2022年8月3日、4日
3日 岐阜市立中央図書館
複合施設「みんなの森 ぎふメデイアコスモス」
岐阜市立中央図書館は岐阜大学医学部・付属病院跡地に市街地活性化として、複合施設「みんなの森 ぎふメデイアコスモス」に設置された。「みんなの森」には知の拠点として「市立中央図書館」。絆の拠点として「市民活動センター」「多文化交流プラザ」、文化の拠点として「230席のホール」「展示ギャラリー」「オープンテラス」が設置されている。敷地には市役所も移転しており、市役所と「みんなの森」の間は広い空間が公園として整備され、キッチンカーやカフェで賑わいを創出している。平成27年7月開館、利用者は翌年平成28年度126万人、令和元年度で累計500万人を達成。
複合施設の設計は「フリッカー賞」受賞者の伊藤豊雄氏が設計、岐阜産の檜を使った木製格子屋根、岐阜の山並みをイメージした外観、自然光や地下水を使った空調などが特徴。諸費エネルギーは同規模建築物の1990年比で50%となっている。総工費約120億円、国庫補助34.1億円、県補助0.3億円、市債59.7億円(内合併特例債55.4億円)、一般財源6.4億円、その他基金となっている。
中央図書館のコンセプト
中央図書館は「ここにいると気持ちがいい」「ここにずっといたくなる」を合い言葉に「滞在型図書館」を目指している。「こどもの声は未来の声」という言葉を掲げ、こどもの声でざわざわしていてもみんなで受け入れ、こどもの育ちを見守る場としての図書館にしている。当初はこれまでの静かな図書館を経験していた利用者にも次第に受け入れられるようになった。移転後の新図書館では旧図書館に比べて、40代以下の利用者が3割から5割程度に増え、全体の利用も貸出件数で8倍、貸し出し冊数で9倍ほどに増えている。60代以上の利用者も当初は少なかったが増えている。
図書館は岐阜市直営。館長は公募。職員は正規職員15名(内司書8名)、会計年度任用職員(フルタイム5人(内司書4人)、パートタイム55人(内司書55人))、計75人(内司書は68人)。所管は「みんなの森」やコミュニティセンター等の施設に設置されていることや社旗教育補の改正を受けて、教育委員会でなく市民局になっている。学校との連携は必要に応じて教育委員会に検討を依頼している。
図書館の取り組み
1)こども司書
司書の仕事や図書館の仕組みを学び、読書を通して生まれた気持ちを周りの人に伝えていける「本と人を結ぶリーダー」となるこどもを育成。小学校4年生から中学3年生を対象に、各小中学校に募集の案内をし、応募者から抽選で20名を選ぶ。毎年4倍程度の応募がある。4日間16講座を開設する。令和2年、3年はコロナのため2日10講座に短縮、対象も少額高4~6年生で実施。
原則16講座中14講座に出席し、こども司書として必要な能力を身につけた受講者に「岐阜市立こども司書認定証」を発行。認定後、こども司書がつくるラジオ番組「小さな司書のラジオ局」に出演する。「みんなの森」にはFMラジオ局の「市民ラジオ局」があり、毎月こども司書が集まり企画会議を行い、ラジオの公開収録を行っている。本の楽しさを自分の声で伝える。普段おとなしい子が生き生きとしているとのこと。
2)ぼくのわたしのショートショート発表会
中高生世代を中心に幅広い人気作家を招き、将来作家を目指す中高生世代の子どもの自作短編集の発表会を開く。発表会はメディアコスモス内の「みんなのホール」で行い、選考された作者が作品を朗読し、作家とステージでトークを行う。ステージの運営は委託業者が行っている。人気作家からの言葉を励みとして、将来の夢実現の礎になる事を目指している。応募した作品は冊子にして各学校に配布している。発表会参加者の名から作家になった人や、中央図書館の司書になった人が出ている。
3)大人の夜学
「岐阜にいながら知らなかった岐阜を知る」をコンセプトに講座を開催。NPO法事との教導事業で開催。岐阜の地域文化や歴史に精通した「その道の第一人者」の話を聞く。人気が高い企画となっている。企画・運営はNPOに委託。講座をまとめたブックレットを作成、分館や図書館には付、1冊300円でも販売している。
4)学校との連携
学校との連携について、学校司書の相談に司書を学校へ派遣している。本の良さを見直してもらう取り組みとして、子どもの悩みに司書が返事をする取り組み、「ほんのお宝帳」を低学年の子どもに配布、本の感想、本の紹介など書いてもらい、終了するとスタンプをし、冊数が一定たまるとバッチを贈呈する取り組みをしている。学校との連携や「こども司書」の取り組みなどで、こどもの図書館利用は旧館時と新館時を比べると、7歳~12歳(小学生世代)のこどもの利用は約2000冊であったものが約4万冊、13歳~15歳(中学生世代)のこどもでは340冊ほどが8,800冊ほどと増えている。
