こども病院の地方独立病勢法人化、PFI導入撤回を求める

Pocket

 本日9月10日、こども病院の地方独立行政法人化およびPFI導入撤回を求めて申し入れをしました。以下申し入れ文です。

*********************************************

                              2009年9月10日

福岡市長   
吉田 宏様

                   博多湾会議 
                    代表 荒木龍昇
                   こども病院の人工島移転中止を求める会
                    代表 脇 義重

申入れ

Ⅰ 申入れ内容
福岡市にはが市立こども病院について、地方独立行政法人化の手続きを中止し、経営へのPFI導入計画を白紙にもどし、人工島への移転計画を撤回し現在地での建替えを軸に再検討することを求める。

Ⅱ 理由
1.人工島への移転決定は適正手続きに違反する。
2.地方独立行政法人化と人工島移転でこども病院関係者のマンパワーは確実に低下する。
3.PFI方式は先行事例からも破綻は明らか。
4.人工島にまで行って受診する患者は少なく、経営的に厳しくなる。
5.こども病院は、将来的役割から見て市中央部に整備すべき。

Ⅲ 理由説明  
1.人工島への移転決定は適正手続きに違反する。
根拠がない「簡易な試算」(虚偽的試算)によって現在地での建替費用を1.5倍にして現在地での建替案を除外し、試算関係の公用文書を意図的に破棄したうえで、こども病院の人工島移転を誘導・決定した「人工島事業検証・検討チーム」業務を含む福岡市のこども病院建替に関する行政は、憲法31条に根拠をおく適正手続きの保障の精神に背くものです。またこれは主権者である国民がその知る権利に基づいて行政の事務をチェックする権利を妨げています。結局、地方自治の本旨である住民自治をもないがしろにしています。昨年9月、市議会はこども病院建設人工島用地取得議案(以下、取得議案)を可決しましたが、この議決は先述の根拠なき「簡易な試算」(虚偽的試算)に基づくものです。市長からの虚偽的取得議案と議決の不当性・違法性は究明されなければなりません。先述の議決は、福岡市議会が地方自治法100条に基づく調査権限を行使せず「長の市政に対する議会のチェック機能」を自ら放棄した上で行なわれたものですが、市議会の無チェックによる議決を理由に、市長が行政手続的瑕疵はないと主張することは許されません。
また、市民の意見を踏まえ決定・遂行されるべきであるところ、今回の人工島移転は患者とその家族、産科と小児科の医師から移転反対の声を制度的に聞かずに決定されました。これは前述の憲法31条が保障する住民合意という適正手続き精神に反しています。

