情報公開審査会、画期的な意見

Pocket

 福岡市がこども病院現地立替費用を1.5倍に水増しした根拠である「ゼネコン3社のヒアリングのメモ及び資料」に関して情報公開請求していた件に関し、情報公開審査会が3月29日に市長に答申を出しました。内容は、該当する文書が破棄して存在しないので非公開は妥当としていますが、問題点を以下のように指摘しています。

「この点に関する検討過程の情報は,こども病院問題という市政の重要施策に関し,市民に説明する実施機関の責務を全うし,市民の監視と参加による公正で開かれた市政の推進という条例の上記目的を達成するうえで,市民の知る権利の対象とするため,これを公文書に作成したうえで,公文書規則に基づいて保管する必要性が高いものであった。
検証・検討チーム及び事務局組織の特性による時間的制約等の事情を考慮しても,かかる措置がとられることなく,本来残されるべきであった情報が「個人的なメモ等」の形のまま廃棄されてしまったことは,条例の本旨にもとるとの評価を免れないと思われる。」

 この答申を読めば読むほど、意図的に証拠隠滅を図ったと思え、市長の重大な犯罪であることが実感されます。

 なお、情報公開審査会が捜査機関でないことの限界を自ら認めつつも、検証検討経緯の杜撰さが聞き取り調査の経緯で見えてきます。全文は市のHPに掲載されていますが、以下抜粋してました。

*********************************************

(4) 本件異議申立てにかかるこども病院の現在地での建替え工事費用の概算額について,検証・検討報告書等では,「簡易的な試算」により,新棟工事84億6,000万円,外構工事9,000万円(新棟工事費と外構工事費の合計額は85億5,000万円)に加えて,ローリング(既存建物の解体工事,仮設建物,設備切り回し,仮設工事,仮設外構工事)にかかる費用として,約42億8,000万円を要し,その合計額は約128億3,000万円になるとしている。
他方,福岡市は,こども病院の現地建替え工事費用等の算定をPwC社に委託していたが,検証・検討作業の期間中である平成19年7月に提出された同社の報告書では,新棟工事73億6,000万円,外構工事9,000万円,ローリング費用11億円であった。上記検証・検討報告書等の概算額は,このPwC社の試算と比較して,ローリング費用が約31億8,000万円加算され,総額では約50パーセント増額になるとされている。ただし,検証・検討報告書等の中では,この増額分の大半を占めるローリング費用の金額を導き出したという「簡易的な試算」の内容としては,新棟建設・外構工事費用の合計額85億5,000万円の約半額というものであって,それ以上の計算根拠等は示されておらず,それ以外の本件公開資料等でも,この点はつまびらかにされていない。

4 作成又は取得されたことがないと主張する文書について
(1) 当審査会は,実施機関が作成又は取得したことはないと主張する各文書(上記3の(2)ア)について,検証・検討チームの文書作成・保存の有無を究明するために,実施機関に対し,改めて保管文書等の探索と提出を求めるとともに,検証・検討チームの当時の事務局担当職員から事情聴取をするなどの事実確認を行った。
その結果は次のとおりである。

ア ②(ゼネコン提供資料)について
担当職員がゼネコンにヒアリングをした際に,ゼネコン側から何らかの資料の提供を受けたことをうかがわせる事情は見当たらない。

イ ③(試算根拠資料)について
本件公開資料等のほかには,検証・検討期間中に該当する文書が作成されたことをうかがわせる事情は見当たらない。

ウ ⑥(チームメンバー備忘録)について
検証・検討チームのメンバーが個々に備忘録を作成したことをうかがわせる事情は見当たらない。

エ ⑦(会議録音テープ等)について
検証・検討チームの会議の録音が行われたことをうかがわせる事情は見当たらない。

(2) 以上のとおり,実施機関が作成又は取得していないと主張している文書について,当審査会の要請に基づく実施機関の再調査及び検証・検討チーム事務局の当時の担当職員からの事情の聴取結果など,当審査会における可能な限りの調査によっても,当該文書が作成又は取得されたことをうかがわせる事情ないし資料を得るには至らなかった。
そして,これらの文書の作成又は取得を否定する実施機関の説明内容にも格別不合理な点は見当たらない。
したがって,当審査会としては,当該文書が作成又は取得されたとの事実を認めることはできない。
なお,上記(1)ア及びイの各文書(②ゼネコン提供資料,③試算根拠資料)に関連して,異議申立人は,担当職員がこれらの文書を保有していたが,その後に廃棄されたとの報道がなされていることを指摘している。確かに,かかる報道がなされたことは認められるが,この点を担当職員から聴取したところ,この報道の当該部分は事実ではなく,前記3の(1)①の文書(ゼネコン聴取メモ等)に関連した発言が誤って伝わったとのことである。当審査会としては,この報道の根拠等を究明する立場にはなく,真偽は不詳といわざるをえないが,いずれにしても,当審査会の審査に顕れた意見聴取と事情聴取結果及び関係資料によれば,これらの文書が作成又は取得されたとの事実を認めることはできないとの上記判断を左右するものではない。

