6月4日に自衛隊募集のために18歳22歳の市民の名簿提供に係る費用について違法な支出であるので住民監査盛況を行いました。監査請求は受理され、7月14日に申立人および市の意見陳述がありました。市の意見陳述は従来通りの主張で、法定受託事務都市問題はないとしています。私と脇さんが意見陳述しました。以下私の陳述です。
意見陳述書
2021年7月14日
18歳および22歳の市民の個人情報を提供することは法定受託事務ではなく、また公益性はなく、また地方自治の本旨にも反するもので、名簿提供に係る費用は違法な支出に当たり、措置請求するものです。
1、まず、18歳および22歳の市民の個人情報を提供することは法定受託事務ではありません。
福岡市はこれまで18歳および22歳の市民の名簿を自衛隊員募集のために自衛隊に渡すことは法定受託事務とし、法的根拠について「自衛隊法第97条 都道府県知事及び市町村長は,政令で定めるところにより,自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う。」「自衛隊法施行令第120条 防衛大臣は,自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは,都道府県知事又は市町村長に対し,必要な報告又は資料の提出を求めることができる。」をあげています。しかし、自衛隊法97条は自衛隊員の募集の事務の一部を行うことを求めており、施行令は必要な報告や資料を求めているに過ぎず、18歳および22歳の市民の個人情報の提供を法定受託事務として規定しているわけではありません。2020年9月19日の本会議における私の質問に、下川局長は「自衛官等募集事務にては、法定受託事務として可能な範囲で協力する必要がある」と答えていることからも、名簿提供は法定受託事務でないことは明らかです。
各地で自衛隊員募集のために住民の個人情報を提供することに疑義を持つ住民からの問い合わせがあることから、「令和2年地方分権改革に関する提案募集」に、自衛官等の募集に関する事務について「住民基本台帳の一部の写し」を国に提出できることの法定化(長崎県大村市など19市)、自衛隊法等に基づく自衛官等の募集に関する事務について住民基本台帳の一部の写しを提出できることの明確化(熊本県合志市など1府21市)、の「提案事項」が提出されました。
これに対して、令和3年2月5日付けで、 各都道府県市区町村担当部長宛てに防衛省人事教育局人材育成課長 、総務省自治行政局住民制度課長名で「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について」という通知が出されています。通知には「本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的助言である」と記載され、以下のようになっています。
1) 自衛官及び自衛官候補生の募集に関し必要となる情報(氏名、住所、生年月日及び性別をいう。)に関する資料の提出は、自衛隊法第97条第1項に基づく市区町村の長の行う自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務として自衛隊法施行令第120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の長に対し求めることができること。
2) 上記の規定の募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、住民基本台帳法上、特段の問題を生ずるものではないこと。
となっています。この通知は募集の資料として住民基本台帳の写しを用いることは特段の問題はないとしていますが、あくまでも技術的助言であり、法律でないことこと、住所・氏名・年齢・性別の4情報は資料には該当せず、自衛官等募集事務の遂行のために,防衛大臣が都道府県知事および市町村長に対し,募集に対する応募者数の見通し,応募年齢層の概数等に関する報告および県勢統計等の資料提出を求め,募集事務を円滑に行うための判断材料を求めるものであり、個別住民の住所・氏名・年齢・性別4情報を求める根拠にはなりません。
小郡市では2016年度に個人情報保護審議会は 「自衛隊法施行令第120条で規定されている『資料』に個人情報が含まれるとの解釈は困難」「適齢者情報を提供することの妥当性は認められない」との答申、従来「提供」していましたが、「閲覧」へ切り替えています。
筑後市は今年6月1日行政審査会が市長に「個人情報の取扱いに係る意見について」という答申をしました。答申は「名簿という形で自衛隊へ提供してきた個人情報は、いずれも住民基本台帳法第11号第1項の規定による閲覧により取得できることからすると、名簿の提出は単に自衛隊に対し便宜を図る行為にほかならず、名簿がなければ自衛官等募集事務を遂行できなくなるような特段の事情も見受けられない。本来地方公共団体は、個人情報を慎重に取り扱い、個人の権利利益を保護すべき立場であるので、今後もこのような形で個人情報を自衛隊へ提供することは妥当とはいえない。以上が審査会として意見であるが、仮に今後も名簿の提出を継続しようとするのであれば、個人情報を提供することを本人に対しあらかじめ文書で通知し、本人から申し出があれば提出名簿から除外するとともに、自衛隊に対しては使用後の名簿を確実に処分するよう誓約させ、その処分には市の職員が立ち会うべきであることを付言する。」としています。つまり、自衛隊員募集のために名簿提供することは法定受託事務ではないこと明らかです。地方自治法第245条の2「普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。」とあり、通知は法的的根拠にはなりません。