2、地方独立行政法人化と人工島移転でこども病院の総合的なマンパワーは確実に低下する。
福岡市は、現在の公営企業法の一部適用では医療スタッフの増員は地方自治法の職員定数の制約で困難だとしたうえで、新病院(こども病院)の地方独立行政法人化によって病院事務・事業の効率的・効果的執行が可能になると主張しています。しかし、命を救う医療行政に効率的執行は馴染まないのではないでしょうか。現在のこども病院の赤字は3~5億円なのに、人工島に移転新築したら福岡市は、地方独立行政法人の新病院では毎年17億円の赤字が30年間も続くと試算しています。人工島に移転することによる利用患者数の激減により赤字幅は拡大し30~50億円になると医師から指摘されています。別に一般会計からの繰入金12億円を勘案すれば毎年60億円の赤字が累積されていきます。福岡市が高額医療を優先させ、医療スタッフの給与を削減し、投薬など医療質の水準や医療サービスを低下させることになりかねません。
市民がこども病院に期待を寄せるのは、福岡市の何処からでも重篤化したこどもを連れて行きやすい場所にあること、そして、こどもの命を繋いでくれるための医療水準が高いことです。福岡市民は、病院の効率的運営よりは、こうした小児高度医療を支え大切なこどもの命を救ってきたこども病院を福岡市の宝として、誇りに思っているのです。必要だが不採算となって民間では維持困難で、公共でしかできない医療部門を維持できるのか、果たして高度な医療水準を維持できるのか危惧されます。
独立行政法人化による給与の大幅削減の現実的不安や交通アクセスの不便などにより、中堅やベテランの医師など医療に携わる職員(特に看護師)が人工島でこども病院が開院しても勤務を継続しないことが予想されますし、現に退職を見越した看護師の大量公募が始められています。大量退職はその個人の能力を失うだけでなく、ベテランの経験が次の世代に引き継がれず、チーム枠が大切な医療現場のチーム力の低下、モチベーションの低下につながり結果的にこどもに対する医療の質低下に跳ね返ってくることは必定です。福岡市の誇りであるこども病院という貴重な財産を機能低下させ、失うことになりかねません。このように、こども病院を地方独立行政法人にすれば病院事業は経営優先になり、公立病院としての社会的使命を担うことができなくなります。
今年12月の承継財産・職員引継条例の市議会での制定、来年3月中期目標の議会承認、そして総務省の認可が控えており、市立こども病院(新病院)の地方独立行政法人化は未だ決まったことではありません。以上の問題点を残したままでの地方独立行政法人福岡市病院機構の設立は許されません。九大や国立病院など独立行政法人化した先例の負の側面も吟味し市民合意を得るためには、ここで地方独立行政法人化の行政手続きを中止しなければなりません。地方独立行政法人化によって市立病院の医療現場から「働き続けられる安心と働き甲斐」を、また患者や市民から「だれでも公平に受けられる安全と安心の医療」を奪ってはなりません。

3、PFI方式は先行事例からも破綻は明らか。
滋賀県の近江八幡市に続いて高知市所在の高知医療センターでもPFI方式の破綻が明らかになってきています。経費の圧縮を嫌った特別目的会社(SPC)のオリックスが撤退を表明していると聞く。人工島に箱を大きくして病院を建築し、SPCにもうまみを大きくしてPFI方式にのって貰おうという甘い考えは通用せず、結果的に計画以上の債務が残るだけです。
本来PFI導入の目的は民間のノウハウを活用し、経営を合理化して黒字にするというものです。しかし、前述のように福岡市の計画ではPFI方式を導入しても30年間17億円の赤字、一般会計かからの繰り入れ12億円を含めると実質30億円の赤字が30年間続くことになっています。病院経営は大きな赤字にもかかわらず、委託を受けるSPCは毎年定額で委託料を受け取るため常に黒字となります。
当初、福岡市はPFI方式であれば85億円の節約になると説明していましたが、その根拠はどこにもありません。医療収入に合わせる病院経営が出来ない仕組みになっているのです。その結果、市民負担の行き先はSPCの利益に変わります。SPCに出資する企業や投資家が潤う仕組みなのです。このことは近江八幡市で既に問題となりました。
 また、こども病院が異常に高い建設費にも利権の影が見え隠れします。福岡市の計画では、病院建設はSPCに任せ、30年間賃料を払い、30年後に無料で譲渡されることになっています。病院建設が高ければ高いほど賃料を高く設定でき、SPCの利潤も大きくなります。近江八幡市では、地方債の金利は2%程度であるにもかかわらず、病院建設のためのSPCの借入金利は5.37%と異常に高い設定になっていました。理由は市中の借入金利1.8%にSPCの儲け3.57%を組み込んでいたからです。高い建設に高い借入金利、全て言い値で賃料に組み込まれたのです。ここにも利権の影が見え隠れします。 更に、SPCはより高い委託料を確保するために過大な事業計画を立てます。福岡市で
も現在55億円程度の収入しかないにもかかわらず、人工島に移転すれば、周産期医療を始め救急医療など診療科を増やし、外来患者が増え、入院患者が増え、ベッド利用率も上がり、84億の収入になるとしています。しかし、その根拠は極めていい加減であり、医師の確保のみ通しもないにもかかわらず、過大な計画を立てているのです。また、周産期医療など高度な3次医療が占める割合が増えれば増えるほど病院経営は厳しくなります。高度な3次医療を支えるためには外来患者が増える必要があり、交通アクセスの問題は病院経営に大きなウェイトがかかります。人工島移転は病院経営の実態に逆行する過大な事業計画を立てていますが、たちまち破綻することは目に見えています。このようにPFIは投資ファンドの良い餌食といえます。
 福岡市が6月議会にPFI導入を議会に上程する予定でしたがやめました。近江八幡市などの事例からPFI導入の規模を縮小することを検討すると報道されています。6月議会に福岡市が提案できなかった背景にはPFIの縮小によりうまみがヘリ、PFIを受ける企業や投資ファンドが撤退したのではないかとも言われています。PFIの生みの国であるイギリスの国会でも、保守党が労働党に医療センターでのPFIは公費の負担が大きすぎると問題にしています。こども病院はこどものため、市民のために抜本的な見直しが必要なのです。     
福岡市はPFI方式の対象業務を施設建設など8業務に限定し、経費削減効果を「30年で85億円」から「15年間で17億円」に下方修正した見直し案を今議会に提案しました。しかし、削減の根拠は相変わらず曖昧でこのPFI方式は市民が税金を支払ってもSPCだけが儲かる仕組みの金融計画であることには違いありません。医療の現場には相応しくない利権手法なのです。イギリスではサッチャー政権後PFI実施30年の総括として、資金調達や運営手法に改善の必要性はあるがPFIでやる意味はないということはもっぱらの意見として出されています。福岡市が資金調達し、SPCに資金を貸付、SPCが建設した建物を借り受けるということは全くPFIの意味はないばかりか、市民の負担でSPCを儲けさせるものであり、許せないものです。この際、福岡市がPFI方式を白紙撤回することを求めます。