5)分館との関係
分館はJR岐阜駅近くにあり、県内外の通勤者のニーズに対応するとともに、岐阜市のアパレル産業の中心地であったことから、アパレル産業に関連したファッションライブラリーを設置している。
各図書館は公民館やコミュニティセンターに設置されており、地域住民が利用している。
6)本で人と街をつなぐ
商店が書棚を設置して読書ができるようにしている「ぎふまちライブラリー」を現在10店舗で実施。柳ヶ瀬商店街では商店街の施設で中央図書館と連携して毎月本を入れ替える「としょかん×まちライブラリー」を実施。
7)その他
お話かなどメディアコスモスとの連携したイベントをしている。ブックフィルムについては業者が撤退し,福祉事業所の障がい者が担当している。
所感
図書館が子どもの育つ場として活用されている。複合施設に併設されていることと、「滞在型図書館」を目指し、「子ども支所」「ぼくのわたしのショートショート発表会」「大人の夜学」など年齢に応じた取り組みが「本とまちをつなぐ」成果を生み出している。中心市街地活性化としての岐阜大学・付属病院跡地利用であるが、本が暮らしに根付き街の活性化に繋がっていると思えた。
4日 大阪市教育委員会
1、大阪市教育振興基本計画
1)大阪市教育振興基本計画は総合教育会議において市長と教育委員会が協議して市長が策定し、教育行政基本条例により市民にパブリックコメントを行い、市議会の議決を経ている。
2)計画年数は市長の任期を勘案して4年としている。教育の大綱は市長が策定するとなっており、市長が替ると教育振興基本計画も変わっている。現在の計画は2011年に橋本市長に代わり2013年に策定され、2017年に吉村市長の時に改定され、2021年に現計画が策定された。策定の範囲は修学前教育、小学校及び中学校、生涯学習としている。
3)施策推進における基本的な方向
2030年以降の教育を構想する
➀安心安全な教育の推進
②未来を切り開く学力・体力の向上
③学びを支える脅威環境の充実
4)大阪市の主たる課題
➀不登校の増加および外国がルーツのこどもが増えている
・不登校児童の受け入れ校として、教育支援センターでの学習とは別に新たなカリキュラムを持った特例校(文科省に申請)を設置する。こどもが多様な学習の場を選択できるようにする。
・多様な人との交流の場として夜間中学を併設。不登校児童を夜間中学に受け入れるかは未定。
②学力が全国平均より低い
・ICTの活用、ビッグデーターを使ったエビデンスを生かす学習支援
・大学との連携で教員の資質の向上
・学校の平均学力を基準にした教員配置から学力が低いこども比率を基準にした配置へ
・小中学生からのリベラル・アーツ教育
総合的な言語活動を通して読解力を中心とした思考力・判断力・表現力等を教育
2、大阪市総合教育センター(現在基本構想段階)
1)大阪市教育現場での課題
➀教員の50%が採用10年未満、教員の指導力向上が課題
②全国学力・学習状況調査の平均回答率が全国平均水準以下
2)大阪総合教育センターの位置づけ
課題解決に向けて大阪教育大学及び企業との連携を図る。将来は連携先として大阪教育大学以外の大学も視野に入れている。
➀大阪教育大学と連携し、教員の育成・資質向上
②産官学の連携による教育データの分析と活用・教材の開発、拠点校・連携校の成果を全市に展開。
③教員がエビデンスを活用してこどもを指導できるようにする
④指導主事を大学講師として派遣し、大学生からの教員の理解を深め人材の確保を目的
3、事業の進捗状況
現在基本設計中、実施設計を経て2024年に竣工予定。場所は大阪教育大学内に設置(14億円)、財源は現教育センター跡地の売却益による。
所見
不登校対策や学力支援の課題は共通している。特例校設置については斬新な取り組みといえるが、どのような学校にするのか、こどもが主体的に授業をつくるなどフリースクールのようなものであれば期待ができる。今後の経緯を見たい。
大学と連携して教員の確保と資質の向上は可能かもしれないが、基本的には教員を増やし、働き高い格を進めなければ解決できないのではと思われる。
拠点校の教育データの分析と活用についてはDX社会を先行する形で取り組まれている。課題はこどもの個人情報保護や教員の管理強化に繋がることの弊害が懸念される。また、エビデンスも必要であるが分析は意図する者によって結果がつくられる問題もあり、また数字では見えない部分があることを踏まえた取り組みが必要と思われる。