(3) もっとも,検証・検討報告書等において,こども病院の現地建替え工事費用がPwC社の報告書で示された金額よりも約50パーセント増額になると試算されたことは,重要な政策決定に関するものであることは否定できない。したがって,当審査会としては,その決定過程に関連する情報は公文書として作成し保存するのが適切であったと考える。
この点については,本件決定の妥当性如何とは別に,後記7において述べることとする。

7 公文書の作成・管理に関する意見
(1) はじめに
本件各決定の妥当性如何に関する判断は以上のとおりであるが,当審査会としては,情報公開の制度趣旨に照らして必要であると考えるので,本件事案の審査を踏まえ、公文書の作成と管理に関して,以下のとおり意見を述べる。

(2) 本件対象文書について
本件事案は,こども病院を現在地で建て替えるか,それとも同病院と福岡市民病院を統合してアイランドシティに移設するかという問題(以下「こども病院問題」という。)に関する政策の検討及び決定の過程で作成又は取得された可能性のある公文書の存否を審査の対象とするものである。
実施機関は,検証・検討チームでは,こども病院の現地建替え工事費用の算定について,PwC社の報告書だけではなく,同報告書が提出された時期と相前後して事務局担当職員が行ったゼネコンからのヒアリング結果をもとに,「簡易的な試算」を行い,その結果を検証・検討チーム会議に反映させた結果,その概算額は128億3,000万円(PwC社の報告書は85億5,000万円)で,そのうちのローリング費用は約42億8,000万円(PwC社の報告書は11億円)になった旨説明する。しかし,ゼネコンからの聴取内容を公文書化することは行われておらず,その際に担当職員が作成したメモも廃棄されていて現存していない。
また,検証・検討チーム会議では,事務局が報告した「簡易的な試算」の経緯についての説明がなされて議論が行われたが,その内容が同会議の議事要旨(公開)に掲載されていない理由について,実施機関は「特に異論がなかった」からであると説明している。

(3) こども病院問題と本件対象文書の関係
しかし,こども病院問題は,それ自体として福岡市民の医療及び福祉のあり方に関わる重要な問題であるうえ,平成18年11月に実施された福岡市長選挙でも争点の一つとされたところであって,市民の関心が高く,現地建替えかアイランドシティへの移転かをめぐる賛否の議論が活発になされていたものである。検証・検討チームがその作業の方針において,「アイランドシティ整備事業及び市立病院統合移転事業については,必ずしも市民の理解が得られていないと考えられる」(検証・検討最終報告書1頁)と記しているのも,こども病院問題をめぐるこのような状況認識に基づくものにほかならない。
そうすると,こども病院の現地建替え工事費用の概算額をどのように算定するかは,こども病院問題の帰趨に極めて重大な影響を及ぼすものであって,検証・検討報告書等とPwC社の報告書の各金額に多額の食い違いを生じた理由,ことに事務局担当職員によるゼネコンからのヒアリングとこれに基づく「簡易的な試算」の内容,さらにはこの事務局報告に基づく検証・検討チーム会議における討議の具体的状況がどのようなものであったのかは,それ自体として市民の重大な関心事であるばかりではなく,こども病院問題についての福岡市当局の政策決定の当否に対する市民による適切な検討と評価のために必要かつ重要な情報であったと考えられる。
そのうえで,かかる情報を公文書として作成し保存すべきであったかどうかを検討する。

