調査目的
大阪狭山市では、市民に身近な予算編成の仕組みとして中学校校区単位で「円卓会議」設置し、予算提案を受ける仕組みを作っている。福岡市においても区の権限を強化し、市民に身近な市政を進める方向にあり、また6月国会で地方自治法が提出され「総合区」の設置が出来るとされる動きがあり、福岡市の区政のあり方を研究するため調査した。
調査日時 2014年4月23日(水) 13:15~15:15
説明員 政策調整室 東 美好市民協働担当部長
政策調整室 古頃孝司市民協働・生涯学習推進グループ課長
1、円卓会議の経緯
大阪狭山市は大阪市の南部に位置する人口5万8千人のベッドタウンである。大阪狭山市は人口は横ばいの状況であるものの将来的には高齢化の進捗と人口減少が予測されている。また市財政状況も税収は減少し財政状況は厳しく、平成15年度から職員削減等行財政改革に取り組んできた。現市長はこの様な状況認識の上、地方分権の流れから、平成19年度に2期目のマニフェストとして自治基本条例の制定と、「地域のことは地域で考える」地域協議会設置を掲げた。市長は地域協議会設置するために独立した専門職員(当日説明員の部長)を配置し、制度設計と地域のまちづくりを支援する体制を作った。平成20年に「新しいまちづくり制度」として市民に「円卓会議」を提案し説明会を開催した。
円卓会議の設立は地域の主体的な動きに任せることとし、平成21年7月南中学校区で自治会会長の連絡会の呼びかけで設立された。その後、それぞれの校区の任意グループの呼びかけが行われ、準備が出来た校区から順次設立された。市長3期目のマニフェストとして円卓会議がより自立的に活動できるよう平成24年度中に条例で定めるとし、「大阪狭山市まちづくり円卓条例」として平成25年4月1日から施行された。条例では円卓会議は法人化を目指すとされ、将来円卓会議が行政サービスの一翼を担うことが期待されている。具体的には指定管理者を受託するなどである。南中学校校区円卓会議は平成25年10月にNPO法人となり、公園清掃の一部を市から受託している。条例制定に当たり、一部議員から議員の権益を侵害するとし反対の声が上がった。
2、円卓会議の仕組み
1)円卓会議の構成
円卓会議は市民、自治会、市民活動団体、NPO、大学(1校区に大学がある)、民間事業者などで構成され、①市民自治の契機づくり、②より市民ニーズに即した事業提案、③地域内コミュニティの醸成や市民協働の推進、④地域内で活動する各種団体の連携促進、を目的としている。円卓会議は地域に公開されている。
大阪狭山市は小学校区7校区ある。小学校区の人数のばらつきが大きいことや小学校区では地域有力者の発言力が大きくなる恐れがあることから、中学校校区を単位とした。大阪狭山市には中学校校区は3校区あり、全ての校区に円卓会議がある。構成員数は70名~160名、自治会の参加状況は67%。現在NPO法人は1円卓会議だけ。
2)円卓会議の申請
円卓会議の要件は条例で定められている。名称、事務所の所在地、代表者の選出方法、総会の方法、監査その他円卓会議を民主的に運営するための必要な事項が規約等に定められており、円卓会議の代表者および役員がその構成員の意思に基づいて選出されていることとなっている。円卓会議設立は市長に届け出し、1中学校校区に1つだけ認められる。
3)円卓会議の事業
円卓会議は地域のビジョンを策定し、地域ビジョンに基づいて①地域コミュニティに関する事業、②地域福祉の増進に関する事業、③環境に関する事業、④防犯、防災に関する事業、⑤校区まちづくりに繋がる事業とされている。⑤にはコミュニティビジネスも含まれている。
最も特徴的なことは、円卓会議が市に対して500万円を上限に予算措置を提案することが出来ることである。提案できる事業は、プロセスを重視しソフト関係に限られている。ハード関係であれば使わないと損という意識が生まれる恐れがあるとしている。円卓会議における予算提案については10月に臨時総会を行い決める。円卓会議がおこなった事業については自己評価を加えて毎年公開される。
円卓会議が法人化されれば提案事業を円卓会議が受託することも想定されている。現在、南中学校校区円卓会議はNPO法人となり、公園清掃の一部を受託している。
4)円卓会議への助成
市は円卓会議の地域ビジョンを尊重すると共に、円卓会議の支援のための環境作りと運営費の助成を行っている。運営費には人件費や食料費は認めていない。市の職員は飽くまでも支援であって主体的な位置にはない。発言を求められない限り発言はしない。
3、議会との関係
一部議員の中には議員の権益を侵害するという声もあったが、議員が円卓会議に直接かかわる仕組みになっていない。それぞれの議員の判断と地区の関係で、オブザーバー参加や一市民としての参加、または不参加となっている。
所見
円卓会議は福岡市の自治協議会によく似ているが大きく異なっている点がいくつかある。まず構成団体が自治会だけでなく、地域の市民団体、大学、NPO、事業者と幅広く、基本的に参加したい市民は参加出来る仕組みになっている点が大きく異なる。現実には地域内での確執がないわけではないようであるが、地域の多様な主体がかかわっていることは評価できる。国が地域包括ケアシステムを提起しているが、介護という視点だけではない点は大きく異なるが、地域の資源を活用し解決する視点はかなり近い。
第2点は地域で協議し予算提案が出来るということである。上限が500万円で、ソフトな事業と限定されているが、まちづくりの提案が具体的に出来る点は非常に大きい。市民が自ら地域の課題に目を向け、解決の提案が出来る、場合によっては自ら事業を担うことが出来ることは住民自治へ一歩歩みを進めていると評価できる。
大阪狭山市市長の認識として、今後厳しい財政状況が続く中で、全てを行政がサービスを提供することは出来ないという認識を持っている。財政状況を市民が理解し、共助の上に公助を重ねることで住民の満足度を高める視点がある。そのために、円卓会議を法人化することで解決の方向を見ようとしている。この点は福岡市においても円卓会議のあり方は検討に値する。