区民会議について

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目的
 地方自治法が6月に改正され、大都市においてより住民の意思が市政に反映できるよう「都市内分権」が示された。具体的には区の権限を強化する総合区の設置が出来るようになった。強化された総合区における区民の政策決定参加のあり方としての区民会議があり、先行して区民会議を設置してきた川崎市および横浜市の状況を調査し、福岡市における都市内分権のあり方を検討の素材とする目的である。

川崎市
日時 2014年7月8日13:00~ 14:30
説明員 森田雅之市民こども局区政推進部区政調整課長 菅原和彦区政調整係長

1、経緯
1) 区政改革取り組みの背景
 地方分権改革が進み高齢化が進む中で、より豊かに市民生活を継続的に支えるために、自己決定・自己責任の原則とした地域社会を構築するために、区役所を「快適な窓口サービスの提供に加え、地域の課題を自ら発見し解決する市民協働の拠点」にするとして、2004年に「区政改革の基本構想」を策定。市政運営の柱の一つとしてとして市民自治を位置づけ自治基本条例を制定し、2005年4月1日施行した。自治基本条例に区民会議が位置づけられ、区民会議条例がつくられ2006年4月1日施行となった。同時に区政2005年から3年間毎に区政改革実行計画が策定され、区政改革が進められている。

2)区政改革における区役所の位置
地域の課題を自ら発見し解決する市民協働の拠点の区役所機能として
①地域の課題を発見し、迅速。的確な解決を図る
 2005年、子ども総合支援担当を各区に配置、2008年に「子ども支援室」を各 区役所に設置、2009年にまちづくり支援担当を配置、2011年公設保育園の管理 運営および地域子育て支援センター事業を国移管、2012年に子ども文化センターの 管理運営を区役所に移管、各区役所に「待機児童ゼロ対策担当」を配置。

②地域活動や非営利活動を支援する市民協働拠点
 2007年から区における市民提案型協働事業の実施、2010年から教育文化会館、 市民会関東の管理運営を区役所に移管、地域スポーツ担当の配置とスポーツ施設の管理 運営を区に移管

③市民に便利で快適なサービスを効果的・効率的かつ総合的に提供
 2007年に第2,第4土曜の区役所開設、2008年区役所サービス向上指針策定、 区役所と支所・出張所等の窓サービス機能の再編実施方針策定、2011年区役所区民 課にフロア案内を設置、出張の届け出窓口を区役所へ集約

④地域住民の総意に基づく自治を実践する
 2005年区役所費を創設、2006年区民会議設置・運営、区における総合行政の 推進に関する規則を制定、「魅力ある区づくり推進費」を「協働推進事業費」に改め、 各区の予算枠を5,500万円に増額、「区の課題解決に向けた取り組み予算」の創設、 2010年各区役所に企画課を設置、「協働推進事業費」と「区の課題解決に向けた取 り組み予算」を「地域課題対応事業費」に統合し予算権限を区長に付与、2012年に 各区役所に危機管理担当を配置

 以上のように経緯を見ると、地方分権の進捗と少子・高齢社会を迎え、市民自治を進めることで市民との協働で地域の課題解決を目指している。その拠点として区役所を位置付け、区への権限委譲、区へ所管施設の管理運営の委譲、区予算枠を設定するなど、区に総合機能を持たせ、都市内分権を進めている。自治基本条例を制定し、区民会議を自治基本条例に位置づけ、都市内分権の一翼を担っている。
  
2、仕組み
1)区民会議設置の目的
 市民との協働で地域の課題解決を目指すものとして、自治基本条例22条に「(区民の)参加および協働による区における課題の解決を目的とする調査審議機関とし、区長及び市長は区民会議の調査審議の結果を尊重する」となっている。調査審議の範囲は市政に及ぶことも考えられており、また必要な場合は「地域課題対応事業費」への反映や区長の予算提案による市予算への反映も考えられている。
 
2)構成および任期
 構成は公募市民、地域団体推薦、区長推薦の20名以内の委員で構成。公募委員は委員総数の2割以上とし、人数の割り振りは区毎に判断。区選出市議会議員や県議会議員は参与として参加出来、助言が出来る。議員は参与としての発言・行動により拘束されることはない。委員長、副院長は委員から互選される。必要に応じて部会が設置される。任期は1期2年、10年以内では再任は出来る。応募市民は入れ替わりが少なく、課題となっている。委員は会議1回出席につき8000円、部会1回出席につき2000円の費用弁償が支給される。

3)運営
 区民会議の役割は地域の課題を整理し解決方法について答申することにある。地域の課題については、各区の業務から提起されるものおよび委員の日常生活体験等から提起されるものから整理される。必要に応じて部会が設置され、部会の調査結果については区民会議に報告され審議される。1期2年間で調査審議を行い、区長へ答申する。区長は答申を受け、必要な措置を講ずる。基本的には市民との協働で解決することにあり、一義的に行政サービスを求めるものではない。必要な場合は区長判断で予算措置を講ずることもある。

