他都市調査(宮城県、八戸市)

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日時 2022年4月26日(火)、27日(水)

場所 宮城県、八戸市

26日(火)宮城県県議会

説明員 臼井徹水道経営専門管理監、長山恒紀技術主幹

1、調査の目的

 水道事業は人口減少などで全国的に事業の経営環境や管路の更新の負担が大きな問題となっている。このような中で水道法が改正され、水道事業のコンセッションが認可されることとなった。宮城県が2022年4月1日から実施している上・工・下水道のコンセッションについて、事業の経緯、事業の枠組み及び事業の課題等について調査。

2、事業の経緯

 人口減少及び節水型生活機器の普及などで水需要が減少し水道事業の経営環境が厳しくなっており、平成26年度から27年度において「宮城県企業局新水道ビジョン」等を検討し、「公共性を担保しつつ民の力を最大限活用/長期・包括・官民協働運営」の歩行を確認。平成28年度から29年度に「宮城県上水・工水・下水一体型管理運営検討懇話会」、「宮城県上工下水一体型管理運営検討会」を開催し、事業スキームを決定し事業概要を策定・公表した。平成30年度シンポジウム及び民間運営権者向け現地見学会を実施、宮城県PPP・PFI導入調整会議において水道法改正を条件に実施が適当との結論を出した。宮城県が水道法改正を求め、平成30年12月17日に水道法改正が成立し、政策・財政会議で機関決定した。

 平成31年度から令和2年度においてPFI検討委員会において事業制度を決定、PFI法に則り実施方針を条例制定した。その後1年掛けて運営権者を公募し、令和3年3月17日に優先交渉権者を「メタウォーターグループ」に決定した。同年6月定例議会で運営権の設定にかかる議案を提案・可決、同年11月に厚生労働大臣から水道施設の運営権設定に係る水道法の認可を取得し、同年12月特別目的会社「株式会社みずむすびマネジメントみやぎ」に運営権を設定・実施契約を締結した。令和4年4圧1日から事業が始まっている。

 事業の制度設計するに当たり海外の事例を検討した。第1点は事業開始後の経営破綻を防ぐため、事業計画の適正性、事業実績や実施体制を含めた評価を行い、事業継続措置を要求、これらを外部有識者からなる「PFI検討委員会」で審査・評価した。第2点は適切かつ確実な事業運営を確保するため、運営権者によるセルフモニタリング、県によるモニタリング、第三者によるモニタリング(経営審査委員会)を行うことで、監視・モニタリング体制を充実させる。第3点は料金改定条件を明確化(需要変動、物価変動、法令等変更)し、議会で決定するとした。水道事業の運営権者と施設の所有権は宮城県とすることで公的責任を明確にしている。

3、事業の対象

 事業対象は県が水道水を供給している大崎広域水道事業及び仙南・仙塩広域水道事業(25市町村)、工業用水道事業(74事業所)、広域水道事業と事業エリアが重なる流域下水道事業(26市町村)としている。上・工・下水道事業のエリアを重ねることで、受託運営権者が人員や施設整備を効率的に運用できることでコストダウンが可能となるとしている。具体的にはエリアを広域水道事業の2エリアに分けて管理運営するとしている。

4、事業の枠組み

 具体的には施設の運転管理、維持管理・更新は運営権者が行い、管路の維持管理・更新は県が行う。利用者への料金額の決定及び使用料の徴収は県が行い、運営権者へは県が支払う。事業契約機関は20年間で、市町村の人口推計を基とした事業計画で入札されていることから、基本的に20年間の契約事業費は変更されないとしている。運営権者の収入は市町村の上・下水道利用量による料金収入と工業用水利用量による料金収入になる。市町村への供給する水道料金単価は、管路の維持管理費(県の事業)+施設の管理運営・維持・更新費(固定・運営権者)となる。

運営権者は管理・運営・施設機器の更新にかかる費用をどれだけ効率化できるかが鍵となる。経費節減のために検査の手抜きがないよう水質検査について要求水準で法定検査の確保を求めており、運営権者が独自に検査項目、検査頻度、目標値を追加している。県は市町村へ給水する受水漕で定期的なモニタリングおよび抜き打ち検査を実施することで水質の確保を図るとしている。災害時の対応は県が主体となって国及び市町村の対応を行い、災害復旧・復興は県が主体で行う。

