の三大死因のガン、心疾患、肺炎の死亡率は下がり、老衰による自然死が増えている。また救急車の搬送回数は減り続けている。また、人工透析や手術件数は少なく、医療費も減少している。その理由は高齢者は自宅や施設で訪問医療・訪問看護を受けて終末期を迎えていることにある。救急車で札幌市の病院に搬送されると入院させられ、自宅に戻ることができないと考えているので救急車は呼ばず、訪問医療を受けている。

夕張市が破綻し、病院が縮小されることで自宅で療養せざるを得ない状況になり、訪問介護・訪問医療の体制が作られた。医療関係者や介護事業者の努力で在宅医療・在宅介護の体制が作られた。在宅医療・在宅介護が充実することで高齢者が生活を取り戻すことになり、生き生きとした生活で終末を迎えることができるようになった。高齢者も、住民も終末医療について意識改革がおこった。森田医師が夕張市の診療所にいたときの体験を下に、生活の質を確保して終末を迎えている事例が紹介された。夕張市では結果的に医療費は削減さ、介護費用を含めても経費はさがっている。

医療は需要と供給によって価格が決まる市場経済にはなじまない。医療の情報は医師が圧倒的に多くの情報を持っており、患者と医師は平等な関係にはない。終末医療では胃瘻など延命治療がなされるが、多くの国民は延命治療には否定的である。しかし、患者は医師の言葉を否定することは難しく、医療現場では治療が優先され、患者の生活の質は顧みられていない。医療は消防や警察と同じく、生活に必要な社会的共通資本である。医療は患者との相互信頼関係の下に高い倫理をもって患者の意思を尊重して提供されなければならいと宇沢教授の言葉を引用した。

超高齢社会になり、私たちがどのような医療を受けるべきか、夕張市の事例から学ぶことは大切といっている。在宅医療・在宅介護を充実させることで生活の質を確保し、終末を迎えることが豊かさではないか、そのための意識改革が必要と締めくくった。

 

所見

今回の夕張市の事例は、超高齢社会で、豊かな終末を迎えることの意味と、それを実現させることの重要性を私たちに示している。私たちの意識改革と、地域包括ケアシステムの質の向上が求められていることを痛感した。