福岡市の財政とこども病院人工島移転

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 こども病院の人工島移転問題は①医療の問題、②財政問題、③街づくりの問題、④市民自治の問題

1、日本の財政
 長期債務(2009年12月)
      国  663兆円
      地方 200兆円
      計  862兆円 債務超過ともいわれている
      短期債務を入れると国民の借金は1000兆円を超えている。
2010年度予算案における歳入
    税収 37.3兆円 (46.1兆円) ※()は2009年度予算
    国債 44.3兆円 (33.2兆円)
    その他10.6兆円 ( 9.2兆円)
    計  92.2兆円 (88.5兆円)

 プラザ合意→内需拡大→640兆円の公共事業→バブル経済→バブル破綻後の景気対策
 →地方財政の悪化→三位一体の改革→夕張市破綻→財政健全化法

 小泉内閣の改革は国民生活を破壊し、地方財政を悪化させた 
  ①財政健全化→医療費・福祉の削減(障碍者自立支援法)、国債発行の抑制 
  ②三位一体の改革(地方への財源の移譲、地方への権限の移譲、交付税の削減)
  ③グローバル化経済の推進
  ④規制緩和(派遣法改悪など)と民営化推進(指定管理者制度、PFI、独立行政法人)    
  ⑤平成の大合併 自治体数3229(2000年)から1842(2009年)

   国の財政も健全化が課題→歳出抑制(ムダな事業を削減)と増税(税制の見直し)
   地方財政健全化→財政健全化法
   一般会計・特別会計の負債だけでなく企業会計、三セクを含むすべての負債を対象。
   ①実質赤字比率、②連結赤字比率、③実質公債費比率④将来負担比率
   4指標のいずれかで基準を超えると早期財政健全化が求められ、更に悪化すると「財政再生
   計画」を策定し、国の管理化で財政再建が進められる。
   財政再建団体になると債務返済が優先され、様々な市民サービスは切り下げられ、使用料、手数
   料の値上げなど市民負担が増える。

2、福岡市財政の課題
 福岡市財政も健全化が課題→歳出抑制(ムダな事業を削減)と歳入の確保
1)財政状況
 ①起債発行残高 2004年 2兆7千億円をピークに減少
         2010年 2兆5千億円(見込み)

 ②財政調整基金 1994年 942億円をピークに減少
         2008年度 182億円 頭打ち

 ③財政健全化法の指標
  実質公債費比率 2007年度18.4% 2008年度17.8%
   18%をこえると起債に国の許可が必要、25%を超えると早期健全化団体へ、35%
   を超えると財政再建団体となる
   その他の指標はクリアーしているが、借金が大きいため金利が上昇するとたちまち破
   綻する脆弱性がある。

2)財政健全化に向けて
 ①国の財政悪化の状況は暫く続く
 ②成熟した経済における財政運営(資源・エネルギー問題から高度成長はこない)
 ③少子高齢化の進行、人口減少、今後も扶助費は増え、財政硬直化は進む
 ④将来に向けて活力の維持・発展に向けて選択的投資
  →ムダな事業早める。
  →優先順位を明確にする
 ⑤税源の涵養・地域経済の創造→50年後100年後にいぶし銀のような街に
  自然、環境、歴史、文化、景観を活かす都市へ
  人口の維持・市民が安心してくらせる街に→福祉、教育、医療の充実

3、人工島事業に関わった市長3代記  
 ■桑原元市長
 1)都市膨張政策を展開→市債発行残高1兆1千億円から2兆3千億円へ
  ①百道浜を住宅地から産業用地へ変更
    →よかトピア、ツィンドーム計画、ソフトリサーチパーク
  ②ウォータフロント開発
    →テレポート計画、鮮魚会館、ベイサイドプレス、マリンメッセ、国際会議場
  ③人工島計画
  ④ユニバシアード、地下鉄建設、都市再開発、動物園移転計画、箱もの+景気対策

   2)財政健全化への動き
  3期目、福岡市財政白書を出す。
  →「箱ものの維持管理費は年間100億円に達しており、これ以上箱ものは作れない」

 ■山崎前市長
財政再建と「人工島事業を引き返す勇気を持って見直しする」を公約に当選
  ①人工島見直しを行い、従来通り埋立を続ける
  ②開発志向は替わらず、オリンピック誘致を図る
  ③財政健全化の取り組み
   市債発行残高 2兆2千億円から2兆7千億円へ
        2004年に財政健全化プランを立てる 
        プライマリバランスの黒字化
        歳出抑制と歳入の確保
        市長部局重点予算と局予算
        インセンティブ予算の導入
        市債発行額の抑制
        箱もの建設の抑制
        人員の削減
        三セクの整理・統合
  
 ■吉田市長
  「人工島事業の見直し」と「こども病院人工島移転見直し」を公約で当選
  ①従来通り人工島事業を進め、こども病院人工島移転を進める
  ②山崎市政の継承→「グランドデザイン2011・財政リニュアルプラン」
           事業仕分けを始める
           事業評価制度

 ■福岡市の公共事業を巡る事件
  ①自民党地下鉄パーティ券事件
   福岡市自民党市議団が地下鉄建設業者にパーティ券を割り当てる。
   交通事業管理者が自殺
  ②ケヤキ庭石事件
   西田元市議と志岐元博多港開発社長が架空の事業計画を基にケヤキ600本を1本
   100万円で、五木石4トンを4億円で博多港開発に買わせ損害を与える。
  ③木山総務企画局長贈収賄事件
   筥松第四ポンプ場築造工事に絡みの収賄罪
  ④市議会副議長贈収賄事件
   下水道工事に絡み、あっせん収賄罪
  ⑤下水道談合疑惑
   下水道工事を複数の業者が隔年で受注。官製談合の疑い。
 
