第7回法務能力向上のための特別セミナー 報告

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主催 一般財団法人地方自治研究機構

日時 2016年11月16日(水)~18日(金)

場所 大分県自治人材教育センター

講師 平谷英明自治大学講師、板垣勝彦横浜国立大学純教授、折橋洋介広島大学法学部純教授

 

1日目

1、政策法能力向上のポイント(講師 平谷英明自治大学講師)

1)地域課題への対応

今日少子化、核家族化が進み、私的な解決手法が縮小することで公共的課題だとして解決が求められることが増えている。他方、地方分権の視点によって地方自治体の権限が増加することで、公共政策の範囲が広がっているが、①国の義務ではないのか、民間に任せた方がよいのかの検討、②既存のシステムで解決できないのか、③政策を推進、促進、支援などどこまで出来るのか、検討しなければならない。公共政策を立てるときには戦略(基本構想)-戦術(総合計画)-戦闘(実施計画)と系統的に立てる。

条例の構成要素として、目的、主体、対象、手段、執行手段、執行基準がある。目的は一本に絞ることが好ましい。条例の目的規定は、…により(手段)、…し(小目的)、もって…(大目的)の構成となる。主体はそれぞれの責務(役割)を規定。対象には近年市民協働も含まれる。執行手段は、許認可などによる規制、税の減免、補助金などによる誘導、支援的なもの、近年は調整的なものが増えている。執行基準は許認可などの基準、手続きなどとなる。これらの構成がキチンと出来ていなければよい条例にならない。条例には、規範性、拘束力、強制力、明確性、変更困難性の特徴がある。

公共政策には全体性、様々な利害関係における相反性、政策決定者の主観性、時代状況を反映した動態制がある。公共政策はどの様な価値に注目して選択をするのか、どの様な公共に着目すのかによって決まる。成功する公共政策としては費用対効果を考え、権限、財源、人材、情報など政策資源を前提に、強制的、誘導的、支援的、調整的のいずれの行政手段を選択する。政策推進に減税、排出権取引などの経済的インセンティブ、イメージや表彰することでブランドを付与するなどでインセンティブを対象者に与えることで政策誘導する。政策を実施することで行政内での変革と社会的な変革を実現できるものにすることである。

 

2)プロセス

政策策定プロセスとして、①公共的課題として取り上げるか否か問題設定する、②多様な解決策を立案し利害損得を検討して一つの案に絞り、基本設計、詳細設計(条例であれば立法事実)し立案、③正式な機関で審査・検討し、自治体として決定、④実際の執行機関で執行、⑤成果を踏まえて政策の内容や執行方法を点検・評価。となる。

 

3)立法事実

立法事実とは条例作成のための基礎資料をいう。①条例化の必要性・正当性を裏付ける社会的・経済的事実、条例が必要となった理由、既存のシステムで対応できない理由、条例以外の手法では対処できない理由などである。②条例化の合憲性・違法性を裏付ける事実、憲法の基本的人権の保障と調整(経済的自由よりも精神的自由が重たい。とりわけ民主主義の基本である選挙が重要であり、表現の自由が優越的権利がある。)、罰則を規定する時の比例原則との関係等法律との関係、などである。③手段の正当性を裏付ける事実、効果を裏付ける事実が必要。

立法事実の役割は、①紛争解決が困難な場合には立法事実によって解釈、②重複規制による競合関係が生じる場合は立法事実により費用を判断し、法令と条例の整合性を確認、③条例立案作業の出発点、④立法事実は手段の正当性の支えとなる、である。また、行政内での説明、議会説明、訴訟の対応に役立つ。

 

