宇都宮弁護士の講演を聴いて
立候補する権利を取り戻そう:署名用紙はダウンロードできます。
1、選挙供託金違憲訴訟の意義について
日本国憲法の前文には、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」すると書かれてあり、「議会制民主主義」を謳っている。そして、具体的な選挙については「公職選挙法」で定められており、選挙をより民主的なものにするには「公職選挙法」の民主化、誰でもが立候補できるよう供託金の廃止が必要である。
憲法第15条1項には「公務員を選定し、及び罷免することは、国民固有の権利である。」とあり、国民の選挙権及び被選挙権(立候補の自由)を補償している。美唄炭鉱労働組合が統一候補者として推薦されなかった立候補者に圧力を掛けたことに対し、選挙に関し,候補者となろうとする者もしくは当選人を,組合との特殊な利害関係を利用して威迫したものであるとして、組合関係者が,公職選挙法225条3号違反として起訴された。この三井美唄炭鉱事件に関する1968年最高裁判所判決では、「立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。」と判決文に書かれてある。
また、憲法第44条では「両院の議員およびその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人権、新荘、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。」とある。今日格差と貧困が広がり、高額な供託金は憲法違反と言える。
健全な議会制民主主義であるためには、多様な国民の声が政治に反映されることが求められる。憲法は全ての国民の人権を擁護することで、多数者による少数者の支配を制限する役割がある。少数者の声が国政に反映できることが求められている。
2、貧困と格差が広がり、立候補しようとしても高額な供託金を用意できず、立候補できない人が増えている。
日本の相対的貧困率は直近のデータでは16.1%、子どもの貧困率は16.3%、女性の一人親家庭は54.1%となっている。相対的貧困率は所得額(可処分所得)順に並べその中位の額の1/2以下を指す。中位の額は244万円でその1/2は122万年である。非正規労働者は増え続けており、全労働者の40%2000万人を超えている。衆・参議院選挙区立候補には300万円、全国比例区の場合には600万円、選挙区は相対貧困率の基準となる122万円の2.5倍、比例区で5倍という異常な高額の供託金は、貧困と格差が広がる中で、国民の立候補の権利を奪う憲法違反である。先の参議院選挙で供託金を借金して立候補したが落選した非席労働者の方が、供託金返済訴訟を起こしたが敗訴した。本人訴訟であったことなどが原因と考えられる。今回の訴訟では、立候補の手続を進めたが供託金が高すぎて立候補できなかったため、違憲訴訟を提起している。
3、選挙供託金制度と目的の不当性
我が国の供託金制度は1925年(大正14年)の「衆議院選挙法改正法」いわゆる「普通選挙法」から始まっている。当時の供託金は2000円で、大卒の給与が年収900円程度であることから異常に高いものであった。供託金の目的は「泡沫候補や売名候補を排除し、選挙の混乱を防ぎ、選挙を性実現性に実行するため」と説明されてきた。しかし、真の目的は無産政党(務三者)の議会進出を抑制するためと考えられる。本来、日本国憲法施行とともに公職選挙法も民主化されるべきであったがなされなかった。現状を見ると、高額な選挙供託金制度は世襲議員の増加と議会民主主義の劣化を招いている。
高い選挙供託金について「泡沫候補や売名候補を排除し、選挙の混乱を防ぐ」ためと説明しているが、町村は選挙供託金はなくても問題はなく戦況は行われており、海外でも供託金がないないしは低くても問題は起こっていない。日本の選挙供託金制度は憲法が保障する立候補する権利を奪う憲法違反である。
4、諸外国の選挙供託金制度はどうなっているか
弁護団では現在OECD加盟故国の選挙供託金の調査をしている。現時点で分かっているとこでは制度は異なるが選挙供託金はドイツ、フランス、スウェーデン,アメリカなどゼロやニュージランドやオーストラリアなどでは数万円、カナダやイギリスでも10万円程度などである。韓国では3000万ウォン(300万円弱)が高いと憲法裁判所に訴えがあり、憲法裁判所では違憲判決が出され減額されている。いずれにしても日本の選挙供託金は高すぎる。
5、供託金違憲訴訟の争点と今後の見通し
供託金違憲訴訟において国の主張は、憲法47条「選挙に関する事項は法律でこれを定める」とあることを根拠に「選挙制度に関しては国会に一定の裁量権が認められる」と主張している。しかし、日本国憲法の前文には「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」すると書かれてあるように国民主権であり、それを実現する手段として国民の選挙権と被選挙権は表裏一体のものである。選挙権及び被選挙権は基本的人権であり最大限擁護されなければならない。
議席を持つ政党や供託金を政治資金で集められる政党にとっては既得権を守る行動を取ると思われる。今後の裁判の行方は国民の関心が高まることにある。「一票の格差裁判」では、国民の関心が高まり裁判所も重い腰を上げざるを得なくなり、違憲判決が出されている。立候補の権利は基本的人権であり、また議会制民主主義を発展させるためには多様な意見が反映されるべきである。そのためには多様な人が政治に参加できる=立候補できる必要がある。障がい者や女性などがもっと政治の場に参加すればよりよい社会になる。