他都市調査(志木市、草加市)

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調査日時 2015年9月30日(水)、10月1日(木)
調査目的
現在公共施設等の老朽化に伴い将来の維持管理計画が喫緊の課題となっています。国においても「公共施設等管理整備計画」の策定を求めています。しかし、少子高齢化社会、人口減少社会を迎え、自治体では財政的にも厳しい状況が今後も続くことが予想される中での公共施設等の維持管理についての政策が迫られています。福岡市においても平成20年からアセットマネージメントを導入し施設の長寿命化と財政の平準化、PPP/PFIについても検討導入が始まっています。全国的には個別施設の経年状態及び地域全体の状況を調査して「公共施設白書」などを作成しています。「公共施設白書」などを基に施設の長寿命化と財政の平準化を図り、将来の人口動態や市民ニーズに応えるべく施設の総量削減と市民生活の質の向上を図るための計画を策定しています。この様な中で、公共施設の複合整備による施設の削減と市民生活の質の向上を図っている先進的事例として志木市及び草加市を調査しました。

■志木市
日時 2015年9月30日(水) 14:00~16:30
場所 志木市立志木小学校・いろは図書館・いろは遊学館
(小学校、図書館、コミュニティセンター一体施設)
説明員 前田裕明いろは遊学館館長

1、施設の概要
<小学校/図書館/コミュニティセンターが一体となった施設>
この施設は、小学校、図書館、コミュニティセンター一体となった施設です。単に施設を併せて設置したものではなく、施設の管理及び利用も融合しています。具体的には、施設面では区別はされていますが施設の境界は開放された空間となっています。施設利用面では小学校施設は授業中は小学校として使われ、また図書館は授業にも使用されます。小学校各階(3階建て)の各界にはチャレンジコーナーという小規模図書室が設置され、図書委員の児童は対面にあるいろは図書館と図書の入れ替えを行うなど図書館と学校との交流ができ、児童の図書館利用も進んでいます。司書資格を持った図書相談員が1名配置され指導しています。また、遊学館休館日にはホール(100~150人利用施設)などは小学校のPTA活動などに利用されています。
他方、遊学館はコミュティ施設として地域のサーク活動や交流に利用されており、小学校の授業がない夜間や休日には工作室、音楽室、調理室などが遊学館の拡張施設として利用されています。ただし、遊学館は低料金ですが有償、小学校施設は無料となっています。小学校の体育館や運動場の利用については福岡市同様に学校が利用の管理をしています。
この施設は高台にあり、震災時や風水害時の避難所となると同時に災害対策本部になります。そのため災害時の備品の貯蔵と衛星中継システムが設置されています。防災機能を高めるため近々中には太陽光発電及び蓄電池を設置することにしています。この施設は阪神淡路大震災直後での建設計画でもあり、鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋造構造の建造物で耐震強度が高い建造物になっています。

 

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<施設全体が学ぶ場>
施設全体が学ぶ場として設定されています。施設の融合利用による地域の住民と児童の交流があります。また、屋上にはビオトー プと畑を設置、風力発電、雨水利用、中水利用、夜間電力による氷製造と不凍液冷却での冷房などのエコシステム、自然な空気の流れを生み出す換気システムを 取り入れています。教育の社会化として、図書館の共同利用による地域住民との交流、施設見学での児童の案内、地域の人を招待する「おもてなし給食」での接 待などで社会性を付けています。

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<施設の一体管理による効率化>
施設の管理・運営については小学校は小学校で、図書館と遊学館は、図書には図書館長はいますが遊学館と一体で管 理・運営します。遊学館6名の職員の内図書館職員は3名、内2名が司書資格です。臨時職員6名がいますが司書の資格を持っています。夜間(17時~19 時)は臨時職員は5名,交代で2名が全員司書、施設の維持・補修及び水光熱費等については学校8割、遊学館・図書館2割としてシンプルに費用負担をしてい ます。この様にすることで、実態に近い費用負担と管理の簡素化及び人件費の縮減を図っています。この様に施設の統合と利用の融合によって、施設の有効利用 及び施設管理費の削減、地域で子どもを育てる、教育の社会化、志木市が目指す「学社融合」を進めています。

<地域の見守りによる安全対策>
こ の施設は平成15年4月に開設されましたが、当時は大阪池田小学校事件直後であり、学校と図書館及び遊学館の出入り口が同じであるため、開放的なつくりに 危惧の声が出されていました。当時の教育長の強い意思で、地域の力と監視システムを設置することで開放的な空間を維持しています。小学校の入り口には授業 時間には総合案内が設置され総合案内をかねて警備員1名が配置されています。また、図書館は小学校の入り口に面した窓際に学校の出入り口に向かって読書 テーブルが設置され、ご近所の常連の利用者が見守っています。また監視カメラが20台設置され、遊学館事務室及び職員室で見ることができます。また、小学 校授業時の図書館及び遊学館利用者は受付でカードを受け携帯するようになっています。教員も施設内で利用するPHSと笛を携帯しています。これまで問題は 一度も起こっていません。