4)行政手法

基本的な行政手法には①規制的手法、②命令、③許可、④届出(風俗営業のような許可したくないが放置もできないための許可代替届けもある)、⑤協議(同意が原則)、があり、規制的手法は最も条例化になじむが、権利を制限するので条例で規定しなければならない。他の行政手段として非権力的行政手段として①補助、②情報的提供、③行政指導、の誘導がある。住民自ら行動する、権利の制限がない、監視などのコストがかからないなどのメリットがあるが、効果の見通しが不透明、時には不公平が生じるなどのデメリットがある。その他、最近は苦情処理など私人間の紛争の解決に、斡旋、調停による調整的手法が増えている。柔軟できめ細やかな対応が出来、民主主義的な意味合いもあるが、問題解決の点では問題がある。

行政手段の実効性確保には、①行政代執行、②命令、③許可などの取消、④氏名などの公表、⑤即時強制、⑥罰則がある。直接強制および執行罰は条例では規定できない。代執行は代替的作為にしか出来ない。代執行に当たっては、手段がない、放置すれば著しく公益に反する、がなければならない。代執行の費用は義務者に請求される。罰則は比例原則と明確性がなければならない。即時執行は緊急時に義務者に義務を課す(命令)前に執行するもので、条例で定める必要がある。条例では行政手法の組み合わせがなされていることがある。

その他の行政手法として、計画的手法、協定などの契約的手法、PFIやPPPなどの民間活力を利用する手法、住民や住民団体、NPOなど様々な主体との協力・連帯して行う協働促進手法がある。

 

5)立法の基本的パターン

条例の基本的立法パターンは、他団体の条例のいいところを取り入れ、自治体の立法事実に根ざしたものを加える、先例がなければ似たような条例や法律から手法を学ぶ。規制条例を作る場合は、①どの様な規制にするか、許可制か届け出制、許可だが届け出にするか、②実効性をどう確保するか、③公平性をどう確保するかを検討する。条例の構造は、①目的・趣旨規定、定義規定、解釈規定などの総則規定、②実体規定、③報告徴収、立入検査、委任規定など雑則的規定、④罰則規定、⑤施行期日の規定、遡及適用の規定、他の条例などの停止・改正規定、有効期限の規定などの附則規定になる。よい条例は必要性、適法性、有効性、効率性、公平性、協働性の6の指標がある。

 

 

2、自治基本条例・議会基本条例(講師 平谷英明自治大学講師)

1)住民参加の動向

住民参加が進んできた背景には、高度成長期を経験し社会構造として経済界において川下産業(流通・サービス)が川上(製造)よりも力を持ち、消費者の権利主張が大きくなった。更にパソコンなどの普及による情報入手がより多くの国民に出来るようになり、住民の多面的な社会参加が進展した。地方分権改革により団体自治が進み地方自治体の権限と事務が増加し、住民自治の取り組みが自治体で始まり、企業戦士といわれた団塊の世代が地域に関心を持ち地域づくりに参加することと相まって、住民主体の街づくりが進んだ。

具体的な住民参加の例として、政策策定段階では、①政策について住民、職員、議員による協議、②審議会などへの市民公募委員、③住民の手による総合計画(マスタープラン)の策定、④条例案、重要な施策、行政計画などのパブリックコメントの募集と議会への報告、⑤都市計画、選挙人名簿などの縦覧、⑥重要案件に関する住民投票、事業実施に関しては,⑦まちづくりNPOなどと協働、⑧PFI、PPP、指定管理者、⑨予算の一部の配分を地域団体による自主的配分と事業の実施、検証として⑩政策報告会、⑪行政評価、⑫住民監査請求、住民訴訟、さらに新しい公共と言われるものとして、計画段階から実施段階までの住民の主体的・積極的参画がある。

 

2)住民基本条例

住民基本条例が作られるようになった背景は、地方分権が進み、住民に身近な行政はできる限り自治体に委ねるとし、権限、財源、事務、責任が自治体に委譲されたことによる。財源および権限を自治体が持つことで行政責任が明確になり、行政技術が蓄積でき、自治体が自律的に住民と向き合って行政を展開できる様になった。この様な背景の中で、北海道ニセコ町で道の方を見て住民を見ない職員の意識を変えるために、2000年に「ニセコ町まちづくり基本条例」として全国初の住民基本条例として制定され、全国に広まり300余の自治体で制定されている。住民基本条例の意義としては①自治体としての総意の長期的な確定と明瞭でわかりやすく普遍化できる、②住民の自治意識の向上、③個別条例の指針・地方自治体政策の体系化がされる、がある。