 今後契約期間の20年間は管路の維持管理・更新が水道事業の主たる業務になる。施設管理費が基本的に20年間固定化されるため、市町村の利用料金は管路の維持更新にかかる費用が基本となり、コンセッションの予定削減見込み及びと予定価格の差益337億円が今後の水道事業において起債がしやすくなるなど経営負担軽減になるとしている。料金改定は5年ごとになされているが、改訂に当たっては県と市町村の協議を経て経営審査委員会の答申を受けて議会で議決する。

5、運営権者の監視体制

公営企業の設置等に関する条例に基づき、上・工・下水道事業コンセッション事業に係る経営審査委員会を設置し、経営審査委員会は中立的な立場で客観的な評価・分析を行い、県及び運営権者に意見を述べ、県及び運営権者はその意見を最大限尊重するとしている。経営審査委員会は運営権者のセルモニタリング及び県のモニタリングを審査、予測困難な状況変化に起因する運営権者授受額の定期及び臨時の改訂内容の審査、市町村等の利用呂金の内容の審査、改築計画の審査、運営権者が更新した設備の事業期間終了時の残存価値の査定内容の審査、県と運営権者間の紛争内容等の審査を行う。

 経営審査委員会の構成は10名内とし、上下水道関係識者、経済・経営識者、会計・法務識者、市町村等から構成している。委員の任期は3年、必要な場合は臨時委員を置くことができる。開催は年2回とし、必要に応じて臨時に開催する。

 運営権者の財務状況や水質のモニタリングなど、事業の運営状況を定期的に県議会に報告することを条例に定め、ホームページで公開する。また、運営権者との契約に情報公開取扱規程を定めることを入れ、本事業に関する情報公開を行うことで、事業の透明性を確保している。

6、技術の継承について

 運営権者は代表企業メタウォーター(株)外9社で構成するSPC「株式会社みずむすびマネジメントみやぎ」である。SPCと同じ構成の企業が出資し新OM会社「株式会社みずむすびサービスみやぎ」をたちあげ、維持管理業務は新MO会社に再委託する。新MO会社は20年間のコンセッション事業終了後も存続させ、上下水道の維持管理業務を受託できる会社とすることで、地域における技術の継承と人材の育成をするとしている。事業従事者の構成は269名、その内SPC45名、新MO会社243名(SPCからの派遣・兼任19名)となっている。新MO会社の採用はSPCからの出向約2割、上下水道施設維持管理業務からの転籍約4割、新規採用約4割となっている。運営権者選定においてこの点が評価されたという。

所見

 宮城県におけるコンセッション事業は、県が管路及び施設を保有し、管路及び施設の管理運営及び維持更新をおこない、料金設定権も有する民営化ではない。コンセッション事業にすることでのデメリットを回避できるようにスキーム検討を繰り返されたことがうかがえた。海外の事例を検討し、県民に不安を与えないよう県の事業責任を明確にするために施設の所有及び事業主が県であるとした。管路の維持管理・更新は県が行い、施設の維持管理・更新を運営権者に基本20年間の定額で契約した。施設の管理運営及び更新については人口推計を基に需要計画を立て、20年間の運営権の額を原則定額とした。利用料金は管路の維持管理・更新費と定額の施設費で構成され、料金額は県が決める。県が直営で実施した場合の20年間の想定額と運営権売却による差額337億円は今後の管路の維持管理及び更新に要する資金計画に活用できることとなっている。事業の透明性を確保するために第三者の経営審査だけでなく、県議会への定期的な報告や運営権者の事業に対する情報公開を制度化したことは評価できる。

 管路の維持及び更新を含めて民営化し、料金設定も運営権者に渡すことは、水道水の安全性や事業の安定性、水道料金高騰の問題など、海外の事例の検討から完全な民営化は問題が大きいと判断している。管路の維持管理と上下水道事業を切り離し、費用削減対策として上・工・下水道施設の一体化して民間活用を図った。しかし、実際に経費削減に繋がったかの検証は15年後から検討を開始する予定とのことだが、結果的には20年後しか分からない問題は残る。

また、施設の維持管理及び更新費が削減でき管路整備事業費の確保をし易くなったとしているが、施設や管路更新時にダウンサイジングを進めるとしても、今後管路更新費用が増えることから水道料金は値上げ幅を抑制できても値上げは避けられない。人口減少が続くと考えられることから上下水道事業は今後も厳しい状況が続くと考えられ、県から上水を供給されている市町村において、過疎地における上下水道事業の在り方について、簡易水道や合併浄化槽などへの切り替えなどを検討する必要があると考える。料金に関しての検討は今年度からスタートし、来年(2023年)夏に議会に諮り、再来年(2024年)には料金改定が行われる。予測としては据え置けない状況との見解を示された。(コンセッション事業の経営全体に関しては知事部局)

