2013年4月2日
姫島村総務課長 林義虎氏
1、ワークシェアリングについて
1)ワークシェアリングを始めた動機
姫島村の主たる産業は漁業である。離島の情況で村に外からの民間企業進出は難しく、過疎化が進み、若者の雇用の場を作ることが課題であった。姫島村におけるワークシェリングは昭和40年代に前村長が、過疎化対策、人口減少対策として発案し始まった。村内で最大の雇用の場である役場が、「官」で出来ることは「官」がやる方針で雇用の場をつくることにした。職員の給与を出来るだけ低く抑え、出来るだけ多くの職員を雇用することにした。フェリー、診療所、高齢者生活センター、清掃センター、保育所、幼稚園、給食センター、上下水道、ケーブルテレビを村営で行っている。この現業部門で129名となっている。高度成長期で公務員給与も民間給与と比例していく時期に、給与の上げ幅を抑制することで相対的に給与を引き下げてきた。このことが無理なく出来た理由と思われる。また、島内での合意も得やすかったようである。
2)ワークシェアリングの現状
現在職員192名のうち臨時職員・嘱託職員は72名。正規職員は120名、内男性80名、女性40名。臨時職員は14名、内男性は2名、女性は12名。嘱託職員は54名、内男性4名、女性54名。臨時職員は定年まで継続雇用で、給与、待遇は正規職員と同じ扱いになっている。臨時職員を増やしているのは職員定数との関係で分けている。嘱託職員は定年まで継続雇用であるが、給与は定額である。採用は正規職員は試験で採用、非正規職員は村長部局で採用している。非正規職員は職員の配偶者以外の姫島村の民間人としており、姫島村全体で仕事を分け合っている。近年は更に主に主婦を対象に、所用労働時間を月3分の2の勤務日数にして給与も3分の2とする嘱託雇用形態もとっている。フェリー2名、診療2名、高齢者福祉センター8名、教育委員会1名、計13名を前述の嘱託で採用している。村民2189名(平成22年国勢調査)で公務員の数は村民11.4人に1人となっている。因みに福岡市は正規職員だけで見ると約市民150人に職員1人である。
正規職員採用については姫島村出身者のみを対象にしており、姫島村村民に採用について通知し、その子どもが受験する仕組みにしている。時期はお盆帰りする8月に採用試験をしている。採用年齢は30才までであったが昨年から35才までに引き上げた。受験者は採用定員を少し上回る程度ということであった。
3)給与体系
給与体系は国家公務員の給与表の三級までを基に三級制の体系にしている。また、給与は若年ほどラスパイレス指数が高い給与にしており、平均でラスパイレス指数は72.9で全国の地方自治体で最も低い数になっている。他の公務員の水準と比べると低いが、村内での給与水準から見ると1.5倍ほどになる。主要な産業である漁業は漁獲の減少と価格の低迷により収入は減ってきている。そのため漁業の後継者が減り続けている。
4)今後について
島に雇用の場を如何につくるかという課題が今も続いている。離島であるため民間企業の進出は望めない。最近認知症対応のグループホームが出来たのが唯一の民間事業である。姫島村の狐踊りが有名で、盆踊りの時期は観光客が多い。旅館の女将の会と商工会で姫島名産の車エビを使ったカレーまつりなどの取り組みがあっている。また、姫島村は火山で出来ており、黒曜石が産出するなどの地質的特徴があることを生かして、県の支援を得てジオパークの認定を求めている。これらの取り組みで人の交流を作り、漁業と観光の村おこしを計画している。
5)合併しなかったことについて
