決算特別委員会意見開陳

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 今年5月に財政局は「福岡市の財政見通し」を公表しています。財政見通しとして、歳入はGDPの伸びから微増としているいますが、国の財政悪化から今後も臨時財政対策債の発行が求められるとし、一般財源の大幅な伸びは期待できないとしています。歳出は医療や介護への負担金・繰り出し金の増加、生活保護・障がい関連の扶助費の増加、更に臨時財政対策債の増加による公債費のの増加、退職者のピークを迎え人件費の増加、公共施設の維持管理経費等の増加を見込んでいます。加えて市民会館の建て替えや体育館の建て替え、地下鉄七隈線延伸など大型事業が予定されており、市債発行が増える状況にあります。そして、財政見通しでは2013年度から4年間、2012年度並みの事業を行うには851億円の財源不足になるとし、2017年以降は、現状のままでは重要な課題や政策に使える財源が無くなるとしています。

 この財政見通しでは2035年までは人口は増え続けるものの若年層は減少し続け高齢者が増えるという予測になっています。当面は人口増であっても高齢化は進み、2035年以降は人口減少が始まります。人口の高齢化・若年人口の減少は福岡の経済を縮小させることつながります。財政見通しではGDPは微増を前提に市税収の微増を見ていますが、既に日本の人口減少は始まっており、高齢社会と共に需要が減退し始めており、日本経済の縮小は始まっています。世界経済状況を見てもまた先行き不透明な状況です。
 世界の経済成長が止まっている原因は2008年のリーマンショックが原因ではありません。リーマンショックは結果であり、金融資本主義がバーチャルな世界で需要を作り出し、実体経済との乖離を拡大させたことあります。技術開発が進み生産性は上がれば供給は需要を上回ります。そして生産性が上がれば必然的に失業者が増え、需要は減退しデフレが加速されます。すでに恒常的に失業者が存在する構造であり、このことを前提に社会を作らなければいけなくなっています。金融資本主義が是正されない状況で不安定な世界経済が継続し、私たちは今後ともデフレ経済の中でゼロ成長が当面続くことを前提に考えなければいけません。

 5月の財政見通しでは「徹底した見直しを行い、投資財源の確保を取り組むことで、「暮らしの質の向上」と「都市の成長」の実現を図る」としており、現在検討している基本計画でも「生活の質の向上と都市の成長の好循環を作り出す」としています。そのために行財政改革政策プランでは①さらなる選択と集中を行う、➁変化に対応できる柔軟で実効性の高い計画、③コンパクトでわかりやすい計画とし、市政の主役者である市民が共感し、目標を共有することで市役所だけの計画にせず、一緒に街づくりに取り組む、としています。しかし、新たな展望を切り開くには何が課題であり、市民が共感できるにはどうすればよいのか、明確にしなければいけません。

 では23年度決算を見たとき、次の新たな展開に繋ぐ展望が見えているでしょうか。「聖域無き見直し」と市長は述べていますが、決算審査で明になったことは過大な事業あるいは必要性に乏しい大型事業についての検証がなされていないことです。
 平成23年度決算審査において臨時時財政対策債の問題が改めて指摘されました。この問題は国の制度の問題ではありますが、自立した地方自治体運営の問題でもあります。市長は財政健全化を進めるために「聖域無く見直しをする」と答弁しています。そして都市の成長を維持するために「ビルトアンドスクラップ」を行い、その財源を生み出すといっています。すでにアウトソーシングを進め、給食調理員など現業部門をなくすとしています。しかし、その前にすべきことがあります。現在進めている事業をまさに「聖域無し」で見直しすべきです。同時に、公がすべきものと市民が担うべきもの、事業者が担うべきものをキチンと整理を行い、公の責任の範囲を明確にすべきです。

 決算委員会の質疑でも示されたように人工島の土地は売れていません。人工島ばかりでなく、香椎パークポートも土地処分が始まって16年経た今日でも1/3は売れ残っています。港湾局は売れない土地処分に4年間で260億円もの企業立地交付金を投じることで土地処分が進むと答弁していますが、企業立地交付金を命綱に港湾整備事業特別会計の収支を合わせる計画は本末転倒の発想です。東京都で臨海副都心になぜ築地の魚市場が移転させられるのか、未だに土地が売れないからです。横浜市の住宅供給公社が精査されることになりましたが、みなとみらい21での土地処分が出来なかったからです。人工島の土地が売れないのは構造的な問題なのです。体育館を人工島に移転させなど市の施設を移転させて土地処分を進めるような、破綻した事業に税金をつぎ込み続ける人工島事業は抜本的に見直すべきです。姑息にも人工島の土地処分のために必要性が既に無くなっている住宅供給公社を使い土地処分を進めるなど、こんなことをいつまでも続けることは許されるでしょうか。