 今回の事業の枠組みは地域での技術の継承や人材育成が進み、地場企業の技術力向上や地域での雇用確保が期待できる。他方、県職員の技術の継承及び人材の確保がされなければ、施設や管路の整備事業において基本設計や検証が民間任せになる恐れがあり、結果として県民に損失を与えることが危惧される。

27日(水)八戸市

説明員 榊原由季まちづくり文化スポーツ部文化創造推進課副参事、高森大輔八戸市美術館副館長

1,目的

 アートによる街づくりが各地で取り組まれており、福岡市でも取り組みが始まっている。施設整備だけでなく、市民やアーティストとの協働の在り方、街づくりの方向等について調査をした。

2、取り組みの経緯

 2005年前小林市長が「多文化都市八戸推進会議の設置」をマニフェストに掲げて当選。多文化とは「市民の多種多様な文化」と位置づけられ、市民の文化芸術活動を進めることで、経済や教育、福祉など幅広く街づくりに生かすとした。2006年に多文化都市推進に関する施策の総合的な計画の策定に関し必要な調査等を行う市の付属機関として、学識経験者や文化団体代表、文化芸術関係者及び公募市民等から構成する「多文化都市八戸推進会議」が設置された。2007年に「多文化都市八戸推進のための提案書」が出された。文化芸術活動を推進し街づくりに生かすため、2008年に文化政策担当部門を市長部局に移し、スポーツ振興と統合して市民生活部に「文化スポーツ振興課」を設置。また、市民や市内文化団体などが主催する先駆的・実験的で創造性にあふれた文化芸術活動を支援する助成金制度(上限10万円)が創設された。

 2009年、小林市長2期目に「アートのまちづくり」「はっちを核とした街の演出」をマニフェストに当選。「アートのまちづくり」として文化芸術やアートが持つ創造的なアプローチで社会に関わることで生まれる交流を生かし、地域の課題への取り組みや街の魅力を発信する取り組みがなされた。具体的には2011年から「南郷アートプロジェクト」としてアーティストが過疎化・高齢化した南郷地区(2005年合併)で地域の風習や芸能を題材としたダンス映画を地域住民とともに作成し上映することで地域に新たな交流を生み出し活性化させた事例、八戸工業大学の企画で八戸の工場地帯をライトタップしてクリエイティブな視点で楽しむ「工場アート」として紹介、講義、課外活動、サークル活動の3本柱で街おこしをした事例がある。

2009年に「八戸市芸術文化施設連絡協議会」を設置し、2010年「多文化都市八戸推進会議」から「はちのへアートのまちづくり提案書」が出された。文化政策とまちづくりを一体的に運営するため、「まちづくり文化観光部まちづくり文化推進室」を設置、美術館の所管を教育委員会から「まちづくり文化推進室」にした。2011年中心市街地及び市全体の活性化を図る新たな交流と創造の拠点施設として「八戸ポータルミュージアム「はっち」」が開設した。

 「はっち」に2011年東日本大震災の時には避難所として利用された。2013年に設立された「創造都市ネットワーク日本」にも設立当初から参加した。

 2013年小林市長3期目、「文化のまちづくりビジョン策定」「写真のまち八戸」「アート空間の創出・アートイベント開催」をマニフェストとして当選。スポーツと文化のまちづくりを進めるとして「まちづくり文化スポーツ観光部まちづくり文化推進室」に改組した。2014年には八戸市のアートのまちづくりが文化芸術創造都市部門において文化庁長官賞を受賞。

 美術館が老朽化いていたことから市民からの新美術館建設の陳情が議会に出され、議会は全会一致で採択した。これを受けて2016年新美術館建設推進室が設置された。文化による都市の活性化としてアカデミックな本など一般書店では取扱いがあまりされないものを販売する市営の「八戸ブックセンター」を開設。日頃目にしない本との出会いによる新たな文化芸術への関心を生み出す場としている。

 2017年「はちのへまちなかアートラボ「Co.部屋(コベヤ)」」を中心街に開設、中心街へ文化芸術活動の施設を集積させ、中心街活性を進めた。小林市長4期目のマニフェストとして「新美術館の建設促進」「市民参加型アートプロジェクトの推進」を掲げた。

2018年街中の「庭」のような役割を担う「マチニワ」を基本的コンセプトして、屋根付きの広場として建設。地区全体の魅力向上と賑わいの創出、回遊性の向上を図り,中心部の活性化を進めるとした。(下図「マチニワ」)