4、人工島にまで行って受診する患者は少なく、経営的に厳しくなる。
人工島にこども病院が移転すると、福岡市の中西部地区のこどもの医療体制に区は空白ができることは明らかであるが、福岡市はこれを埋めるために対策を採ろうとしている。これがどこまで進捗いるかの懸念も残るが、仮にこれがかなりできると言うことは、中西部に住むこどもの患者さんにとって交通アクセスの不便な人工島のこども病院まで行かなくても済むことになり、こども病院の患者が経ることになります。交通アクセスが悪いところに病院を立地するということは結果的に患者を減らしてしまうという皮肉な結果となります。

5.こども病院は、将来的役割から見て市中央部に整備すべき。
 小児科医や産科医が減り続ける中、医療施設の集約化が進まざるを得ないと判断されこども病院の役割は今後ますます重要になります。東京では出産の7割が大病院でなされていますが、福岡市では3割、長崎県や佐賀県ではほとんどが開業医院での出産だといわれています。しかし、国は医師不足対策として医学生を増やすとしていますが、昼夜を問わない厳しい労働環境にある小児科や産科の志望者が増えるのかは疑問であり、10年か20年後には福岡市に於いても大病院での出産が主流になるとみられています。福岡市の新病院計画にあるようなハイリスクの胎児医療に特化することは出産の現場から見ると現実的でなく、経営的にも負担が大きいと指摘されています。福岡市の医療の将来を考える時、こども病院は市民だれでもが利用できる最も利便性のよい市中央部に整備するべきです。 
 
6.結論
人工島埋め立て事業の穴埋めのために人工島に移転され、地方独立行政法人化と経営へのPFI方式導入が進められると、市立こども病院は医療面と経営面の両面での破綻が危惧され、福岡市が市民の財産であり誇りでもある大切な市立こども病院を失う事態を陥りかねないことから、市長に次のことを求めます。ご回答ください。

1. こども病院の地方独立行政法人化の手続きを中止すること。
2. こども病院経営へのPFI導入計画を白紙にもどすこと。
3. こども病院の人工島への移転計画を撤回し、現在地での建替えを軸に再検討すること。

回答について
1 回答の方法
2009年9月20日までに回答をいただきたい。
2 回答の期日
理由の各号に従って文書で脇宛にe-mailと文書で回答をいただきたい。