LRTの調査

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目的
 福岡市都市計画マスタープラン等で都心部の回遊性、特に臨海部へのアクセスが課題となっている。交通対策特別委員会では昨年新潟市にBRTの調査に行った。今後の検討に資するために、富山市におけるLRT設置の経緯及びその成果と課題について調査した。

日時 2013年7月30日
午前10時~11時45分 
場所 富山市役所
説明員 都市整備部路面電車推進室 野村知範室長代理
 富山市の都市マスタープランによる交通政策の概要と、セントラム及びポートラムの導入経緯と現状について説明を受けた。環境政策及び街づくりとして、自動車交通から公共交通への転換、公共交通沿線において公共施設の集約と居住の集約によるコンパクトシティの実現、高齢者の移動の確保、街のバリアフリー化、LRT導入による中心部の活性化と賑わいの創出を目指している。また、公共交通沿線沿いに市民が定住することを促進するために、住宅ローン金利の助成を行っている。
 LRT導入に当たって市長は市民に200回もの説明会を行い、8割を超える市民の賛同を得、議会も全会一位でLRT導入を採択した。市長のリーダーシップがLRT事業を成功させた大きな要因と感じた。

日時 午後1時~2時 
場所 富山ライトレール株式会社
説明員 経営管理部 貫場光司副部長
 ポートラムの車両基地がある城川原駅に隣接する第三セクター富山ライトレール株式会社に訪問し、ポートラムの設置経緯、運営状況等の説明を受けた。説明された貫場副部長は元富山市職員でポートラム導入に携わってきた方である。設置経緯及び運営する現場からの説明を受けた。沿線住民の規模から公設民営でなければ運営できない状況があり、政策目的が市民に理解されているので、公費の支出には異論が出ていない。また、自動車が利用できない高齢書の移動の確保や自動車交通から公共交通への転換などの政策課題についても実現されている。

日時 2013年7月31日午前10時~午後11時
場所 富山地方鉄道株式会社
説明員 経営企画部 室哲雄部長
 富山駅そばにある富山地方鉄道ビル4階にある富山地方鉄道株式会社を訪問し事業者の立場からの説明を受けた。市長が富山地方鉄道が路線を維持してきたことに感謝し、街づくりの協力を申し出来たことで事業者として協力することとになった。導入がスムーズにいった要因は、路面電車の線路が維持されいたこと、上下分離方式で事業者負担が軽かったこと、市内の交通事業者が富山地方鉄道だけで協議が錯綜しなかったことを挙げている。事業者として、LRTそのものが観光資源になっていることを指摘している。

1、LRT設置の背景
 富山市は神通川と常願寺川に挟まれた平野部で平坦な地形となっている。地価も安く郊外に住宅地が広がり、中心部の低密度化が進んでている。その結果自動車利用も増え、公共交通利用が減退している。高齢化が進む中で自動車利用が出来ない市民が増え、又環境問題としてCO2対策が求められている。富山市の都市マスタープランでは「鉄軌道をはじめとする公共交通機関を活性化させ、その沿線沿いに住居、商業、業務、文化等の都市機能を集積させることにより、公共交通を軸としたコンパクトな街づくり」理念としている。この理念の基に交通政策が進められてきた。

2、市内電車のLRT(セントラム)
1)セントラムの整備
 中心市街地の活性化の一環として市内の回遊性を高めるために中心部の市内電車の環状線化とバリアフリー化および都市の魅力を上げるためにLRTを導入。環状線化は運行されている富山地方鉄道を基本にし、一部道路の拡幅を行い廃線になっていた富山地方鉄道の線路940メートルを復活させた。線路はコンクリート基盤にプラステックでレールを固定する制震軌道を採用。H21年12月竣工。事業費は30.3億円、市費17.5億円、国庫補助12.8億円。LRTは中心部での逆時計周り単線の循環路線及び富山大学前及び南富山駅間の2路線が運行されている。循環化接続線路940メートル以外の線路は富山地方鉄道の路面電車の線路を共用している。2両編成、定員80名、最大160名となっている。運賃は一律大人200円、こども100円、ICカード利用は大人170円となっている。

