他都市調査その3

Pocket

26日(金)名古屋市

時間 14:00~15:40

説明員 市民経済局地域振興部 吹上康代区政課長、水谷淳推進係長

目的 第30次地方制度審議会の答申を受け2014年に地方自治法の一部改正された。団体自治からさらに住民自治を推進という視点からの答申を受け、総合区や区民会議の設置について規定された。名古屋市で住民自治の推進という視点からの区政改革について調査した。

1、名古屋市おける区政改革の現状

1)取り組みの経緯

2007年に「新たな区政改革計画(2009年度~2016年度)」が策定され、改革の方向性として、➀区の自主性・主体性を発揮した町づくりの実現、➁迅速で質の高い市民サービスの実現、が掲げられた。2013年に「新たな区役所改革計画アクションプラン(2013年度~2016年度)」が策定され、「区を取り巻く環境変化を踏まえ、個別具体的な問題から課題解決に向けてアプローチしながら、さらに区役所改革を推進する」とし、改革を推進するための4つの柱として、➀災害対策の強化、➁健康福祉・子育て支援、➂地域主体のまちづくりの推進、④市民サービスの向上と業務の効率化、を挙げている。

2013年に第30次地方制度調査会の「大都市制度の改革および基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申」を受けて2014年6月に地方自治地方が一部改正された。この改正により、政令指定都市において「区の役割を拡充し、住民自治を強化する」観点から、区役所が分掌する事務を条例で定めることや、条例で区に変えて総合区を設置できることが新たに規定された。名古屋市ではこの流れを受けて、2014年3月に「名古屋市が目指す大都市制度の基本的な考え方」を示し、2015年度にこれまでの取り組みの成果と課題を整理し、今後の取り組みを検討した。「2016年度から新たな区役所改革計画」を踏襲しつつ区の役割を拡充し、住民自治を強化する取り組みを始めた。

 

2)これまでの取り組みの成果と課題

主な成果として、➀区の自主性・主体性を発揮した町づくりの実現として、区役所の努力により確保した収入の独自財政課、区長の裁量が発揮できる定員配置、各区に企画経理室を設置し企画調整機能を強化など、➁迅速で質の高い市民サービスの実現として、支所における福祉業務拡充など窓口業務の向上、税務事務や住民票等に係る郵便請求事務の集約化の推進による業務の効率化、があがっている。

課題として、➀区が自主性・主体性を発揮できる仕組み作り(区長の予算要求権など)、➁区の総合行政機能の強化(土木事業の移管など)、があがっている。

2、地方自治地方改正を受けての新たな取り組み

地歩自治法改正の趣旨を受けて、「区の役割を拡充し、住民自治を強化する。行政の意思形成過程において、区役所が区民の意見等を的確に反映していくとともに、地域の実情に応じたきめ細かな施策、事業を推進していく。」との考え方を基に、2015年度に区の事務分掌条例を策定、2016年度から新たな取り組みが始まっている。総合区の設置は今後の課題としている。

1)区民意見の行政への反映

➀区民会議の開催

➁区民参画で区将来ビジョンな策定

➂区にゆかりがある人や区民のまちづくりの思いを生かす「区まちづくり基金」の創設

2)区長権限の強化

➀区の企画調整機能の強化

➁区から財政局へ直接予算要求する仕組みの導入

➂区から総務局へ直接組織要求する仕組みの導入

3)区毎に設置している事務所等と区役所との関係の整理

➀区役所に保健所と福祉事務所の統合・配置

➁環境事務所・土木事務所を区役所へ配置

3、区民会議について

1)区民会議

区民会議は法で義務づけたものではなく、また区民からの意見徴集期間であるため、条例として定めずに規則で定めている。区民会議の開催形態は、最低1回は会議を持つことにしているが開催形態は区毎に異なる。会議、ワークショップ、中学校区毎のフィルドワークなどがある。主な参加者は、各種地域団体、NPO、企業、公募区民、学生、など。こどもの貧困問題、中学生の学習支援、フィルドワークから地域の歴史の啓発、外国人の支援、子育てや障害者支援、など。区によっては高校生からアンケートを取って課題の抽出、大学がある区で学生を中心に若者会議の開催など地域の特性を生かした取り組みがなされている。

区民会議で出された意見を整理し、「区まちづくり基金」を活用した予算および財政局へ予算要求をしている。区民会議で出されたものからの予算である2017年度「区の特性に応じたまちづくり事業」予算は1,583万円であった。

2)名古屋市における地縁組織

名古屋市では1953年(昭和26年)から社会協力員制度、1967年(昭和42年)から主に町内会長・自治会長による区民協力員制度が作られ、今日も続いている。これら協力員は無償である。区民会議の座長は互選となっているが、区民協力員が座長になっていることが多い。区民協力員会には平均年間42.3万円の補助金が交付され絵いる。その他、安心安全まちづくり協議会があり、区毎に分会がある。安心安全まちづくり協議会には年間50万円、区の分会には年間70万円が交付されている。

3)地域委員会について

地域住民の意思を政策に反映する機関として小学校区毎に地域委員会が設置されていた。地域委員会は現河村市長の発議で、小学校毎に住民による地域課題解決組織として設置された。地域委員会には市職員は参加せず住民のみで運営され、区を超えて地域予算が交付されていた。しかし、地域住民の予算執行について様々な問題が生じ、2013年に廃止となった。

4)校区担当職員

名古屋市では福岡市と同様に区役所職員が校区毎に配置され、地域住民との連絡を取っている。名古屋市では1校区1名で、担当する職員は係員を含めて担当している。

4、区民会議に対する議会の意見

議会では地域委員会の総括がされないままになっている、区民会議には決まった住民しか出てこないなどの意見がある。また区政改革については、区に権限がないので、区での議論は出来ないという意見がある。

調査しての所見

名古屋市では地方自治法改正を受けて区の分権化と住民自治の強化に取り組んでいる。しかし、地域委員会において住民が適正な予算執行が出来なかったことや、区民会議において参加する住民の顔ぶれが固定化しているなどの問題が指摘された。市政に関心を持つ住民が少ないことは事実と思われるが、他方福岡県の筑前町では地方自治法に定める地域協議会を設置し、住民から無作為抽出で委員を選出した例がある。選出された委員は日頃言えない意見を出せてよかったという声を聞いている。また、古い話になるが、鎌倉市で様々な諮問委員会の委員に年齢別、性別、地域別で抽選で委員を選任した例がある。住民自治を育てるための仕組み作りが必要であり、地域住民支援のコーディネーターの配置など、制度だけでなく支援体制が必要と思われる。福岡市においても、区分権と住民自治の仕組みを作り、市民と行政の距離を縮める取り組みが必要と考える。今後、持続可能な社会をつくるためにも、住民自治力強化を図る必要があると考える。大きな都市ほど積極的に取り組むことが重要である。