2015年度決算~行財政改革の結果は?
2013年に高島市長が行財政改革を策定して3年が経過しました。今後、政策的費用(政策的に自由に使える)の財源が不足する見通しであるため、行財政改革では「市立幼稚園の全園廃止」「生活保護世帯の下水道料金減免の廃止」「図書館等駐車場の有料化」など113項目にわたって事業の見直し・廃止をするとしています。その結果4年間で490億円の財源を確保できる見通しです。
では、この財源は一体どこに使われたのでしょうか? 子育て支援や小中学校の空調整備にも使われていますが、財源の多くは立地交付金や住宅市街地総合整備事業など、企業誘致や人工島事業に使われています。高島市政は「都市の成長」のために優先的に投資をしていますが、その結果、私たちの「生活の質の向上」は実現したのでしょうか? 「成長の果実」を実感している市民は、けっして多くはないと考えます。
非正規雇用が増えている
今年6月に行われた労働力調査によると、正規雇用31万人増に対して非正規雇用41万人増。調査時点で非正規雇用は2016万人、雇用全体の37.4%を占めています。非正規雇用が増え続け、低賃金構造が進んでいます。
国税庁民間給与実態統計調査によると、2013年から2015年にかけて以下のように推移しており、賃金格差が広がっていることが分かります。
2013年 | 2014年 | 2015年 | |
全体平均 | 414万円 | 415万円 | 420万円 |
正規雇用者 | 473万円 | 478万円 | 485万円 |
非正規雇用者 | 168万円 | 170万円 | 171万円 |
福岡市では5年間で約42億円の立地交付金を交付していますが、交付企業による雇用者数は2951人、そのうち非正規雇用は1615人で、54.7%となっています。全国的な傾向と同じく非正規雇用が増えています。交付を受けた企業91事業所のうち、今も継続しているのは84事業所ですが、雇用が継続しているかは不明であり、非正規雇用が多いことも考えると、立地交付金による雇用創出の効果が上がっているとは言えません。
また、“労働力の流動化”のためとして“労働者使い捨て”の指南をする「国家戦略特区」は、非正規雇用を増やし持続可能な社会を破壊するものであり、これも大きな問題があります。
PFI事業は問題が多すぎる
PFI事業では、通常BOTまたはBTOでおこなわれます。建設費は15年~30年間程度で分割して維持管理費・運営費とともにサービス購入料として支払われます。PFIでのサービス購入料は債務負担行為として毎年定額で支払われるため、①建設費が起債されず起算残高が生じないため債務としてわかりにくい、②維持管理費は毎年柔軟に見直しが出来ずアセットマネジメントして問題がある、③運営についても見直しが難しく政策全体との連携が取りにくい、④建設費は維持管理費・運営費等との組み合わせでの入札であり建設費が本当に安くなるのか疑問がある、などの問題があると考えられます。この様な問題点からPFIが本当に行財政改革としてふさわしい手法とは言えません。
低賃金構造の解消に向けて公契約条例制定を!
福岡市はPFIを今後も進めるとしていますが、PFIは特別目的会社を設立する時には利益率を決めて投資を行い、また借入金利は自治体が公募するよりも高くなります。競争入札すれば価格を抑えるために必然的に人件費が削減され、学校給食センターのように、PFI事業は低賃金構造を生み出しています。低賃金構造は貧困と少子化の大きな要因となっており、まずは市の発注する案件(工事契約、PFI事業、指定管理者への委託、窓口業務の民間委託など)の契約に関して、公契約条例を作ることで官製ワーキングプアーをなくす取り組みが必要です。
人工島事業には多額の投資、これでいいのか!