(4) 公文書規則との関係
この点に関し,条例第41条に基づく福岡市公文書の管理に関する規則(平成14年福岡市規則第82号。以下「公文書規則」という。)は,本市が保有する公文書の適正な管理を図り,もって行政事務の適正かつ効率的な遂行に資することを目的に,公文書の作成,分類,保存及び廃棄に関する基準その他公文書の管理に関し必要な事項を定めている(第1条)。
そして,公文書の作成については,公文書規則第6条において,次のように規定している。
すなわち,事案の処理に係る意思決定及び報告は,公文書を作成することにより行わなければならず(第1項本文),例外として作成が義務づけられないのは,「(1) 処理に係る事案が軽微なものであるとき」と「(2) 意思決定又は報告と同時に公文書を作成することが困難であるとき」である。
このうちの「軽微なもの」とは,一般的に事後に確認が必要とされるものではなく,文書を作成しなくても職務上支障が生じないような場合である。また,「意思決定等と同時に公文書を作成することが困難であるとき」には,当該事案の処理後,速やかに公文書を作成しなければならないとされている。
このような公文書規則に照らして,検証・検討チームによるこども病院の現地建替え工事費用の概算額算出過程に関する情報のうち,事務局担当職員によるゼネコン聴取メモ等(手書きのメモ及びパソコン入力データ)については,これに基づいてPwC社の報告書とは異なる「簡易的な試算」に取りまとめて,検証・検討チーム会議に報告されたというのであるから,それが「軽微なもの」に当たるとは到底いいがたい。
さらに,この「簡易的な試算」は,第17回検証・検討チーム会議(平成19年7月27日開催)において,事務局より説明がなされ,これに関する議論がなされたものの,実施機関によれば,「特に異論がなかったため」,同会議の議事要旨には掲載されなかったということである。しかし,「簡易的な試算」をめぐる議論の内容がどのようなものであったのか,PwC社の報告書との比較検討がなされたのかどうか,なされたとすればいかなる検討がなされたのか,なされなかったとすればいかなる議論の経過によるものなのかは,到底「軽微なもの」とは認めがたい。
また,いずれについても,「意思決定と同時に公文書に作成することが困難」であったり,事案の処理後速やかに作成することができないといった事情は見当たらない。
したがって,ゼネコンからヒアリングした内容及びこれをもとに事務局が行った「簡易的な試算」の説明を受けてなされた検証・検討チーム会議におけるこの点をめぐる議論の状況に関する情報は,公文書規則によっても,公文書として作成し保存しておくべきものであったと考えられる。

(5) 時限的ないし臨時的な組織における文書の管理について
加えて,検証・検討チームは,こども病院問題などの検証・検討作業をスピーディに行うためとして,全市的な施策の調整や業務管理等を担当する職員から成るプロジェクトチーム方式がとられた。このような時限的ないし臨時的な組織は,その任務が終了した後は,専門的事務局を含めて,組織そのものが解散・廃止されることから,情報や資料も廃棄されたり散逸することを避けられない。現に,実施機関は,本件の検証・検討チームと事務局においても,本件公開資料等以外の「簡易的な試算」に関する文書・資料・電子データについては,その解散・廃止時までに,すべて廃棄されたと説明している。
したがって,このような時限的ないし臨時的組織における政策の検討過程における情報については,そうでない組織の場合に比して,できる限り詳細な内容を公文書に作成したうえで,公文書規則に基づき保管しておくべき必要性が大きい。

(6) 条例の目的との関係
情報公開の目的は,「市政に関し市民に説明する市の責務が全うされるようにするとともに,市民の監視と参加の下にある公正で開かれた市政の推進に資すること」(条例第1条)にある。
上記(3)で述べたように,こども病院問題は本市の重要な政策課題であって,現地建替え工事費用の如何は,検証・検討報告書等においても,その政策決定を左右する不可欠の要素として位置づけられている。しかも,この点に関して公表された金額は,PwC社の報告書と検証・検討報告書の間で大きな差異があり,その主な要因は,実施機関の説明でも,ゼネコンからのヒアリングに基づく「簡易的な試算」にあったことは否定できない。
そうすると,この点に関する検討過程の情報は,こども病院問題という市政の重要施策に関し,市民に説明する実施機関の責務を全うし,市民の監視と参加による公正で開かれた市政の推進という条例の上記目的を達成するうえで,市民の知る権利の対象とするため,これを公文書に作成したうえで,公文書規則に基づいて保管する必要性が高いものであった。
検証・検討チーム及び事務局組織の特性による時間的制約等の事情を考慮しても,かかる措置がとられることなく,本来残されるべきであった情報が「個人的なメモ等」の形のまま廃棄されてしまったことは,条例の本旨にもとるとの評価を免れないと思われる。

(7) むすび
よって,当審査会は,条例第23条第3項に基づき,第41条に規定する公文書の管理に関して,実施機関に対し,本件事案における情報の取扱いをめぐる上記の問題点に十分留意したうえで,改めて公文書の適正な管理を行うべく,意見のとおりの要望をするものである。