 2021年新美術館がオープンした。同年、市長が熊谷新市長となり、「まちづくり文化推進課」は「文化創造推進課」になって新美術館内に移転した。「八戸市文化のまちづくりビジョン」の推進期間が終了したことと、「文化芸術基本法」が地方の文化芸術に係る計画策定を義務づけていることから、「はちのへ文化のまちづくりプラン」(地方版文化芸術推進基本計画)を策定した。新美術館の建設は「はっち」での文化芸術活動がベースとなって進められた。新美術館の完成で、中心市街地での文化施設の集積が進み、文化芸術活動による中心市街地活性化が進んだ。今後、十和田市や青森市など周辺自治体にある美術館との連携で文化芸術活動による人流・物流の拡大を図っている。

2、「はっち」及び新美術館での多文化都市推進の取り組みついて

1)「はっち」

 「はっち」は市直営で運営されている。「はっち」は市民が気軽に集い、イベントの会場、文化芸術の展示・発表の場として、市民の多様な活動を支援し、アーティストとの創造的な出会いの場や地域の伝統や文化をアーティストともに街づくりに生かす場としてきた。「はっち」には宿泊施設もあり、アーティストが長期に宿泊して活動ができる。専門職としてコーディネータを配置し、様々な活動集団・個人、アーティストなどとの連携の支援や活動の支援をしている。

 中心市街地活性化アートプロジェクトとして「はっち」でのイベントを契機に八戸市へ移住してきたアーティスト山本耕一郎氏を中心に市民とともに「まちぐみ」プロジェクトが実施されてきている。「まちぐみ」プロジェクトは「あしたのまち・くらしづくり活動賞総務大臣賞(2021年)」受賞など活動でいくつも受賞している。

2)新美術館

 旧八戸美術館は昭和44年に建設された旧税務署庁舎を用途変更して昭和61年に美術館として開館した。郷土ゆかりの作家を中心に約2,800点を超える作品を所蔵。所蔵品の中には、昭和31年から50年代にかけての市内中学校で取り組まれた教育版画も含まれており、アニメ作品「魔女の宅急便」に使われたものがある。収蔵作品の展示、企画展や市民の作品発表の場とし使われていた。

 市民から新しい美術館建設を求める声があり、新美術館を建設し、「アートの街づくり」の中核施設として美術館機能を拡充するとともに、施設の老朽化、耐震性、展示空間等の問題を解決するとした。新美術館を建設するにあたり、「はっち」での運営を生かし、展示機能中心でなく、「もの」や「こと」を生み出す新しいかたちの美術館として文化創造と八戸市全体の活性化を図るとした。美術館の構造もこの考えのもとに建設されている。美術館は直営で運営され、専門職の学芸員が配置されている。

 新美術館のビジョンとして、「種をまき、人をはぐくみ、100年後の八戸を創造する美術館、出会いと学びのアートファーム」が掲げられ、美術館の事業は①市民やアーティストによる創造する場「アートセンター機能」、②文化とまちを創る市民とアーティストの共育の場「エディケーション機能」、③美術館機能、の3機能で構成されている。新美術館のスペースもこの構成に基づいて設計されており、市民やアーティストが自由に使える。部屋の配置は図のようになっており、活動に利用されていない時には市民が自由に使える居場所としてのジャイアントルーム(図の1)、美術品の展示室(図の2)、ダンス・演劇・演奏会・展示等多様な活動に使える空間、研修・会議の部屋、アーティストの作品制作の部屋、八戸学院大学のサテライト教室などとなっている。施設の利用は登録制であるが、ジャイアントルームは空いている時は特にルールはなく誰でも自由に使える。副館長は「市民の創造の芽を摘まないように運営している」と語っている。

 美術館の運営も誰でもが気軽にアートに触れられる機会を提供する「展覧会」と、市民とともにアートを介して出会いや学びを発信すする様々な「プロジェクト」が展開されている。美術館活動に主体的に関わる市民を「アートファーマー」と呼び、アートを通して地域社会づくりを考えたりアーティストとの創作活動に取り組んだりする「アートファーマープロジェクト」が実施されている。応募したアートファーマーとピアニスト・演出家の向井朋子さんと企画・上演する「gift」、応募したアートパーマ-が八戸美術館の建築の特徴や魅力を学び、それぞれの視点で美術館建築ツアーガイドするプロジェクトが取り組まれた。