4)議会と区民会議との関係
 区民会議は地域の課題について調査審議し、区長へ答申する諮問機関である。区民会議は議決機関ではないので市議会とは競合しない。区選出区民議会の調査審議結果について、場合によっては議会内で審議しなければならない場合も考えられるが、議会が議決することになる。区民会議条例案は1会派以外は賛成で可決した。
 

3、区民会議の進捗状況
 区民会議は設置以来5期を迎えており、地域課題の解決が図られている。区民会議交流会が開催され、区民会議委員会間での交流および区民会議委員と市長との意見交換もされている。また、各区で区民会議フォーラムが開催され、市民に区民会議についての報告と意見交換もなされている。
 課題として、課題解決の取り組みを継続させるために区民会議と関係団との関係を深めること、区民会議について市政だよりに掲載することや、区民会議フォーラムなどを通じて市民の理解をいっそう深めて行くことなどが上がっている。

4、総合区への対応
 今年6月に通常国会で地方自治法が改正され、総合区が設置できることとなった。川崎市では既に区への分権を進めており、相当程度に都市内分権が進んでいる。総合区についてはその先に考えられるが、具体的な検討にはこれからという状況である。
 
横浜市
日時 2014年7月8日 15:30~16:30
説明員 熊谷秀三市民局広報相談サービス部広聴相談課長 橋本道子広聴相談担当係長

1、経緯
 横浜市に於ける区民会議は、1973年(昭和48年)に「横浜市総合計画・85」策定に当たり、市民の声を反映させるため各区で開催した「あすの横浜を話し合う区民の集い」(1万人集会)に端を発している。この集会はこれまでの市の主催で行う対話集会と異なり、様々な立場の市民が主体的参加し、開催・運営をしたもので、市民相互の話し合いを重点に置いたものであった。この集会の意見は国際港都建設審議会に提出され、総合計画に生かされた。その後、この様な市民相互の話し合いの場の継続を望む声が高まり、1974年に(昭和49年)に旭区を筆頭に10区に区民会議が出来、,その後広がり18区の内16区に設置されたが、現在18区のうち5区にしか設置されていない。
 区民会議が13区に誕生した1985年(昭和50年)に施行された「市政参加推進会議設置要綱」では第一条に「区民会議を中心とした市政参画事業を推進し」と区民会議の位置が明確にされ、区民会議の提言が市政・区政に反映されていった。しかし、1995年(昭和60年)頃から区民会議の活性化が課題となり出した。2000年(平成12年)に市民活動推進条例が施行され、各区に「市民活動支援センター」が開設されるようになった。この様な中で区民会議では自主的・自立的運営を目指しつつ、行政との関わり方・協働のあり方などを模索し始めた。2007年以降(平成19年)以降、活動目的に応じた区民会議の名称変更や、事務局機能を取り込み自立した任意団体になった区(5区)がある一方、活動を休止したり解散した区(6区)も出てきた。公募委員が集りにくいことや財政的基盤が明確でないこと、町内会連合会と区との協議会があるなど別の形での市民意見徴収の場があることなどが要因と思われる。
 
2、区民会議の仕組み
1)設置の目的
市民相互の話し合いによる合意形成や課題の共有によるまちづくりを行う。
①地域の問題に対して様々な立場や意見を持つ人たちが話し合い、合意形成を図る
②地域の課題を知る
③地域の様々な団体やサークのネットワークをつくる
④区民会議の話し合いの結果を伝え、区民に行動を促す 
⑤区民会議は「広聴の場」であり、会議録や区役所職員が参加することで区民会で出さ  れた提案を市政に反映する

2、仕組み
 2003年(平成15年)までは手引きがつくられていたが現在はない。区毎に運営している。以下は手引きによる。

①構成
 公募市民、団体推薦、町内会連合会推薦による。概ね1/3づつの構成。任期は2年、再任は出来る。委員は100名~200名程度。委員は無償。

②組織
a運営委員会
 代表、副代表および運営委員を委員から互選し、区民会議内に運営委員会を設置。運営委員は20名程度(青葉区の例)。運営委員会は活動目標や計画、スケジュール、各会議の企画運営について協議、区民会議総会および定例会に提起。区民会議およびそれぞれの会議録を作成し、参加団体、参加専門家、区役所へ送付する。区民会議の広報を行う。