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2、施設設置の経緯
志木小学校の老朽化に伴う建て替えにおいて複合化が検討されました。
1)市内部に教育委員会、小学校長、財政・企画部門など12名による志木小学校・社会教育施設等複合化プロジェクトチームを1997年5月から2001年3月まで設置。企画、財政、生涯教育、学校教育、公民館、図書館など行政面の視点から問題点等を研究・検討。15回開催。
2)計画策定に当たり、学校関係者、社会教育関係者、公募による市民など17人の委員による志木小学校・公民館・図書複合施設検討委員会を1999年1月から2003年3月まで設置し、市民・関係者の意見を反映させています。学校から見た複合施設のあり方、生涯学習施設から見た複合施設のあり方、施設の管理運営について3部会をつくり検討。全体会12回、分科会10回開催。
3)施設の基本方針
①ハード面
学校機能、図書館、公民館機能を有する複合施設
教室等といろは遊学館等の間の2階を地域住民と児童が自然に交流できる硝子屋根のテラス
普通教室等はオープンスタイルで廊下の間仕切りを設置しない
図書館及びコンピュータ室、視聴覚室の共同利用
中水利用、風力発電、屋上緑化のエコスクール
防災拠点としての整備と耐震化
②ソフト面
計画段階からの市民・関係者の意見を反映
施設の相互利用による幼児から高齢者までの生涯学習の場と教育の社会化
防災拠点と地域コミュニティの拠点
地域の見守りによる安全の確保
 ③教育面
社会に開かれた学校として地域ぐるみでの子育て
普通教室のオープンシステムによる教育の多様な実践と公開性
図書館との連携での「自ら学ぶ力」の形成
図書館・コンピュータ室の利用による高度情報活用能力の取得
風力発電や屋上ビオトープ・畑設置による環境教育
④生涯教育の面
小学校卒業後の利用継続による教育の連続性
図書館・コミュニティ施設利用に加え学校施設の利用による活動の広がり
4)施設建設
施設は基本理念の基指名業者10社からプロポーザルで公募、市が委嘱した選定委員会で選定。

3,残された課題
残された課題として、建て替え当時の状況では実験的な発想で施設がつくられたため、経年によるメンテナンスでいくつか問題が出ています。一つは夜間電力による冷房施設が複数設置され、一体のシステムになっているため故障時に原因解明に手間取るなど、メンテナンスに費用がかかること、二つ目は施設全体を交流しやすいようにオープンスペースにして仕切りをなくしているため、冷暖房に費用がかかること(現在は部屋の出入り口にはカーテンを設置)、三点目は防災拠点ですが学校施設のトイレは子どもに併せているため大人は使えなく機能が低下していることがあります。施設設計は将来のメンテナンスを考えてシンプルなシステムなものにすることや、防災拠点として学校施設を利用する場合を想定した整備が必要であることが見えました。

所見
志木小学校の事例は、アセットマネージメントの財政的側面から複合化による施設維持管理の効率化がはかれること、施設利用・運営面から学校施設と図書館・コミュニティ施設との一体的利用による施設の効率的利用と住民生活の質の向上が図られていると言えます。また教育面では全てが教育の場であり、「学社融合」の理念が生かされ、「地域で子どもを育てる」実践の場となっています。
アセットマネージメントで重要なことは財政的負担軽減と同時に市民生活の質を向上させることにあります。志木小学校の事例は、計画段階から市民・関係者の声を聞き、それを生かすことで目的を達した貴重な事例と言えます。少子高齢化、人口減少社会を迎え、いずれ施設の統廃合や再配置は福岡市においても課題になると考えられ、コンパクトシティ形成と同時に、市民生活の質の向上を実現するための施設整備のあり方とプロセス、施設設置の理念実践の様子を学ぶことができました。

 

■草加市
日時 2015年10月1日(木)9時45分~11時20分
場所 草加市立高砂小学校、市立東保育園、コミュニティセンター。学童クラブ
説明員 後藤裕史高砂小学校校長、本堂浩教育委員会教育総務部施設課課長、保育園長