2)セントラムの運営
 セントラムの運営は「地域交通活性化及び再生に関する法律」を適用し上下分離方式としている。上下分離方式により、事業者は固定資産税や減価償却の負担がなくなり、市としては民間の協力を得て政策を進めることが出来る。循環化接続部分及びLRT3両は市が所有し、運行は富山地方鉄道が行い料金収入を得る。市所有の線路は富山地方鉄道が使用料を払い、線路の維持管理を市は富山地方鉄道に年間400万円程度払う。また、富山地方鉄道がセントラムを運行して出る赤字は補助金として補填している。富山市としては線路及び車両は道路と同じように都市基盤として公的負担をするとしている。
 また、市民、企業からの建築費や運営費に対する寄付、市民が共感できるように名前の公募や市民や企業から駅の待合ベンチの寄付などを募った。デザインは車両だけでなく駅など一体のデザインとし、路線周辺の再開発において一体的な景観形成をする取り組みが官民連携でなされた。

3)セントラムの利用状況と評価
 セントラムの導入で利用者は増えている。セントラムの利用状況はこれまでの利用パターンとは異なり、通勤・通学時間帯ではなく昼間、土日・祝日、晴れた日に多くなっている。運行する富山地方鉄道担当者の話では、LRTが走ることが街の魅力になっており、LRT乗車目的や写真撮りを目的に来ている人が増えているとのことである。富山市の観光資源になっていることがうかがえ、都心部活性化の目的を達していると言える。
 LRT導入がスムースに出来た要因は、市内電車の路線が維持されていたこと、市内の軌道事業者が単独であり交渉がしやすかったこと、運行について上下分離方式で事業者の負担を軽減したことにある。市長から事業者に街づくりについて協力が要請され、市長のリーダーシップが大きいとのことであった。
 市としては交通事業者の協力で街づくりを進めることで、市経済の活性化を図ることで税収増を獲ることが出来る。交通事業者の地域社会への経済的、社会的貢献が改めて評価され、協力を依頼されたことが交通事業者を動かした。

3、ポートラム(旧JR富山港線)
1)ポートラム設置の経緯
 JR富山港線は沿線の工場と富山港を繋ぐ路線で活況を呈していたが、近年自動車利用へシフトし利用者減が進み運行本数が削減され、その結果利便性が下がり更に利用者数が減るという悪循環に陥っていた。この様な情況で富山港線を将来どうするかが課題となっていた。この様な情況で平成13年に北陸新幹線事業が富山駅まで認可され、在来線も含めて高架化が決まった。富山港線について「高架化」「路面電車化」「バス代替」が検討され、平成15年に市長が「路面電車化」を発表し、翌平成16年に予算が決定された。平成16年に第三セクター「富山ライトレール株式会社」が設立され、事業が始まり、平成18年3月に工事が竣工、4月に営業を始めた。
 線路は富山港線6.5kmを使い、富山駅近く1.1kmは新たに富山市が敷設。6.5kmは鉄道法の認可、1.1kmは軌道法の認可となっている。駅もLRTに合わせてバリアフリー化の改装と駐輪場の整備、LRT及び駅を一体のデザイン、新規線路1.1kmは制震軌道を採用。運営費や駅のベンチの設置費などを市民・企業から寄付を募る、路線の名前も市民か公募した。ポートラムの整備に伴い、並行して運行されていたバス路線は廃止され、2つの駅から従来のバス路線を接続させ、フィダーバスとしてポートラムを地域に繋いでいる。
 平成27年に北陸新幹線が開通すると同時期に在来線も高架化され、セントラムとポートラムが接続される。そのことで相互に乗り入れが出来るようになり、利便性が一層高まることで利用者の増えて移動人口増が期待され、地域経済の活性化が期待されている。

