3月30日第3回住民訴訟において、同意のない名簿提供が地方自治法違反であるについて意見陳述を行いました。
地方自治は敗戦後1946年に新たに定められました。旧憲法下では地方自治体は国の機関でしたが、新憲法において第8章「地方自治」が設けられ、「第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」、「第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」。「第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」としています。また、憲法前文に「主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。」とあり、国家の主権の主体は国民であることが明記されました。このことから、地方自治は一定の地域共同体の自治、つまり主権者の主体である住民による自己統治にほかなりません。地方自治は住民自治と団体自治から構成され、住民自治は一定の地域社会の公的事務を住民みずからの意思に基づいて自主的に処理し、団体自治とは国家から独立した法人格を持つ地域的統治団体の設置を認め、地域社会の公事的事務を処理することです。それゆえ、国の恣意的な権力支配に対峙する民主主義的統治機構として設置されていると解されています。
しかし、地方自治が憲法に定められたにもかかわらず、国は機関委任事務制度や法により地方自治を阻害してきたことから、地方自治体から地方分権改革が求められてきました。1995年5月に地方分権推進法が成立、同年7月に地方分権委員会が設置され、1999年7月に地方分権一括法が成立しました。地方分権改革では国と地方の役割を明確にし、出来るだけ国の関与を減らし、税源移譲を進め、地方自治体が自主的、自立的な行政を行うことができるようにするとしています。地方自治法には「第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。第一条の二の② 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」と記されています。地方分権改革により、国がすべきことを地方自治体が委任を受けて行う事務については法定受託事務、地方自治体が自主的、自立的に地域社会の公事的事務を処理する事務は自治事務に整理され、法定受託事務は法律に明記することとされました。
2020年2月7日、福岡市個人情報保護審議会目的外使用等審査部会において、市は「ご指摘の通り明確に法令で定められてないというのが,今回私どもも一番苦慮したところである。」「法律で明確に定められ,閲覧だけということになっているため,現時点で個人情報を提供できる根拠としている」「法律上,明確に提出せよということではなく,例えば,法令で定める事務の遂行のために必要である場合に資料の提出を求めることができるといった,自衛隊法施行令と同様の表現の法令がいくつかある。そういった場合に,依頼を受けて包括的に対応ができないかということでの諮問である。個人情報保護の観点から,個別に判断が必要であるというのも,当然ではあるが,こういった包括的なものができるかどうかを一応確認させていただくという趣旨で諮問させていただいた。」と述べています。地方分権改革において国は地方自治体に委託する事務は法律に明記するとなっており、法律に明記せずに要請することは間接的な国の圧力であり、地方分権の趣旨に反し違法な行為といえます。これまで福岡市が法に明記されていないとして住民基本台帳の閲覧にとどめていたものを、2019年に安倍元首相が自民党大会で「新規隊員募集に都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態がある。この状況を変えようではないか。憲法に自衛隊を明記して違憲論争に終止符を打とう」と述べたことを受け、高島市長がこの発言を忖度して、名簿を提供するとしたことは、地方分権改革の流れを自ら否定するものです。
住民基本台帳法、市町村長等の責務には「第三条4項、この法律の規定により交付される書類の交付により知り得た事項を使用するに当たつて、個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」とされ、また、個人情報保護法において、第三者提供に際して本人同意原則(27条1項、28条、31条1項)、利用目的の通知の求め(32条2項)、開示請求(33条、76条)、利用停止等請求(35条、98条)、目的外利用・提供に際しての本人同意原則(69条2項1号、71条1項)等、自己情報に対するコントロールの仕組みを導入しているとされています。これらのことから、個人情報保護は重要な自治事務であり、厳格な運用が求められます。
本件では、個人情報の提供を受けなくても自衛隊員の募集事務にはなんら支障はなく、ポスティングのために個人情報を同意もなく提供することは「個人の基本的人権」を侵害することになり、同意がない個人情報の提供は住民基本台帳法、地方自治法、個人情報保護法等に違反します。3万人余りの個人情報がポスティングにどのように使用されているのか実態は全く分からない上、協定通りに厳重に管理され、使用後に廃棄され、情報として自衛隊に保有されていないことについて不明であることは、住民基本台帳法第3条の4項「この法律の規定により交付される書類の交付により知り得た事項を使用するに当たつて、個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」に違反し、地方自治法第1条の2「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として」に違反します。
また、自衛隊は2015年安保関連法成立以降大きく変容しており、米軍との一体化が進み、またオーストラリア、フランス、英国など他国の軍隊と国内外で軍事訓練をおこない、国際的な紛争に巻き込まれる蓋然性は高くなっています。集団的自衛権を行使することを容認する現政権下において、自衛隊に公益性があるとは認められません。また、2016年に南スーダン・ジュバにPKOとして派遣された陸上自衛隊が戦闘に直面したこと、その後PKOとして「文民保護」が重要な任務となってきたことから、PKOに派遣されるとなれば自衛隊員は生命の危険が生じる蓋然性が高くなり、同意がなく名簿提供することは「個人の権利利益を侵害する」ことになります。同意を得ない名簿提供は地方自治法、住民基本台帳法、個人情報保護法、福岡市個人情報保護条例に違反します。
情報化社会が進む中で、ますます個人情報保護が必要となっており、恣意的な運用は許されません。公正な裁判を求めて意見陳述を終わります。