日時 2016年5月16日(月) 10:30~12:45
場所 八女市黒木支所予約センター
説明員 企画振興部地域振興課 松尾一秋課長
1、取り組みの経緯
2006年八女市と上陽町が合併した時を機に、将来の合併を見据えて2007年7月に八女市庁内に交通専門職を配置し、八女市住民移動サービス研究委員会を設置。その後、2008年9月、八女地区地域交通協議会を設立し、2009年3月に八女市地域交通総合連携計画を策定し、2010年1月に予約型乗り合いタクシーの実証運行を始めた。当時は九屋前市と上陽町の2エリアで3台の乗り合いタクシーを運行。この時点では八女市の福祉バス(週2回運行・100円)、上陽町患者輸送車(週2回運行・無料)も廃止せずに運行した。ドアツウドア方式で評判がよかった。
その後、2010年2月に立花町、黒木町、星野村、矢部村、が合併した。合併した地域の住民から同じようなシステムを導入の要望が出され、議会でも導入を求める質問が出された。同時に合併した地域に利用促進と運行エリア拡大についての説明を始めた。星野村では週2回無料(1日1便)のコミュニティバスが、黒木町ではスクールバスの空き時間の昼に毎日3便の予約型無料バスを運行、上陽町では週2回無料(1日1便)の患者運行バス八女市では週2回(1日1便100円)の福祉バスを運行していたが、これら全てを廃止した。代わりに旧小学校区11エリア内だけを週5日運行する、ドア通ドアの予約型乗り合いタクシーを導入。有料になることの抵抗もあったが、週5日運行、ドアツウドアの利便性が理解された。同時に路線バスは幹線2路線を維持し、その他の路線バスを廃止または立花町の路線は通勤通学時の朝夕の2便に減便することした。路線削減と乗り合いタクシーに客が奪われる危惧からバス会社の抵抗があったが、地域公共交通協議会でタクシー会社代表が改革の必要性を訴え理解を示したことで合意された。路線バスの利用者数は乗りタクシー導入時まで減り続けていたが、導入後の路線バス利用者数は下げ止まりおよび微増となっている。理由は外出の機会が増えて乗り継ぎ利用者が増えていること、また家族の送迎が乗り合いタクシーと路線バスの乗り継ぎに変わっているのではないかと考えられている。
合併前の路線バス、コミュティバスおよび患者搬送車に出していた補助金総額は年間約9千万円であったが、新システムでは1億円程で運営している。八女市はこの交通システムで国土交通省の表彰を受けている。
八女市乗り合いタクシーの紹介 https://www.youtube.com/watch?v=ZP7umHm7ezk&feature=youtu.be
2、予約型乗り合いバスのシステム
1)予約方式
利用者はまず市に利用登録する。その際には住所・氏名および家族も登録する。登録した利用者は朝の8時便は2日前、その他は30分前にコールセンターに乗る場所を指定して予約をして利用する。予約センターの職員が電話した利用者に経験的におよその時間を伝える。予約を受けた予約センターのオペレータは、NTTのシステムを使い利用者に応じてコースを組む。
乗り合いタクシーはワゴン車タイプなので障がい者は乗り降りがしにくいため、障害者は福祉運行タクシーを利用してもらっている。利用者は原則自分で予約することしており、利用者の意思を尊重することで利用者の自立を促している。同時に家族情報も登録時に記載して頂くことで家族との連携も取っている。
2)乗り合いタクシーのコース
乗り合いタクシーは決まったエリア内しか走らない。エリアは11エリアあり、旧自治体の小学校区となっている。小学校区は地形的に谷間になっており、山で囲まれているため、小学校校区を越えてのルートがくめないことが理由である。但し、一部エリアを超えて旧自治体の中心部にある支所などに行くことはできる。その際の料金は通常の300円から100円高くなる。
運行は月曜日から金曜日までの5日間。予約コースはどのエリアでも8時、9時、10時、11時、午後1時、午後2時、午後3時、午後4時の8便がある。8時の便のみ2日前の予約で、その他は30分前に予約することができる。予約は先着順。乗車できる定員は8名なので、定員をオーバーしたときには次の便にしてもらうが、そのようの事態は少ないという。また、各事業者の運行時間ができるだけ公平になるように、配車を配慮しているとのこと。乗車希望場所に迎えに行き、目的地で降車する。アンケートによると高齢者にとってバス停まで歩く負担がなくなり、出かける機会が多くなっている。
3)料金
エリア内は片道300円。一部エリアを越えるときは400円。障がい者割引はない。