1、施設の概要
<耐震性がある棟を残した改築>
草加市立高砂小学校には市立あずま保育園、コミュニティセンター、学童クラブが併設されています。学校施設は1部耐震基準を満たしている棟を残して改築・増設しています。新築の教室は部屋の間仕切りがないオープン教室になっています。全体的に空間を多く取っており、開放感がある構造となっています。旧棟の教室は1年生と6年生が使うとのことです。特別支援教室は新棟に2教室設置されています。また、図書館については月二回5市共同で設置している中央図書館の巡回図書館を受け入れるスペースとして住民に開放されています。
学童クラブは多くは小学校に併設されています。小学校の中央部は水路があり、そこはふたをして小学校開校時間帯は住民の通路として解放しています。コミュニティセンターと学童クラブは小学校の体育館の下の1階部に設置され、出入り口は小学校と別になっています。しかし、学童クラブもコミュニティセンターも小学校とは繋がっており、行き来はできる構造になっています。体育館は学校使用時間帯以外は市民に開放されています。
セキュリティのために警備員が4名、2交代で配置され、校内を巡回しています。体育館は夜間及び休日には市民に開放されています。監視カメラは設置されていません。

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<保育園との交流>
保育園は小学校の教室と連結されており、ドアで仕切られています。児童や教師はドアを通じて保育園と交流しています。年長の園 児は小学校入学前の11月からスタートプログラムというカリキュラムが組まれ、小学校での給食などの体験をします。また、子育て相談、子育て教室やサーク ル、登録制で一時預かります。一時預かりの子どもにも給食を実費で提供しています。隣接するコミュニティサークル利用者の支援にもなっています。給食は小 学校も保育園も自校方式で職員が調理しています。アレルギーの子どもについても、8割の保育時が高砂小学校に入学するため、保育園との連携がとれており対 応ができやすいとのことです。いわゆる小1プロブレムはないようです。
施設統合すること志木市のような維持管理費の合理化はそれほどありませんが、建設費についての効果は認められます。また、保育園との連携による効果やコミュニティセンターが併設されていることでの地域住民との協力関係ができ、児童の見守りなどができています

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2、施設整備の経緯
施設の老朽化により耐震性がある棟を残して改築に取り組み、2009年3月竣工。小学校の老朽化による建て替え時に、高砂小学校の敷地が20000㎡あることから、狭隘化が問題となっていた保育園を併設することになったと言うことです。保育園は定員110名、現在121名を預かっています。敷地はゆったりとしています。市長の意向もあり、コミュニティセンターと学童クラブを併設することになったとのことです。

3、草加市立谷塚小学校との比較
草加市立小学校の複合施設は高砂小学校改築前に2005年に改築が竣工した谷塚小学校があります。谷塚小学校は文化センター、図書館と学童クラブが併設されています。詳しくは分かりませんが、校長先生によると図書館の共用は住民と児童との交流がうまくできていない、調理室の共同利用についてはセキュリティの問題があるとのことでした。高砂小学校の改築については、谷塚小学校で地域との連携が図れなかったことなどから、学校施設の共同利用は図られてないようでした。
所見
施設の複合化による土地利用の効率化は市長の政策として実施されたと言うことで、トップダウンの整備と言えます。また谷塚小学校の複合施設において、学校と地域との連携がうまくいなかったことから今回の整備となったと思われます。残念ながら、計画段階からの市民や関係者の参加なく、トップダウンの改修であったため、地域との連携は醸成されていないと思われます。その結果、高砂小学校においては保育所との連携による教育効果は上がっていると思われますが、志木小学校の複合施設おける地域と融合した利用・運営をすることで、施設の効率的利用と地域コミュニティの向上、維持管理費の縮減、学校教育における児童の社会性と自立力の習得、地域での教育力向上などには至っていないと考えられます。

両施設を調査した所見
今回2施設の調査を終えて、決定的な違いは行政のトップダウンで事業を進めるのか、計画段階から住民や関係者が参加して進めるのかにあると感じました。アセットマネージメントは施設の長寿命化及び維持管理及び建て替えなどを計画的に行うことで財政負担の平準化を図ります。そこで見落としてはいけないことは住民生活の質の向上を同時に図ることです。施設の複合化は建て替え時における財政削減の手法ではあります。しかし、施設の複合化による財政的効果と教育や地域住民の生活の質の向上を実現するためには、計画段階からの住民及び関係者の参加が重要であり、またシンプルな合理的な施設費用負担の考えが重要と言えます。
「地域コミュニティが学校を創り、学校が地域コミュニティを創る。」説明をしてくださった志木市遊学館館長さんは、「昔の路地裏をこの学校で再現しているようです。」と、今失われている人とのつながり、絆のようなものが、日常を通じて培われていることを何度も言われました。とても素晴らしく感動する融合施設。これからの、人口減少社会に必要な発想と実態を学びました。