条例の構成は①まちづくりの基本理念、②自治体での最高法規、③住民の権利と義務となっている。条例策定のポイントは、①条例策定段階からの住民参加、②条例策定の担当課だけでなく、全庁を巻き込み職員の意識改革が必要、③全体の政策の調整、体系の整理、スケジュール調整などのコントロール・タワーの役割が重要、とされている。条文作成には、体系になっていること、条文になっていること、用語は不揃いになっていないこと、統一性があるように注意が必要。

課題としては①条例が活用されていない状況が見られる、②最高法規とは言え尊重規定であること、がある。また住民投票については尊重規定の解釈が主流であるが、拘束力を持たせることが出来るかは今後の課題である。

 

3)議会基本条例

議会基本条例は北海道栗山町で2006年に全国初で制定し、現在600余の自治体で制定されている。議会基本条例が必要とされている理由は、①地方自治法の現行のシステムでは、議員同士の対論・議論を前提にしていない、議会の基本的姿勢が明記されていない、議会改革の成果と方向性が明記されていないこと、②議会本来の役割である議論の場であり、議員は地域代表であり地域の課題を政策にすること、③地方自治は二元代表制であり、住民基本条例による首長と住民との関係との対抗軸としての住民と議会との関係を明記する議会基本条例が必要、が挙げられる。

議会基本条例の基本的な構成は①通年議会(地方自治法改正で可能に)、②反問権(執行部から質問議員に逆質問)、③一問一答、④議員同士の討論、⑤議会報告会、⑥住民、議員、職員による政策作り、⑦議員立法、⑧議会の議決事項の追加(地方自治法96条2項、重要計画など)、になっている。課題は①それぞれの議会で位置づけがキチンとされているか、②最高法規性と住民基本条例との関係が整理できているか、③議会の見える化が課題となっており、議会報告会などにより議会が住民の関心を高められるか、である。

 

4)市民協働

市民協働は自治システムで、市民が自治の担い手として、①自らの頭で考え、②自らの手で取り組むことである。これははじめから市民には受け入れられた。市民参加は行政システムで、住民参加による住民の意思が政策に反映されるシステムである。市民協働には市民主導型と行政主導型があるが、パートナーシップ(対等な関係)とコラボレ-ション(ともに事業を執行)が重要である。近年、NPO、地域協議会、まちづくり株式会社など様々な主体が行政活動にかかわっている。活動の検証を行い、条例制定している自治体もある。

 

2日目

3、空き家条例とごみ屋敷条例(講師 板垣勝彦横浜国立大学純教授)

空き家条例はこれまでもあったが、平成22年に足立区で条例制定して以来全国に広がり、今日約400自治体が制定している。背景には高度成長期に持ち家制度が進められ住宅建設があり、その後少子高齢化が進み、空き家が増えていることにある。倒壊や不審者による火災、景観や生活環境の悪化など空き家問題が全国的な問題という認識が広がり、自治体の取り組みを後追いする形で平成26年に「空き屋等対策の推進に関する特別措置法」が制定された。法律では、空き家の適正化と並び空き家の有効活用、計画の作成、地域の街づくりに言及している。また、空き家の所有者、管理者、占有者等の把握のために固定資産税台帳の利用を認めている。今回の学習は具体的に所沢市等の空き家条例を基に条例の構成を学び、条例の目的達成=義務履行確保について学習した。

 