姫島村が広域合併に参加しなかった。一つはワークシェリングにより給与が他町村に比べ低かったために,給与を引き上げなければならない問題があったことにある。他町村からなぜ合併しなかったのかという視察に来た議員からは、今後も合併しないで頑張ってほしいといわれるとのことである。合併によって地域が廃れている現状の反省と思われる。道州制が敷かれたら姫島村は周辺自治体の扱いになると思われるが、姫島村として独自でやっていきたということであった。現状では上下水道も整備が終わり、主要な公共サービスは独自できていること、起債償還もピークを過ぎ、基金も村の会計18億円を上回る24億円になっていることから当面の見通しはついているということであった。
まとめ
ワークシェアリングは村の人口流出を抑制すると言うことから始まったが、今日的意味は大きい。官が出来ることは可能な限り官で行い、人件費を抑制することで雇用の場と住民サービスの充実を図っている。姫島村という閉じられた場所で住民合意がとれやすい情況ではあるが、理念は普遍性をもっていると考えられる。原則公務員は夫婦では認めないという暗黙の合意、特に仕事量を3分の2に減らし、賃金も3分の2にし、雇用を1.5倍にする、正規職員と非正規職員の待遇は同じ扱いにするなど、島全体で雇用を増やす取り組みは学ぶできものが多い。給与が低くても島の環境であれは十分豊かに暮らせると感じた。
2,空き缶デポジット制度
1)空き缶デポジット制度が始まった経緯
空き缶デポジット制度は昭和57年、九州知事会において「空き缶問題研究会」が設置され、デポジット制度を含む空き缶散乱防止対策が検討された。大分県では独自に検討を行いローカルデポジットに取り組むことになった。離島で缶入り飲料の流通の実態がしやすいと言うことでモデル地区として姫島が選ばれ、離島以外の地区として中津江村(現日出町)が選ばれた。昭和59年7月から県の補助を受け、昭和61年3月まで試行期間として始まった。事業主体は姫島村で、大分県と(財)日本環境衛生センターが協賛となった。
姫島村は昭和59年6月に「姫島村空き缶等の散乱の防止による環境美化に関する条例」を制定し、この制度の運営を円滑にするために「姫島村デポジットシステム協議会」を設置し、村内の全ての小売り業者及び自動販売機を対象にして事業を進めた。試行期間中の回収状況は極めてよく、村民みんなに制度の趣旨がも十分理解された。今後の資源化やゴミの減量化に効果的であるとして、施行後も事業を続け28年に至っている。現在の回収率は約90%で、空き缶の散乱はない。また、ペットボトルなど他のゴミのポイ捨てもなくなった。中津江村は試行期間で事業は終えており、現在は姫島村だけである。
2)デポジットシステムの仕組み
デポジットの仕組みは全ての500ミリリットル以下の缶飲料に10円上乗せして販売される。缶飲料購入者はシールを貼っている缶をどこの小売店でもよいので持参すればその場で1缶に月10円返却される。小売店は姫島村商工会にもって行き返金を受ける。姫島村は商工会から空き缶を回収し、資源化して金属回収業者に販売する。
販売事業者は姫島村が印刷したシールを商工会で9円で購入し、缶飲料にシールを貼って販売する。小売店に集まった空き缶は商工会にもって行き1缶11円の返金を受ける。差額の2円が小売店の手数料となる。姫島村はシール販売と空き缶の回収を商工会に委託している。収支を見ると、19万本販売(ほぼ実績)として、歳出は姫島村は商工会に年間45万円の委託料、返金209万円(小売店に1缶2円の補助で年間38万円)、シール印刷代8万円、収入はシール売り上げ171万円、資源販売額40万円、約50万円の支出増である。これに未回収10%分を勘案すると、19万円が歳出減となり、約30万程度で事業が出来ている。
まとめ
デポジット制は本来全国的にやられべきものであるが、姫島村のように閉じた環境でなければ自治体での取り組みは難しい。中津江村も試行で終わったのはそのような事情があると思われる。近年各自治体での資源化の取り組みが進み、空き缶の回収は以前に比べて進んでいる。とはいえ相変わらず空き缶のポイ捨てはまだ十分改善されているとは言いがたい。製造事業者の責任として回収すべきであり、デポジット制の意義は失われていない。