4)事業者
事業者は地場タクシー会社4社、堀川バス、八女観光バスの計6社。堀川バスは立花町の路線バス2路線を朝夕の通勤通学時の2便およびスクールバスのみに減便し、朝の通勤通学の運行が終わったバスの運転手は乗り合いタクシーの運転手をしている。乗り合いタクシーは別に免許を取得しなければならないので、陸運局に協力してもらい、事業者に乗り合いタクシーの免許を取得してもらっている。
5)配車のシステム
予約センターは八女商工会に委託。配車はオペレータが予約を受けてNTTの配車システムでコースを組み、タククシー運転手に無線電話で連絡するとともにコースデータを送り運行する。車両はジャンボタクシーで利用者定員は8名。予約がオーバーしたときは次の便に待ってもらう。12台+予備1台で運行。旧八女市内エリアは人口が多いため2台で運行。配車システムは初期投資に約5千万円かかったが、現在リースで安くできる。因みに八女市と同じシステムは月35万円、5年間のリース契約があり、八女市では更新時にはリースに替えるとのことである。
6)市の助成
乗り合いタクシーの車両は民間会社の所有で、運行を委託する形となっている。委託料は(1台2200円×8(時間)×224日(運行日数))×13台―利用料金×1/2で3,760万円余。予約センター経費として、人件費6人分(現在4人)1,540万円よ+通信費160万円余+管理運営費230万円余=1,970万円余+システム維持費150万円余+事務・広告宣伝費等340万円余。乗り合いタクシーの助成合計は6,200万円余となっている。 その他基幹路線バスを維持するために約3,900円の補助が出されている。国からの地域交通に関する補助金については約1,900万円あり、国から交通事業者に交付されるが、市が借り上げ費用を払っているので事業者から市に雑収入として入金することとしている。
7)利用状況
八女市の人口は6万5千人余、登録者数は約12,700人、利用者数は約1000人ということである。2015年度実績で利用延べ人数は1日約230人、年間延べ5万5千人ほど。利用者は車の運転ができなくなった80才以上の方が多いが、まだ運転している高齢者もおり、やや減少傾向にある。
3、八女市の交通政策
街の賑わいの維持と住み続けた場所で住み続けられるような「まちづくり」をするために、旧自治体の中心部に支所を残すとともに、病院や商店、郵便局を誘致している。その上で、タクシーを公共交通と位置づけ、幹線バス路線を維持に接続させている。基幹路線バスは八女市中心部およびJR羽犬塚駅および九州縦貫道八女インターの高速バス停に接続させている。乗り合いタクシーをフィダー交通として基幹交通に接続させる交通網を作っている。これは立地適正化計画に即したまちづくりとなっており、3000㎡規模の開発も可能にすることで将来のまちづくりの可能性を作っている。
4、予約型乗り合いバスの現状と地域での役割(地域包括支援システムとの連携)
乗り合いタクシーの予約者は12,700人程で利用者は約千人。八女市の人口約6万5千人余、登録率は約20%。利用者の多くは80才以上の高齢者が多く、病院や買い物、年金の引き出しなど生活パターンがある程度決まっている人が多い。そのため利用者の生活情報が予約センターのオペレータやタクシー運転手に集まり、見守りの役割もしている。運転手やオペレータが利用者の生活の変化に気付いたときにはケアマネージャーや福祉関係者に連絡を取っている。乗り合いタクシーが運行されたことで高齢者の外出の機会が増えている。高齢者の自立が促され、機能訓練となっている。乗り合いタクシーの運行は地域での見守りと高齢者の機能維持の役割を果たしており、地域包括ケアシステムとの連携が今後期待される。
5、課題
配車システムは初期投資と維持費がかかることに課題がある。初期投資については月35万円、5年契約のリースになって安くはなったと言っているが、課題として残る。また、配車はシステム化されているが、オペレータの個人的経験と能力が大きく関わっており、これをシステム化することの難しさがある。
6,所見
超高齢社会を迎え、自動車の運転が出来なくなる高齢者が増えてくると考えられる。八女市と福岡市との情況は異なるものの、ドアツウドアの移動の自由を確保する一つの在り方としては十分検討に値する。タクシー事業者の連携、登録制と年会費性を採り、加えて市の助成があれば、ワゴン車タイプでなくても乗り合いタクシーの活用方法が見えてくると思われる。タクシーを公共交通として位置づけることが出来る。