1)空き家条例から

所沢市空き家条例の構成として、①所有者の空き家の適正管理義務、②実態調査および適正管理措置、③所有者への助言、指導、勧告、公表、④警察等その他関係機関との連携など、となっている。条例の目的の流れとして①空き家の発見、②所有者等の調査、③所有者等への助言・指導、③指導に従わないときには勧告、④勧告に従わないときには命令、⑤命令に従わないときには刑罰、制裁、代執行などがなされる。指導および勧告は義務を課すのではないため法的拘束力はない。命令は義務者に義務を課すことで法的拘束力を持つ。義務者に義務を履行させることが義務履行確保といわれる。

義務には作為的義務(せよ)と不作為的義務(してはいいけない)があり、作為的義務には代替的義務(義務者以外でも出来る)と非代替的義務(義務者しか出来ない)がある。多くの場合は代替的義務である。行政上の強制執行は戦前は通則としての行政執行法が存在したが、国家権力が悪用した反省から戦後は行政執行は行政代執行法のみとなり、他の手続きは個別法で規定することになっている。行政上の強制徴収は国税徴収法が事実上の通則となっている。義務者に義務を課すときには法的な根拠が必要とされているが、義務の履行を強制するためにはそれ自体の法律の根拠が必要である。

行政上の強制執行には①代執行、②直接強制、③行政上の強制徴収、④執行罰、があるが、直接強制は人権侵害の恐れが強く条例では作れない。執行罰は義務の執行が果たされるまで過料を科し履行を促すものであるが、行政上は使い勝手がいいが砂防法以外は認められていない。

行政罰は私人に行政上の義務を履行しなければ処罰するということで威嚇し、義務履行を促すもので間接強制に分類される。行政罰には①行政刑罰と②行政秩序罰がある。行政刑事罰は刑法に規定がある刑罰(懲役、禁固、罰金、拘留、科料)を刑事訴訟法の手続きを経て科す。秩序罰は①裁判所が過料の裁判で科す、②地方公共団体の長が行政処分によって科す、ものである。行政刑罰は検察官を通して裁判を行わなければいけないこと、裁判が終わらなければ科せられないこと、犯罪の構成要件の定め方が曖昧なことが多く、また実績もないため警察の協力があまりないことなどからあまり実効性がない。秩序罰は行政処分で出来、使い勝手がよいので秩序罰が多い。処分に不満な義務者は取り消し訴訟することとなる。いずれにしても罰することが目的ではなく、行政目的を達成することが目的で、執行されることはあまりない。

地方公共団体による民事訴訟手続きの利用は財産権の主体として権利実現を求める場合は出来るが、もっぱら行政権の主体として権利実現を求める場合は出来ない。

緊急時に行う直接執行がある。これは事態が逼迫しているときに私人に義務を課す間がないときにやむなく義務がなくても執行するもので、義務の存在がない点で直接強制と区別される。即時強制は相手の権利を著しく制限する恐れが強く、「条例の留保」の原則から条例に根拠をおかなければ即時強制の手段を採用することは許されない。

 

2)ごみ屋敷条例から

空き家条例とごみ屋敷条例は条例の構成はよく似ているが、基本的な違いはごみは「廃棄物」として一方的に決めることは出来ないこと、所有者はわかりやすいこと、緊急性が比較的低いこと、多くの場合は当事者が精神的・身体的疾患をもっていることが多く、処分だけでは解決しないことにある。そのため、要支援者として行政のケアの対象とするとともに、地域での見守りなど福祉的要素が重要となる。

条例の対象は①物の堆積とし「廃棄物」としていない、②動物愛護法・条例でも規制できるが、糞の堆積や悪臭に対処できるよう多頭飼育とし、③財産上の問題が希薄であるが草木の繁茂を対象としている。条例を作ることで所管課が明確になり、たらい回しが無くなり所管局の調整等がしやすくなる。

条例の執行は空き家条例と同じように、①指導、②勧告、③命令、④代執行の流れにあるが、京都市では勧告を出すに当たっては学識経験者への諮問をする。足立区や横浜市では更に代執行を行う際にも審議会の意見を聞くことを義務づけている。審議会を置くことで財産権の侵害にならないようにするとともに、現場担当者の負担を軽減している。代執行の費用については、義務者の負担能力等を勘案して低い処理料や無料にしている自治体がある。