また、通知では募集に住民基本台帳の写しを資料として使うことも問題ないかのように言っていますが、「住民基本台帳法第3条 市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
同条第4項 何人も,第11条第1項に規定する住民基本台帳の一部の写しの閲覧又は第12条第一項に規定する住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書,第15条の4第1項に規定する除票の写し若しくは除票記載事項証明書,第20条第1項に規定する戸籍の附票の写し,第21条の3第1項に規定する戸籍の附票の除票の写しその他のこの法律の規定により交付される書類の交付により知り得た事項を使用するにあたって,個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」とあり、市区町村長は,住基台帳法上の住民個々人の個人情報について厳格な管理責任を負っており,しかも個人情報は憲法上の人権であるから,プライバシー侵害にならないよう適切に配慮,管理することが求められます。このことからも、同意がない名簿を渡すことは人権侵害になるといえます。
以上のことから、福岡市が18歳および22歳の市民の個人情報を同意がないまま手渡すことは法定受託事務とはいえません。
2、次に、自衛隊員募集のために名簿を提供することが公益性はありません。
2020年9月19日の本会議における私に質問に、下川局長は「自衛官等募集事務にては、法定受託事務として可能な範囲で協力する必要がある」「災害派遣などの重要な任務を担う自衛官の募集に必要な情報の提供は公益性がある」と言っています。さらに、「個人情報保護条例第10条第2項第6号の公益性があるという理由で個人情報を提供した事例はどのようなものがあるのか」との私の問に「個人情報保護審議会に諮問して、市の保有個人情報を提供した近年の事例として、平成30年度に特定の介護保険事業所に対して介護報酬の返還請求を行うに当たり、返還請求の原因である個人に関する情報を当該事業所に提供した事例、平成30年度及び令和元年度に国民健康保険レセプト点検自動化実証実験を行うに当たり、被保険者のレセプトデータを事業者に提供した事例」をあげています。つまり、毎年3万人もの市民の個人情報が継続的に提供される事例は自衛隊への提供以外にはなく、しかも自衛隊の災害活動に対する公益性が認められても隊員募集という業務のために同意がない個人情報を提供することに公益性があるとはいえません。
先ほどあげた小郡市でも募集業務の資料に該当しないという判断が示され、筑後市行政審査会答申でも「名簿の提出は単に自衛隊に対し便宜を図る行為にほかならず、名簿がなければ自衛官等募集事務を遂行できなくなるような特段の事情も見受けられない。本来地方公共団体は、個人情報を慎重に取り扱い、個人の権利利益を保護すべき立場であるので、今後もこのような形で個人情報を自衛隊へ提供することは妥当とはいえない。」と指摘しているように、募集業務のための個人情報の提供には公益性はあり得ません。
3、第三点として、同意がない名簿を自衛隊に渡すことの地方自治体として地方自治の理念から問題があることを述べます。
地方自治法第1条2では第1項、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」、第2項、「国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」とあります。
2020年9月19日の本会議における下川局長は「自衛官等募集事務にては、法定受託事務として可能な範囲で協力する必要がある」との答弁は自治体の裁量で提供していることを意味します。住民基本台帳法では地方自治体の責務として「住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない」「住民票の写し等知り得た事項を使用するにあたって,個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」となっており、自衛隊員募集のために同意がない個人情報を提供することは,「住民の福祉の増進を図る」地方自治の本旨に反するといえます。
また、自衛隊の公益性について災害救助をあげていますが、2015年に安保関連法が強行採決されて以降大きく変容しています。自衛隊が海外の南スーダン等紛争地へ派遣されていること、5月に霧島で米軍、フランス軍と自衛隊とでの軍事訓練がなされており、このような軍事訓練が繰り返されています。このように自衛隊は戦闘に参加し生命の危機を伴う状況が現実のもとなっています。憲法違反の集団的自衛権のもとの軍事行動に公益性はありません。地方自治の本旨から住民を戦場に送らないという地方自治体の意思が示される必要があります。
以上のことから、自衛隊員募集のための名簿提供は自治体の裁量権を逸脱する行為です。
**********************************
監査請求