b区民会議定例会および総会
 区民会議全体の活動計画や組織的な決定事項、分科会・部会からの提案事項、各地域ののつどいの報告を委員全体で話し合う

c分科会・部会
 数名のグループに分かれ、テーマ毎により深く専門的に話し合い、具体的な解決策や提案としてまとめて定例・総会や区民のつどいで報告

d区民のつどい
 区内の様々な問題役の主要事業、将来構想について、委員だけでなく広く区民全体で話し合う

e地域のつどい
 区内の地域単位で、地域との関係が深い問題を話し合う。運営は区民会議、区役所、連合町内会の協力で行う。

f区役所
 情報提供や問題提起し、区民会議会議録や担当者が出席することで意見・要望を聴取する。

③区民会議の財政
 区民会議の活動費は特別な規定はなく、必要に応じて区が支出ないしは会費を集めている区がある。

3議会との関係
 区選出議員は年1回開催される区民のつどいに顧問として出席でき、懇談会で意見交換できる。議会では特に話題になっていない。

4、区民会議の現状
 これまで16区にあった区民会議は現在5区になっている。毎年区民会議の交流会が行われているが、昨年は3区しか参加が無かった。参加者の声にはこのまま区民会議を継続できるか不安の声があるが、継続することとなった。区民会議については区毎に対応しており、区によって位置づけが異なっている。積極的に支援している区と自立を求め事務局機能から区職員を引き上げた区もある。また、町内会などとの連携を深める区民会議と、町内会などと重複する課題を整理し、テーマ毎に取り組む団体になった区民会議もある。
 市担当者としては、区民会議は広聴の場として有効であるとしている。しかし、横浜市においては連合町内会が健在で、町内会の組織率も高いということもあり、区と連合町内会との協議の場が機能しているとのことなど、区民会議だけではない広聴機能も併存してきた。区民会議の位置づけが区毎に異なることや、財政的基盤が明確ではなく、多様な協働の仕組みが併存することが現状に到る背景にあると考えられる。

5、今後について
 横浜市では区民会議は広聴の場と位置づけていることから、総合区との関連については担当の市民局広報相談サービス部広聴相談課としては回答できないとしている。大都市問題については政策局大都市政策推進課所管ということである。昨年の区民会議交流会では記念講演として「横浜市が目指す大都市制度『特別自治市』について」が大都市制度推進課長によって講演された。講演資料によると、住民自治機能の強化と謳われているが、区民会議については触れられていない。今後区民会議をどのようにしていくのか不透明な状況である。
 
所見
 区民会議について川崎市と横浜市を調査した。両市における区民会議の位置づけは大きく異なっている。川崎市は市民自治を市政の柱の一つと位置づけ、自治基本条例制定し、区民会議を位置づけている。区民会議設置は区政改革と平行して行われており、区民会議での調査審議結果が区政および市政に反映される。また、区民会議の調査審議結果に対する財政的根拠もつくられている。川崎市の区民会議は行政組織の中に位置づけられていおり、そのことが市民に活動の成果が見えるものとなっていると考えられる。

 他方、横浜市では1973年に区民会議を早くから設置している。当時は高度成長期における「公害」などの社会問題が顕在化し、美濃部都政が誕生するなど市民意識が高まっていた時代である。この様な時期に「市民運動」として生まれた横浜市の区民会議は、その後の社会状況の変化と共に市民意識の多様化が進み、また市政においても市政参加・協働が多様化していく中で区民会議の役割が不鮮明になっていたと思われる。区民会議が衰退した背景は、このような価値観の多様化と人的な自治活動継承の難しさに加え、横浜市として区民会議を積極的に維持してこなかったことにあると思われる。

 区民会議は地域の様々な団体をネットワークしてまちづくりを進めると共に、主な任務は「広聴の場」であった。当初は行政組織の中に明確に位置づけていたものの、その後横浜市は市民参加・協働の取り組みを多様化させ市民参加を進めてきたが、区民会議については他の意見・要望のルートと同等な扱いでありつづけた。区民会議衰退の背景の一つは川崎市のように区民会議の結果が市政に反映出来る市民参画の行政組織にしてこなかったことにあると考えられる。言い換えれば、区民会議は「市民運動」であり位置づけを区に任せることとし、市政の中で明確な位置づけしてこなかった。そのことから区政改革と区民会議は連動してこなかったことで、区民会議の衰退があると考えられる。区にとって事務局を担うなど運営に負担が大きい区民会議から、比較的組織率が高い町内会組織を基盤にした既存の広聴の仕組みに傾斜した区が増えてきたと考えられる。また、横浜市が進める「大都市制度」は戦前の「特別市」復活を目指すものであり、市民自治としての区民会議が明確に位置づけられていないことにも今後の課題が残されているように見受けられる。

 人口減少、高齢社会、縮小する経済での財源が減少する社会を迎え、豊かな市民生活を持続可能にしていくためには市民との協働による地域社会を形成することは不可欠である。地域における市民との協働を形成するためには、市民の市政への参画と合意形成の仕組みが必要でる。今回の2市における調査において、市民により身近なところで課題解決するために、川崎市が進める区への分権を進める区政改革と、市政の柱に市民自治を明確に位置づけて、区民会議における市民の市政への参画と主体的な行動を促す仕組みを作ることは非常に参考になると考える。福岡市において大都市構想が検討されているが、都市内分権の考えは弱く、「都市経営」という発想の下に経済性が優先するものとなっていることは反って今後の状況に対応できなくなると考える。日本の社会状況および経済状況から見て、住民自治にによる持続可能な地域社会形成へ迫られており、自治法改正により総合区が設置できるようになったことを契機に市民自治のあり方を一歩踏み込んで議論する時節と考える。