緊急時の即時執行については京都市では条例に定めているが、横浜市では周辺住民の期待をあおる恐れがあるとして条例に定めていない。

 

4、まちづくり条例(講師 板垣勝彦横浜国立大学純教授)

都市計画法の開発許可は要件の細目を条例の定めに委任しており、自治体毎の地域の実情を踏まえて行うことが可能となっている。要綱の中の協議条項や規制条項で対処できるが、要綱を条例化する動きがある。特に権利制限・義務付加に関わる事項は条例によることが必須である。しかし同意条項は、同意を得るために開発地域周辺にお金がばらまかれるなど特定の住民の利益になる恐れがあり、公益と言えるのかと言うことから工夫が必要である。講義では大磯町まちづくり条例を参考に、同意条項を活用している事例が紹介された。

大磯町まちづくり条例では、①開発構想の段階で届出と住民に構想の縦覧と内容の掲示版の設置、近隣住民その他住民の意見を聴取、町長へ報告書提出、町長による縦覧、②事業者による開発事業事前協議書の提出、町長の縦覧後、事業者による事業計画板を設置、町民等の意見書提出、一定数の町民の請求および事業者から公聴会開催が請求できる,当事者の申し出を受けて審議会が開かれ助言提案が出され、当事者は受け入れの可否を回答する必要がある、③町長から事業者へ指導書の交付、④事業者はこれを受けて開発事業申請書、意見書、指導し対する見解書を作成、提出・協議、⑤町長は申請書等を縦覧し事業者へ審査結果を交付、⑥事業者は開発に着手、工事完了時には完了届、町長の調査および検査結果を通知。それぞれの段階で公開することで手間はかかるが透明化でき、紛争や住民間の不公平は生じない。また、開発業者が大磯町に進出するときのスクーリングの機能が考えられる。

 

5、債権管理条例(講師 板垣勝彦横浜国立大学純教授)

最高裁判決では地方自治法236条の適用を受けるものは公法上の債権となっている。債権管理の問題は、市町村民税、固定資産税、国民健康保険料などの公法上の金銭債権は5年で消滅するが、水道代や学校給食費、公営住宅家賃などの私法上の自治体の金銭債権は、債務者が民法の債権消滅時効(10年)を援用しなければ債権は残ることになっており、債務処理を解決することにある。そもそも債務者が行方不明などになれば、債権回収が事実上不可能であるにも拘わらず永久に債務が残ることになり財産として残ることになる。この不合理な状況を解決するため、条例で債権放棄が出来ることを規定するものである。

 

3日目

重要判例研究(講師 折橋洋介広島大学法学部純教授)

1,判例研究に当たって

判例研究をするに当たって、判例の探し方として判例の記載方法について知る必要がある。記載方法は①裁判所名、②判決等(裁判の種類:判決・決定・命令)、③裁判の年月日、④事件番号、⑤出典となっている。インターネットで最高裁判所情報がとれるが判決だけしか載っていない。民間データベースではTKCデータ、第一法規DI-Law.comWestlaw.Japanなどがあり、解説がある。図書館では最高裁判所民事判例集「民集」と標記されるもの、行政判例百選「行選」、判例時報「判時」、判例タイムス「判タ」などがある。

判例の読み方は、一般論を述べているところと個別事件に当てはめているところを読み分ける必要がある。一般論において判例における解釈の内容、他の裁判との比較、判例がどこまで影響を及ぼすのか射程を読み取る必要がある。解説者によって意見が異なることがあり、複数の解説を見る必要がある。

 

2、行政手続き(不利益処分の理由の提示)

