私は緑と市民ネットワークの会を代表して、福島第一原発における処理水について、慎重な対応を求める意見書案に賛成して討論をします。
来年3月11日は福島第一原発事故から10年となります。未だ事故は終息しておらず、廃炉の見通しも立たない状況です。事故で溶け落ちた核燃料が残る原子炉に地下水の流入が続き、放射性物質を含む汚染水が発生し続けています。放射性物質除去をしていますが、汚染水には除去できないトリチウムが含まれています。現在、処理水は福島第一原発敷地内のタンクで保管していますが、東電および政府は地上保管の限界が近づいているとして海洋放出を検討しています。
トリチウムは原子核が陽子1個と中性子2個と電子1個で構成する質量数が3の三重水素です。トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため、体内では主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、化学構造式の中に水素として組み込まれます。この有機結合型トリチウムは、トリチウム水とは異なった挙動をとります。 この場合は一般に排泄が遅く、結合したものによってはトリチウム水よりも長いという報告もあります。
化学構造式に取り込まれたトリチウムが出したβ線が、遺伝情報を持つDNAに当たり、トリチウムがヘリウム3に元素変換することによって、4種類の塩基をつないでいる水素結合は破綻します。そして塩基の本来の化学構造式も変化します。トリチウムは他の放射性核種と違って、放射線を出すだけではなく、化学構造式も変えてしまうのです。塩基とDNAの分子構造が変化すれば、細胞が損傷され、その結果、遺伝情報にも影響を与えるのです。
カナダのピッカリング原子力発電所(トリチウムの放出が多い加圧重水炉)周辺の都市では、小児白血病や新生児死亡率が増加し、またダウン症候群が80%も増加しています。フランスのラ・アーグ再処理工場、イギリスのセラフィールド再処理工場の周辺地域での子どもたちの小児白血病の増加について、サザンプトン大学のガードナー教授はトリチウムとプルトニウムが関与していると具体的報告がなされており、これに対しイギリスやフランスやカナダなど原子力管理委員会の「有意な増加は認められない」はただ無視しているだけです。日本国内でも同様な報告があり、全国一トリチウムの放出量が多い玄海原発での調査・研究では、玄海原発の稼働後に玄海町と唐津市での白血病の有意な増加を報告しています。長崎県福祉保健部の資料からも、玄海原発周辺に位置する県北地域のほうが県南地域よりも白血病死亡率が高いということが分かっています。
このようにトリチウム水の海洋放出は環境に大きな影響を与えることが懸念されています。福島第一原発周辺地域の農林業者および漁業者は、これまで安全性を確保するため、厳格な検査態勢を継続しながら復興に尽力してきました。トリチウム水を海洋放出することでこれまでの努力が水泡に帰すと強く危惧しています。地元農林水産業者のみならず全国漁業組合連合会も強く反対しています。処理水は地上保管することや将来モルタル固形化、トリチウムの分離技術の開発など、海洋放出以外にも選択肢はあるにもかかわらず、無害化できない処理水を海へ流すことは責任の放棄と言えます。
また、トリチウム水の海洋放出は福島だけの問題ではなく、福岡市からわずか50キロにある玄海原発の問題ともつながっており、私たち福岡市民の問題でもあります。議員各位が福島第一原発における処理水について慎重な対応を求める意見書案に賛同することをお願い致します。