1 請求の趣旨
地方自治法第242条に基づき、福岡市が、2020年6月5日に、福岡市の18歳13,142人と22歳16,675人の計29,817人市民の個人情報を名簿にして自衛隊に渡した行為にともなった公金の支出(人件費、名簿印刷費、通信費等)の損害の回復のため、右損害額を福岡市長に賠償させることを求め、次のとおり措置請求する。
福岡市長は、2020年1月6日の市長記者会見で、自衛官募集の対象となる住民の個人情報について、住民基本台帳の閲覧・書き写しの許可に留めていたのを、紙と電子媒体で自衛隊側に提供する福岡市の方針を明らかにし、同年6月5日に29,817人市民の個人情報を名簿にして自衛隊に渡した。
この名簿提供は、人々はすべての基本的人権の享有者であり、個人として尊重されるとした憲法や福岡市の基本は住民の福祉増進であるとする地方自治法に違反し、個人情報保護法や福岡市個人情報保護条例に違反する。
福岡市が住民基本台帳で保有する18歳や22歳の福岡市民の個人情報を本人に知らせることなく、また本人の同意を得ることなく、名簿にして自衛隊に提供することに公益性の必要はない。また、その動機が、自衛官募集に「自治体の6割以上が協力を拒否している」との安倍晋三前首相の発言であるとすれば、それは地方組織が国の末端機関として戦争遂行に協力したことの反省から、第8章を立て国と地方が対等であるとした日本国憲法を没却し地方分権一括法の趣旨や地方自治法第1条などに違反し、地方自治権を放擲するものだ。
今、「イランの危機」や「台湾海峡危機」を煽って戦争になりかねない状況になっているなか
で、福岡市の若者を自衛隊員として戦地に追いやることは憲法9条や市民の福祉増進を目的にする地方自治法第1条の2に違反している。
2 公金の支出 総計は23,745.94円。明細は下に記した。
人件費 区政課の職員2名2時間で作成と推定し13,460円と算出した。その計算過程は
次のとおり。
web検索の、2018年12月15日付けの「市政だより」より、2017年度福岡市職員
年間平均給与額=699.7万円を引用した。
同1時間割給与額=4,079円(699.7万円÷[年間執務日数365日-120日]÷[日執務7時間]))と計算した。
よって、人件費=1時間4,079円×2時間(推定)×2人(推定)=16,316円と算出した。
名簿印刷費 情報公開請求して、名簿はA4版で605頁と用紙費は一枚が628円であるこ
と、印刷機材はレンタルであることが判明している。ただレンタル料金などが不明であり、福
岡市庁舎内のコピー代金一枚当たり10円を参考に算定した。
印刷用紙代=0.628円×605枚=379.94円
印刷通し代=一枚10円×605枚=6,050円(市は1,227円程度)
結局名簿印刷費=6,429.94円
通信費 自衛隊との通信費額は不明だが1,000円と推定した。
人件費 16,316 円 (市は不明)
名簿印刷費 6,429.94
通信費 1,000
総計 23,745.94
3 事実証明書
①2020年4月15日付 福岡市政だより
「自衛隊への個人情報の提供を望まない人は、『除外申請書』の提出を」の標題と記事「2020年度から、その年度に18歳、22歳になる人の『氏名』と『住所』の情報を、自衛隊に対し資料として提供することになりました。」から福岡市は2020年度より、自衛隊に福岡市民の個人情報を不当・違法に提供する方針であることが分かる。
②2020年6月20日付 朝日新聞朝刊記事
市民の抗議デモがあったことと福岡市が自衛隊に名簿を提供したのが同年6月5日であったことが「市は6月5日に2万9817人分を自衛隊に提供」という記事内容から分かる。
③2020年11月22日付けの本件監査請求人脇 義重による福岡市長宛公文書公開請求書受付第1560号の写し。
④2020年11月30日付の公文書非公開決定通知書市区第309号の写し
この非公開決定通知書の文面で、福岡市が名簿を自衛隊に提供したのが2020年6月5日であることが分かる。その理由は、公文書非公開決定通知書の公開請求に係る公文書の名称又は内容欄に「髙島市長は、18歳と22歳の福岡市民個人情報を名簿に調整し、2020年6月5日自衛隊に一括提供した。(以下、「名簿提出」)」と記載されているからだ。
⑤の1 2020年11月30日付の公文書公開決定通知書市区第309号(以下、「309号)。この文面からも、④と同様に、名簿提出日が2020年6月5日と同定できる。
⑤の2 309号添付の「分類番号6用紙類」
この文面に、「グループ番号34(4月から9月まで)」に、名簿作成に使われた用紙がPPC用紙(A4)の単位単価が記されており、そこから用紙1枚単価が導出できる。
⑤の3 309号添付の「名簿提供件数」
この文面から、名簿に収められた18歳22歳の福岡市民の人数と作成名簿の頁数が分かる。
⑥ 自衛隊への名簿提出に抗議する市民の運動資料
・2020年1月9日
福岡市長への名簿提供取り消しを求める7団体共同申し入れ文
・2020年1月9日
個人情報保護審議会長への 名簿 提供 に「ならない」と答申を求める文
・2020年2月22日
自衛隊への名簿一括提供を許さない!市民集会決議文
・2020年3月11日
福岡市議会への 請願文
・2020年3月24日
福岡市議会への 請願文
・2020年1月14日
福岡市長への抗議・申し入れ文
・2020年3月25日
福岡市議会への請願文
他に、情宣チラシ二葉