4、2010年予算
  一般会計歳出 7,386億円  6.7%増 464億円増
 市税収    2,637億円  2.2%減  29億円減 
 市債発行額    684億円 15.8%増  93億円増
 長引く不況による景気対策、生活保護費の増、少子高齢化による福祉・医療費等が増え
ていますが、市税収は減少しており、起債が増えている。国の借金は09年末で長期債務
663兆円、地方の長期債務200兆円、短期債務を入れれば国民の借金は1,000兆
円を超えている。財政健全化と市民生活を支えることを両立させるためにはムダな事業を
やめなければいけない。

相変わらず経済成長を求める開発優先の政策

 ムダな公共事業ワースト5
 ①人工島新事業 89億円 (毎年100億円程度支出)
   経済状況、社会状況は大きく変化しており、埋立を続けても土地処分は難しく、
   加えて土地処分のためにムダな税金が使われることになる。また、物流も変化しており、
   過大な港湾整備はムダとなる。

 ②こども病院人工島移転 土地代60億円 建物103億円、(移転後は毎年30億
   円の赤字が30年間続く)
   こども病院は2次医療・3次医療を担う救急性が高い病院である。だからこそ時
   間が医療の質であり、交通アクセスの悪い人工島に移転すれば医療の質が低下す
   る。しかし、市民負担は1,000億円を超える。

 ③地下鉄七隈線キャナルシティ経由博多駅延伸 建設費400億円
   天神南駅からキャナルシティ経由で博多駅に地下鉄を新たに造ることは、地下鉄
   空港線と平行した路線建設となり、効率が下がり採算が更に悪化する。天神南駅
   と天神駅を地下街駐車場を利用して軌道を繋げばムダな税金を使わず、利便性を
   高めることができる。

 ④かなたけの里公園 7.8億円
   動物園移転に替わる地域振興策として計画されていますが、従来の箱もの行政の
   発想を変えないといけない。厳しい財政状況に鑑み、もっと違った地域振興策を
   検討すべき。
 ⑤五ヶ山ダム 負担金23.5億円(09年度27億円、08年度37億円、07年度
                  40億円)
   山の山頂に造られる五ヶ山ダムは渇水対策にも洪水対策にも役立たないダム。

5、何故こども病院が人工島に移転させられるのか
 ①山崎前市長、人工島事業について「引き返す勇気を持って見直しをする」公約し当選。
 ②見直しは、従来通り埋め立てしても黒字になると公表。しかし、既に破綻。
  当時の日本興業銀行「このまま埋立を続けても100億円の赤字になる」と融資凍結。
 ③銀行団は融資を凍結、撤退
 ④H13・3月「銀行には決して損はさせない」と山崎前市長が念書を書く。
 ⑤H13・7月 山崎市長は具体的に損失保証を約束
 ・人工島の売れない土地はすべて福岡市が買う
 ・道路や下水道などは福岡市が公共事業として整備
 ・博多港開発が銀行へ返済できないときは福岡市が貸し付けし確実に返済させる
 ⑥H14、人工島事業計画を大幅に変更し、損失保証を実施
 ・人工島の約8割は福岡市が購入
  人工島中央公園(用地費126億円+整備費61億円+維持管理費年1億円)
  住宅地は市住宅供給公社に(銀行に150億円の損失保証)
  H16、埋立が終わっていない第2工区95㌶を399億円で購入
 ・博多港開発への貸付のための予算200億円を毎年計上、H15に85億円を貸付。
 ⑦売れない土地を福岡市が購入するためにこども病院と市民病院を統合して移転する計
  画を進める
 ⑧4年前の市長選挙で人工島事業見直しとこども病院の人工島移転が争点となる
  吉田市長がこども病院の人工島移転を見直しするとして市長に当選
 ⑨吉田市長は従来通りこども病院を人工島移転を進める
  病院経営の一部をPFI方式(PFI方式は既に破綻している)
   何故PFI方式をするのか→病院建設にまつわる利権(建設はすべて委託料に転嫁、
   委託料は定額)
   独立行政法人化→経営が主となり、本来のこども病院の役割が果たせるのか、また市民
           のチェックや現場の意見が反映できるのか疑問

6、こども病院人工島移転は負担増。しかし、医療の質は低下する。

1)人工島移転による市民負担増
①建設費が高い
現地建て替え      用地代       0円
             現地建て替え85.5億円
             計     85.5億円

 人工島移転  用地代   45億円+利子15億円
             病院建設費 103億円
             計     163億円

②将来の市民負担増となる
 ■2008年決算 医療収入   51.7億円│医業支出  53.8億円
          一般会計繰入  2.3億円│医業外支出  1.1億円
          その他収入   1.3億円│
          収入計    55.3億円│支出 計  54.9億円 

          4千万円の黒字  累積赤字31.3億円

 ■現地で努力すれば3年で黒字、立て替えても数億の負担ですむ
 ■人工島移転すれば 年間30億円(一般会計繰入12億円+赤字17億円の補填)の
  負担を30年間で計900億円の負担。実際はもっと負担の可能性

2)医療の質の低下
①こども病院はこども特有の病気に対応するために造られた、2次医療・3次医療を担
  う病院。患者の多くは重篤な病気を持つ子ども。緊急性が求められる。
②緊急性が高い病院だからこそ場所が問題であり、緊急時に措置する時間が医療の質と
  なる。
 ③交通アクセスが悪く、利便性が悪い人工島に移転することは医療の質の低下となる。
 ④医療の集約化が進んでおり、だれでも利用しやすい場所に整備されるべき
 ⑤街づくりの観点からも、交通利便性がわるところに造ることは問題
 ⑥病院としての環境も極めて悪い
 ⑦市中央部に整備することがよりやすい経費でよりよい医療を提供することができる。