まず行政通則にどの様なものがあるのか、①行政手続きに関しては行政手続法、②情報公開については行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法がある。③情報公開に関しては個人情報保護法が基本としてあり、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等公人情報保護法があり、どの法律が適用されるかによって「個人情報」の定義が異なる。今日個人情報のビッグデータを使用できるよう法改正が検討されており、事業者ではどこまで加工すれば使えるのか研究されている。④行政救済については行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法がある。行政救済において㋐行政訴訟法では行政不服審査法による処分の取り消しを求め、行政事件訴訟法では条例の違法性を争う。㋑国家賠償法では損害賠償を求めるもの、損失補償を求めるもの、その中間がある。

戦前においては違法な行政作用は事後的な救済で足りるとして事前の行政手続きを整備する等の考えはなかった。戦後、米国などの影響を受け個別法律において事前の手続きを整備する傾向が見られるようになったが、次第に行政手続きの一般化を求められるようになり、1993年に行政手続法が制定された。その後、2005年改正で「意見公募手続き等」、2014年には「行政指導の中止等の求め」「処分の求め」といった新たな仕組みが追加された。行政訴訟では事前手続きをより重視する方向になっている。

行政手続き法では申請の許可については審査基準を出来るだけ具体的に定めなければならず、不利益処分をする場合は理由提示義務があり、申請の受理については物理的に申請が行政機関の窓口に届けば受理しなければならないとしている。

今回の講義では「一級建築士免許取消処分等取消請求事件(最判平成23・6・7民集65巻4号2081頁)」を例に「どこまで処分理由を提示すればよいのか」事例研究をした。この事件は一級建築士が構造計算を自分でせず間違った構造計算で設計した建築物が建設されたことにより免許取消処分がなされた事件である。最高裁の判決では一般論として行政手続法は不利益処分をするときには宛名任意理由を示さなければならいとしており、それは行政の恣意性を抑制する効果と不服申し立てに便宜を与える趣旨であり、理由の提示の範囲は総合的に判断すべきとしている。個別この事件について当てはめて、この事案はかなり複雑な事案であり処分基準の関係が示されていないので違法な処分としている。この判決の及ぼす影響については、全ての事案について処分基準の関係を示さなければならないとまでは言っていないと解すべきということであった。

 

3、徳島市公安条例事件(最判昭和50年・9・10刑集29巻8号489頁)

憲法および地方自治法では地方公共団体は法律の範囲で条例を作ることが出来るとしている。法律が明示的または目次的に対象とする事項は、法律に委任がなければ同一目的の条例は制定し得ないという法律占有論が支配的であった。徳島市公安条例事件の判決はそれまでの法律占有論を否定するもので画期的なものである。

徳島市公安条例事件は暴走族が道路で集団行動で騒ぐことを禁じたもので、道路交通法と重複することが争われた事件である。判決では①法律に明文化されていなくても該当する事項についていかなる規制を施すことなく放置すべきもの(表現の自由など)については条例は作れない、②特定事項について規律することが重複しても法律の目的を阻害しない場合、③同一の目的のもであっても全国一律に規制する趣旨でなければ条例制定は出来るという一般論を述べている。その上でこの条例は道路交通法は全国一律の規制を求めているわけではなく地域の状況に合わせて規制することを容認しているので合法としている。この法理の一般論は条例制定のあり方に大きく影響を与えている。①憲法に反しない限り法律にないことは制定できる、②法律と同じ対象でも目的が異なれば条例制定が出来る、③法律と同じ趣旨でも地域の事情に合わせた規制が容認されている場合は条例をつくることが出来る。合理性と意義と効果が明確であれば条例が出来ることを示している。

 

所見

今回のセミナーは政策法務の基本の確認と住民自治基本条例と議会基本条例の関係、具体的に空き家条例・ごみ屋敷条例等および徳島市公安条例事件の判例を通じて条例の構成と運用について学ぶことが出来た。特に命令によって義務を課し、命令に従わない場合の罰則や代執行などの義務履行確保についての学習および丁寧な対応の必要性を学んだ。今後の議会審議に大いに役立てることが出来ると考えている。