 患者や医師、市民の声を無視して進め、未だに市民にウソを言い続けて恥じないこども病院人工島移転は市民の共感は得られている言えるでしょうか。更に、セアカゴケグモが蔓延している場所にこども病院を移転させることは、こどもの命を考えているとは思えません。財政的視点から見ても問題がある移転計画です。過大な事業計画を作り、毎年17億円の赤字を生み出す計画は適正な事業規模なのでしょうか。しかも日本管財の不正を見逃し、競争のない入札を行うこの様な不正な事業が果たして許されものでしょうか。

 福岡市の水道水の供給量は平均1日40万トン、最大でも日量45万トンです。現時点で日量76万4千トンの供給能力があり、安全係数60%を掛けても45万トンあり,これ以上の渇水対策の必要性はありません。さらに、五ヶ山ダムは渇水容量の貯水能力にも問題があり、洪水対策にも役立たないダムです。佐賀県天然物に指定されている夫婦杉を水没させ、筑前国と肥前国の国境を記した国境石を水没させるなど文化財を破壊し、居住者の生活を破壊してまで建設する必要があるダムではありません。必要が無い五ヶ山ダム建設は直ちにやめるべきです。

 地下鉄七隈線の延伸が国に認可されました。1.4kmの距離、事業費は約450億円とされています。1m当たり3200万円です。厳しい財政状況で、果たして本当に延伸が必要でしょうか。経費対効果を考えれば圧倒的に不採算事業です。既にある空港線と競合する中で利用者がそれほど増えるとは考えられません。LRTなど都市の回遊性を生み出す手立てはもっと他にあります。都市のあるべき将来像としての市民的議論がなされないままに、企業の利権で進められる地下鉄七隈線延伸計画はやめるべきです。

 ゴミ処理計画にも問題があります。焼却工場も過大な事業計画が見直されないまま南部工場が建て替えられようとしています。4工場の施設規模は日量3150トンあり、メンテナンスなどのため稼働率を72%ととすると最大処理能力は日量2,268トン、1年365日とすると年間82.7万トンになります。2011年度の年間処理量は4工場合計62.4万トンです。建て替える南部工場の処理量を差し引いた施設能力は日量2,550トン、年間93万トン、稼働率72%を掛けると67万トンになります。現状で4.6万トンの余裕があり、新たに建設する必要はありません。

 また、東部工場のクリーンエナジーも問題があります。東部工場は福岡市が51%、九電が49%出資して作られています。ところがファイナンス契約で九電に一方的に利益供与する構造になっています。毎年出資金の3%の配当、契約終了する25年後には出資金は全額九電に返却されとともに出資金に対して5.5%の配当がなされる契約になっています。この利益が確保できるよう逆算して福岡市はクリーンエナジーに委託料を払っています。しかも売電額はKW当たり9.2円、販売額はKW当たり19円と差益を生み、九電にとってまさに濡れ手で粟の契約であり、その原資は市民の血税です。これが公正な事業と言えるでしょうか。

 学校給食センターの統合移転は子ども達のことを考えず、身内の都合で無駄遣いするゆゆしき問題です。フッ素の汚染された土地であり、地理的にも不適な場所を土地開発公社救済のために購入しています。教育委員会は、地価が土地開発公社購入に比べ1/3に下がっているのも拘わらず簿価で購入した上金利も負担し、更にフッ素汚染土壌除去費用を負担するなど20億円近い損害を市民に与えています。

 これらの事業を見たとき、来年度以降4年間で851億円の財源不足を見込み、行財政改革を進める福岡市の市政とは思われません。いま検討されている基本計画が目指す、①さらなる選択と集中を行う、➁変化に対応できる柔軟で実効性の高い計画、③コンパクトでわかりやすい計画とし、市政の主役者である市民が共感し、目標を共有することで市役所だけの計画にせず、一緒に街づくりに取り組む、このいま挙げたことは絵に描いた餅です。厳しい財政状況が続く中で財政健全化を進めるには、これまでの事業の評価を市民と共に行い、そして今後の事業のあり方をキチンと作る必要があります。市民生活に重大な影響を与える事業については住民投票で市民の意思を問う、大型事業は「サンセット方式」や「時のアセス」のような仕組みを作る、政策決定過程に公募市民を積極的に参加させる、この様な仕組みが必要です。反省もなく、見直すことなく事業を続ければ、そのツケはいまの市民ばかりか将来の市民に大きな負の遺産を残すことになります。

自立した自治体運営を実現するためには、地域で循環する経済をつくる必要があります。若年層の雇用対策としてOECDでも政府が雇用を生み出す責任があるとしています。いま地域経済を活性化させるためには大きな事業ではなく、いかに小さな事業を多く生み出し地元で循環する経済にするのかです。同時に、雇用を生み出すために市は率先してワークシェリングを進めるべきです。経済は供給サイドではなく需要を創出しなければいけません。地域に需要を生み出すために地域に雇用を作り出さなければいけません。 「生活の質の向上と都市の成長の好循環を作り出す」こと自体は否定するものではありませんが、その原動力は地域で循環する経済をベースにした市民生活に根付いたものでなけばいけません。

 以上、市民の声を聞かない、抜本的な事業見直しをしない、大型公共事業優先の事業を進めてきた平成23年度決算には賛同できません。