移動は生活を維持するためにかかせないもので、生活の質に係わる重要な要素です。「移動の権利」は基本的人権です。フランスでは1982年に「国内交通基本法」が制定され、「誰もが同じように移動する権利を持つ」という考えで「移動の権利」が明記されています。
「誰もが」とは、具体的に、高齢者や障がい者などの身体が不自由な方だけでなく、乳母車を押す両親など幅広く含みます。全ての利用者が乗りやすいようにバスや路面電車は床を広くしたり、十分なスペースを作ったりすることが義務づけられています。車いすの利用者が一人でも料金を払えるようになっています。「容易に、快適に低コストで移動できるようにする」として、利用しやすい料金を設定、また「移動に困難を伴う人や、交通の便が悪い人に対しても配慮すべき」とし、移動権は優先されると位置づけています。環境の視点からも公共交通を主体とする持続可能な交通体系を進めています。
日本でも2013年に交通基本法が制定され、移動が国民生活や経済活動にとって重要であり、バリアフリーの視点や環境の視点、災害時の対応などが「国・地方自治体の責務」「交通事業者等との連携」が謳われています。しかし、残念ながらフランスのように「移動の権利」を明記するにはいたっていません。今日、超高齢社会となり、地方の過疎化が進む中で、「移動の権利」を保障することは地域づくり・まちづくりに欠かせないものとなっています。
障がい者のための福祉乗車証は、
廃止ではなく拡充を!
福岡市では障がい者の移動支援として地下鉄を無料で利用できる「福祉乗車証」を交付していますが、2019年度をもって廃止される計画となっています。現在は経過措置として「福祉乗車券」の選択肢の一つとして「福祉乗車証」も選べるようになっていますが、2020年からは地下鉄やバスが利用できるICカード(最大1万2千円)かタクシー券(最大1万2千円)のどちらかしか選べなくなります。市は制度見直しを行った理由として、「地下鉄沿線に限らず、必要な人へ公平で効果的な支援を行う観点から、ICカード等を交付する福祉乗車券制度に地下鉄の無料パスである福祉乗車証を統合した」としています。
しかし、2016年に行った「福岡市障がい児・者等実態調査報告書」によると、福祉サービスの利用状況と利用意向については身体障害者、知的障害者、知的・身体障がい児のいずれも「地下鉄料金の助成」が利用実態も利用意向も最も高くなっています。「福祉乗車証」や「福祉タクシー」についても利用実態及び利用意向が高くなっています。これらは障がい者が社会参加する上で移動支援が重要であることを示しています。
しかし、現在の経過措置になって以降、利用者はよく分からずにICカードを選択してしまい、従来のように地下鉄を自由に利用できず困っていることが問題となっています。市は障がい者団体にも意見を聞いた上で見直したと言っていますが、利用者に十分に周知されていない現状があります。
「地域に限定されず、必要な人への公平で効果的な支援を行う」とするなら、「福祉乗車証」の廃止はあり得ず、むしろ障がい者のニーズに沿った移動支援に拡充すべきです。必要な人に必要なものを提供することが「公正」であり、形式的平等を持って「公正」とすることは欺瞞そのものです。市民の福祉の向上をめざすためではなく、如何に費用を削減するかという露骨な意図が見えます。
また、市は「わかりやすく使いやすい制度に施策の再構築を図っている」と言っていますが、事実上移動を制限することになる改悪は人権侵害であり、「わかりやすく使いやすい」こととは無関係です。福岡市の「障がい者差別禁止条例」にも違反します。
「福祉乗車証」は廃止するのではなく、むしろ拡充すべきです。
運転免許証の返納を進めるためにも
移動手段の保障を! 高齢者乗車券の拡充を!
報道によると2018年の75才以上の高齢運転者の死亡事故数は全国で460件と高止まり、全死亡事故に占める割合は14.8%で、各地で高齢者の運転免許証返納の取り組みがなされています。福岡市では交通局の取り組みとして「ちかパス65」を購入した人に最大6,000ポイントを付与していますが、私はこれでは不十分だと考えます。昨年議論になった「高齢者乗車券」制度の拡充を図るべきだと考えています。
高齢者乗車券に類似した他の政令市の事例を見ると、70才以上の高齢者に対して仙台市では年間最大10万8千円を交付、京都市は市内の地下鉄・電車・バスは無料となっています。福岡市も平成13年に現制度に統合するまでは地下鉄は年収195万円以下の方は無料、それ以上の方は半額で同時にバスについて8,620円の敬老乗車券も交付されていました。現制度は、市民の要望に応えてタクシー利用が出来るようになったものの、現状は制度改定以前から後退していると言えます。
市は「高齢者乗車券は高齢者の社会参加の促進を目的として、高齢者の積極的な外出の契機となるよう、交通費の一部を助成しているものであり、移動手段の保障とは趣旨を異にする制度」と言っていますが、移動の保障をすることが外出を促すことであり、趣旨を異にするというのは論理矛盾です。高齢者の運転免許証の返納を進めることは、長年まじめに働き、幸せな人生の終盤に来て交通事故により築き上げてきたものを一瞬にして失う不幸を防ぎ、「住民の福祉の増進を図る」という地方自治体の重要な施策だと言えます。超高齢社会を迎え、高齢者福祉乗車券の拡充およびドアtoドアの移動支援の検討はこれから益々重要な施策であり、議会でも政策提案してまいります。