2)ポートラムの運営 
 ポートラムの運営は公設民営の考えで行っている。富山市(公)は施設の建設と建設後の維持管理費を負担、事業者は施設を保有し、人件費と動力費を賄うとしている。建設費58億円は富山市17億円(市単独10億円、LRT事業補助7億円)、JR西日本から協力金10億円、立体交差事業補償33億円(県約9億円、国約22億円))である。建設後施設を三セクに寄付、維持管理費として富山市が毎年約1億円を補助している。経営的にはランニングコストは600万円ほどの黒字となっている。
 富山ライトレール株式会社の出資金は5億9800万円、富山市、33.13%、富山県16.07%、民間企業15社50.8%。事業はポートラム及びフィダーバスを運営。役員は9名、取締役会長は富山市長、代表取締役社長は市のOB、社長以外は全て非常勤。職員は企画経理部8名、運輸部22名、計30名。運輸部の運転手は株主でもある富山地方鉄道からの出向となっている。
 料金は一律で、大人200円、こども100円、ICカード利用は大人170円、こども90円となっている。

3)利用状況と評価
 富山港線の利用状況は、昭和63年6494人であったものが開業前の平成16には3115人と半減している。運行数も昭和63年1日25本であったものが19本に減らされ、悪循環に陥っていた。沿線5校区住民の数は昭和63年から今日に至るまで約4万5千人と変動はない。
 ポートラム開設に当たり住民のアンケートをとった。利便性を高めるために通勤・通学時間帯は10分間隔、その他の時間帯は15分間隔、早朝深夜は30分間隔、運行本数平日132本、休日124本に増便しJR時代の3.5倍の運行本数にした。富山駅北発最終便もJR時代9時30分であったものを11時15分とした。
 利用状況は開設後平成18年度は1日平均5,772人、その後やや減るが再び増え始め平成24年度は1日平均5341人となっている。利用年齢別に見ると10代は児童数の減少の問題があると考えられ微減しているが、その他の年代は全て2倍以上増えており、特に60代は4倍、70代以上の年齢は3倍に増えている。また、時間帯を見ると、通勤・通学の時間帯だけでなく9時~16時の時間帯の利用が大幅に増えている。平日だけでなく休日の利用も3倍近く増えている。このことから、高齢者の外出が増えていることや観光などの利用が増えていることが見えてくる。また、フィダーバス利用者も徐々に増えており、公共交通利用が進んでいることがうかがえる。また、ポートラム沿線住民の数はほとんど変動がなく、公共交通沿線に住民が住むというコンパクトシティ構想実現にも寄与していると考えられる。
 課題は雨天時の通勤・通学に利用時の問題がある。LRTは定員80名、最大160名となっており、雨天時には積み残しがでている。3両編成のLRTも可能ではあるが駅が2両を基に作られていることや、富山駅北近くの駅では3両編成であると交差点に係る問題がある。雨天時の対策が今後の課題となっている。
 
4、調査の所見
 富山市でLRT導入が進んだ要因は既存の鉄軌道を活用できたこと、上下分離方式で事業者負担を軽くしたことが挙げられる。また、市長のリーダーシップが市民や事業者を納得させ、LRT導入を実現させた。
 LRTはそれ自体が観光資源であり都市景観を形成する。またLRTと一体となった都市景観形成を促進することで、都市型観光を生み出している。平成27年の北陸新幹線開通後、セントラムとポートラムの車体は同じものであるので相互乗り入れが出来るようになり、利便性が一段と高まる。移動人口が増えることで中心部の活性化と、富山港岩瀬地区の北前船回船問屋街跡などの観光などにも寄与すると考えられる。
 富山市に事例を見るとLRTは都市型観光として魅力的である。しかし、富山市のように既存の施設が活用できなければ多大な費用がかかる。また運行する事業主体をどうするかも大きな課題ではある。富山市のように上下分離方式でなければ運行事業者を見つけることは難しいと思われる。福岡市において博多駅・天神・臨港地区の回遊性を高めるためにLRT導入が話題となっているが、既存の線路はなく、新たに設置することの課題は重い。この様な情況を勘案すると、新潟市が実験しているBRTは福岡市に向いていると考えられる。整備のあり方を十分検討すればLRTに匹敵する効果を生み出すのではないかと考えられる。
 いずれにしても、富山市の調査において学ぶべきものは、しっかりとした構想を作りリーダーシップを持って進める主体が必要である。残念ながら福岡市にはこの二つとも欠けている。