 「学校連携」として小学校・中学校・高等学校との連携で、美術館の鑑賞見学だけでなく、各校種の学校教員、学芸員、専門家が一体となって「学校連携プロジェクトチーム」を美術館から学校へ広がるがプログラムを実施している。オープン前の美術館を使って、「学校連携プロジェクトチーム」と生徒が一緒に「大きな絵」の制作、小中高の生徒が共通のテーマで作品を制作する、生徒と共に美術館新聞を制作するなどが取り組まれた。これまでの学校教育現場での取り組みだけでなく、美術館との連携で創造的な教育活動が作られている。現在「学校連携プロジェクトチーム」に参加している学校は小・中・高校86校の内15校が参加している。美術担当の教師は数校を兼任しているので、教育現場での取り組みはもう少し多いのではないかと言われている。

3、「はちのへ文化のまちづくりプラン」

 「八戸市文化のまちづくりビジョン」の推進期間が終了したことと、「文化芸術基本法」が地方の文化芸術に係る計画策定を義務づけていることから、「はちのへ文化のまちづくりプラン」(地方版文化芸術推進基本計画)を策定した。「八戸市文化のまちづくりビジョン」を継承してこれまでのアートの力による地域づくりと文化施設を中心市街地に集積させることでの中心市街地の活性化を進めて来た基本的な方針は大きく変わっていない。人材の育成強化、文化財の保全・活用の推進の強化、官民連携の強化、青森アートミュージアム5館との連携や三陸国際芸術際など近隣自治体との連携の強化と国際交流の強化、企業メセナなど資金確保等となっている。人材の育成強化と八戸からの発信を強化することで「アートのまちづくり」を更に発展させる計画である。他方、官民連携の強化の文脈ではこれまでも文化施設の指定管理制度の導入が進んでいるが、今後「はっち」や美術館も検討の対象になることがある。

所見

 八戸市の「アートによるまちづくり」は、市長選挙のマニフェストで掲げられ、市長による政策推進によるものが大きい。文化芸術振興策の基本的な視点に、「多文化=市民の多様な文化芸術活動」と位置づけ、市民が郷土の文化芸術を尊び、一人ひとりが主体的に創造力を発揮できるようにすることあることがすばらしいと感じた。市民が文化や芸術の鑑賞だけでなく、日常生活で主体的に様々な文化芸術活動をして発表し、更にアーティスとコラボして地域の活性化に生かしていくという発想は学ぶべきものがあった。これは「はっち」や新美術館が直営であることや専門職の職員が「多文化都市推進」の理解があることが大きいといえる。市指定管理制度では市民に対して受託者は市との契約の範囲でしか対応できず、市民のニーズに応えることや創造性を育てることはできない。「はっち」や美術館が直営で運営していることや支援する専門職員を配置していることが大きい。

「はっち」と新美術館が市民の多様な文化芸術活動と創造性を生み出す中心的な活動の場であり支援の場であるとともに居場所になっていて市民センター機能も果たしている。市民の様々な表現する力を育て、多様な市民間やアーティストとの交流の場をつくり、教育の場や福祉の場にも文化芸術の力を広げようと試みられている。八戸の取り組みは中心市街地の活性化のみならず、市民生活の質の向上としてウェルビーイングが実現されるまちづくりが見え、福岡市においても文化芸術振興の在り方として学ぶものが多いと感じた。

また、中心市街地に文化芸術活動の場を集積することで賑わいと回遊性が高まり、民間の文化芸術施設や商業施設の立地が進み、中心市街地に空洞化にブレーキがかかっている。今後人口減少が進む中で、文化芸術活動の質の向上と近隣自治体との連携、民間との連携による人流・物流を大きくしていくことが求められている。生活の質や幸福度というのは、外からは見えない。文化芸術を生み出すきっかけづくりとして八戸ブックセンターを直営で持ち、図書館機能と読書環境を充実させる、また、小中高大学高専との連携など、まち全体での共育の実践で、質の向上を図る本気度が感じられた。市民を巻き込み多文化多様性をまぜこぜにして、能動的な市民を生み出す仕掛けがあるまちづくりはとても素晴らしい。市民一人ひとりが持つ力の発見や能動的活動、そして達成感なども充実し、幸福度が増すことにつながる、アートによる好循環の構築とも感じた。

 課題としては市民の周知がまだ十分でないことや、中心市街地へのアクセスを整備していく必要がある。誰もが文化芸術に触れる機会を増やすために、公共交通を活用した人口減少に見合った取り組みが求められる。また、今後「はっち」や美術館の指定管理制度が導入される可能性があり、「アートによるまちづくり」に支障が出ることが懸念される。