人工島にはこれまでの累計で、住宅市街地総合整備事業として約234億円、立地交付金は約240億円が交付されます。住宅市街地総合整備事業の市の負担は1/2ですが、立地交付金は100%市の一般会計からの負担です。さらに、中央公園整備費が約192億円、こども病院用地が約45億円、青果市場用地が約163億円、総合体育館用地が約48億円など、単純計算でもこれまでに約1370億円が人工島に支出されています。今後も道路や上下水道の整備、野鳥公園整備があり、毎年100億円程度の費用が使われる予定です。
埋立事業費は土地の売却によって償還されることになっていますが、2012年の事業計画見直しでは160億円の赤字、最悪のケースでは421億円の赤字と予想されています。福岡市は「すべてがうまくいけば平成40年代初頭に70億円程度の税収がある」としていますが、日本経済の先行きを考えれば採算がとれるとは考えられません。税金は市民の暮らしのために優先すべきで、人工島事業のような税金の使い方は止めるべきです。
福岡の経済は本当によくなっているのか疑問
今年1月の公表された地場事業者のヒアリングでは、業況が良い・やや良いと回答した事業者 は14事業者から13事業者に減少しており、 理由に①訪日外国人による需要、②景気の上向きによる取引の増加を挙げ、業況が悪い・やや悪いと回答した事業者は3事業者から6事業者に増加しており、理由を①円安等による仕入コスト増の影響②中国経済の減速と答えています。これらの声を聞くとリーマンショックからは回復しているものの、それは世界経済の回復期の波に乗ったもので本格的な景気回復に至ったとは考えられません。アベノミクスは破綻しており、インバウンドだより、企業誘致の投資では福岡経済は活性化しません。非正規雇用が増え続け、低所得者層が増える状況では消費は伸びません。現に総務省家計調査では8月の消費支出は前年同月比で名目▲5.1%、実質▲4.6%、この間ほんの数ヶ月を除いて前年同月比消費支出はマイナスとなっています。福岡市にいても同様な状況と推察されますが、景気は回復しているとは言えず、経済の基盤である個人消費を増やす対策が必要です。総務省の家計調査だけでなく、日銀が10月3日に発表した9月の短観でも大企業製造業の景況感は横ばいと報道されており、経済環境は決して上向いているとは言えません。有効求人倍率が上がっていますが内実は新規求人数に占める非正規雇用が半数を上回っています。需要不足が経済低迷の原因であり、正規雇用を増やす施策が必要です。
非正規雇用の増加とともに生涯非婚者が増えている
国立社会保障・人口問題研究所の生涯未婚率の調査では、1970年は男性1.7% 女性3.3%、1990年男性5.6%、女性4.3%、2010年男性20.1%、女性10.6%、となっています。2025年の推計では男性27.4%、女性8.9%となっており、年々増える傾向にあります。福岡市における生涯非婚率も同様な状況にあると考えられます。非婚者が増えている大きな要因の一つに低所得者が増えていることにあると指摘されています。2015年の厚生労働省調査では不本意な非正規雇用は全体で16.9%、2014年の調査では不本意な非正規労働は25才~54才男性の約50%となっています。厚生労働省の調査では20代、30代では年収300万以下では既婚者は一割未満となっています。福岡市においてもやむなく低賃に甘んじている市民が増えていると考えられます。
無料低額診療事業の拡大を求めます。
3年間賃金は増えていますが、ピークの1997年の平均賃金467万円に比べ、2015年は420万円で47万円も低い状況です。非正規雇用の平均賃金は3年間で3万円増の171万円でしかなく、病気やけがをすればたちまち生活に窮します。無料低額診療事業は、生活保護受給額を僅かに上回る低所得者にとっては生活を維持するために重要なものであり、非正規雇用が増え続ける現状では,市として無料低額診療事業を行う事業者を増やす努力をすべきです。そのためにも市立病院で無料低額診療事業を実施すべきです。また、無料低額診療事業は保健の自己負担分の減免だけであり、薬剤費の助成も検討すべきです。税金の使い方を再考すべきです。全国では700を超える病院が実施、因みに福岡市においては千鳥橋病院および関連病院、済生会病院、8病院が実施しています。
本当に「住みやすい」?住民の福祉の増進のための改革を
超高齢化社会を迎え、義務的経費の歳出の増加は避けられず、歳入も頭打ちの状況が見込まれます。行政運営のあり方を見直す必要があります。しかし、その中身が問題です。地方自治法で地方自治体の本旨は「住民の福祉の増進を図ることを基本とし」とありますが、行財政改革が本当に「住民の福祉の増進」となっているかが問われています。
「都市の成長」に財源を集中させ、結果として「生活の質が向上する」というトリクルダウンの理屈で政策を進めていることに問題があります。貴重な財源を立地交付金や住宅市街地総合整備事業などに多額を使い、破綻した人工島事業、「天神ビックバン」、中央埠頭再開発、「セントラルパーク」構想と、「都市の成長」に重点を置いて投資してきましたが、トリクルダウンは生じていません。
このような政策を推進した結果、非正規雇用が増え、市民サービスが切り下げられ、市民生活の質は落ちています。たしかに市民の「市政に関する意識調査」では「住みやすい・住み続けたい」が9割を超えています。その理由を見ると、「交通の利便性」、「医療の利便性」、「買い物のしやすさ」が上がっていますが、これらは大都市固有の特徴であり、「災害の少なさ」や「自然の豊かさ」などは地理的なものです。他方、政策的な「子育てのしやすさ」や「福祉」、「雇用の機会」などは5割程度もしくは5割を切っており、政策課題は決して解決されているとは言えません。
非正規雇用が増えている現状は、低所得構造と非婚者を増やし、貧困と格差を広げ、持続可能な社会を実現させることはできません。「住民の福祉の増進を基本」とする行政運営にすべきであり、「都市の成長」に重点を置く基本計画、それを進める行財政改革は見直すべきと議会で訴えました。