滋賀県近江八幡市は市立総合医療センターについてPFI(民間資金活用による社会資本整備)契約を解除することが報道されました。規模を拡張し充実させるとして移転計画を進めた結果、黒字の病院はたちまち赤字に転落、そのツケは全て市民に跳ね返るというものです。福岡市立こども病院人工島移転はまさに近江八幡市と同じ轍を踏もうとしています。福岡市立こども病院も近江八幡市と同じように、過大な計画を立て、その一方ずさんな収支計画、医師が確保できないままの事業推進と赤字に突き進んでいます。以下、近江八幡市の状況を福岡市に重ねてみてください。
○いくつかの報道によると
近江八幡市は同センターを運営する特別目的会社(SPC)「PFI近江八幡」に違約金を20億円払い、SPCから病院施設を買い取り来年3月末で解除し直営に戻す。民間会社とのPFI契約を06年の開院以来、赤字が続いており、直営に戻した方がいいと判断した。
違約金は、病院建物を建設して所有する、大手ゼネコン「大林組」出資の特別目的会社(SPC)に支払う。約20億円の内訳は、SPCの逸失利益や、建物の建設資金を融資した金融機関への損失補償など。市は、うち約16億円を財政調整基金を取り崩して支払い、残る約4億円はSPCにすでに払った建物修繕費の未使用分を充てる。
センターは前身の市民病院の老朽化に伴い、06年10月に新築移転して開院しました。経営効率を上げると同時にサービスを向上させるとして、PFI方式を全国で初めて設計から運営まで採用。SPCと06年に30年間の長期契約を結び、市は患者が払う医療費などの収入を得る一方、SPCに給食や検体検査など医療以外の病院運営費を払う形にした。
ところが、外来患者数は想定の6割に、9割を超すとみていた病床利用率も8割ほどにとどまった。センターの収益が予想を大きく下回る一方で、契約に基づいて市がSPCに支払う額は固定化されているため、07年度には約27億6千万円の赤字を計上した。
市は今後27年間、契約通りにPFI方式を続けるより、契約を解除して直営にした方が、負担が約110億円軽くなると試算した。起債によって建設費の残額を一括償還し、三十年間で九十九億円に上る金利負担を軽減する。建物を買い取る費用として118億円の起債(病院事業債)。
ゼネコン大手の大林組を代表とする特定目的会社(SPC)「PFI近江八幡」が建設、運営し、三十年後に市に無償で譲渡する契約だった。」
○関係者の意見は
医療センターによると、当初計画では、新築効果を期待して医業収益を年間100億円と見込んだ。しかし入院患者が伸びず18年度は75億円、19年度は84億円にとどまり、実質赤字は8億5000万円に膨らんだ。経営再建のため市が設置した検討委員会は当初計画を「経営上の試算は丼勘定」と指摘。槙院長も今年3月の論文で「医師数が確保されていない中では机上の数字。甘い計画のツケが押しつけられた」と発表した。
近江八幡医療センターの悲劇は医療現場の意見を無視して 国の方針を無定見に受け入れた事から始まった。コンサル意見を丸呑みし 内閣府の誤った方針に盲従し 計画を再検討しない自治体本庁事務官僚に見直しを強く求める。
『近江八幡市は 違約金20億円支払う必要があるのか? 法治国家であるから 契約が優先するとSPCが主張するのは当然ではある。
しかし PFIに無知同然であった近江八幡市を巧妙な仕組みで契約させた事・事業管理者・院長代行(病院代表)が金利負担も知らされていない状況で 契約ありきで 強引にPFI事業が進められたことが明らかになった。
公序・良俗に違反していたと言わざるを得ない。
SPCの代表は 公開委員会で 繰り返し PFI事業が採算に合うか 否か検討した事が無いと明言しているのである。
家賃が将来払えるかどうか検討しないで 病院建物の所有者になっている。 善良な所有者と言えるはずがない。』
○近江八幡市総合医療センター病院須貝順子院長代行の意見
【PFIについて】
職員には選択の余地はほとんどなかった。旧病院でも委託業務を十二分に活用し、黒字経営を長年続けてきましたので、SPCという組織が本当に必要かどうか、日々考えさせられている。これはSPCの管理運営能力によると思う。現在、SPCの委託業者統括能力は、リスク分担、コスト管理という面に関しては、しっかりしている。しかし、日常の医療業務に共に歩むパートナーとして、医療安全に関連する滅菌業務、医業収益に関連します医事業務、それから医療コスト管理に関連する物流管理業務、の3点は特に問題があると感じている。この分野は、医療・病院運営にとりましては心臓部というような業務で、それだけに医療現場との隙間業務が生じやすく、民間の智恵、ノウハウの発揮はなかなか実感しがたい。また独占一社による競争原理が働かないことによる質の問題と、割高感などが感じられる
【市行政と病院の関係について】
市民の健康を支え、500人の市職員を抱える病院事業は、病院単独の事業ではない。病院を新築移転するという市の一大事業について、財政面のシミュレーションや医療計画を初め、市行財政がどのように計画性を持って取り組んできたのか、大いに疑問である。
四、五十年に及ぶ当院の運営が非常に優秀なものであったため、市行政は病院運営への関与や財政的援助をほとんどせず、独立採算に近い運営が続けられてきた。それだけでなく、国から市へ交付された病院運営に関連する交付税が、病院ではなく、市の運営資金として使われていたと考えている。
市民の皆様方は、これから多額の税金を投入しないとやっていけない病院という思いがあるかもしれないが、今まで国から交付されるお金のうち、病院に分配すべきお金が市一般行政に回され、市民生活の助けになっていた部分があるという事実も知っておいていただきたい。このお金を病院新築のために 留保し使って欲しかった
○近江八幡市民病院整備運営事業(大林組HPより)
■施設概要
所在地 滋賀県近江八幡市土田町1379番地
敷地面積 47,459.81m2
構造 ・規模 RC造 地上5階 床面積 33,873.13m2 病床数407床
設計建設期間 平成15年11月~平成18年4月
■事業概要
主催者 近江八幡市(滋賀県)
事業名称 近江八幡市民病院整備運営事業
業務内容 病院施設の設計・建設業務 同施設の維持管理業務 病院運営業務(診療行為をはじめとする病院経営を除く医療事務、検体検査、 物品管理、 給食等非医療行為) 総合医療情報システムの開発・設置・保守業務 その他業務(レストラン、理容室、床頭台 他)
事業類型 BOT方式
運営維持管理期間 平成18年10月~平成48年(30年間)
落札時期 平成14年8月13日
SPC設立 PFI近江八幡株式会社 平成15年7月9日設立
SPC資本金 500百万円(当社100%)
事業契約 平成15年11月25日締結
■事業紹介
大型病院PFI事業
この事業は、近江八幡市が、東近江地域の中核病院として重要な役割を果たしてきた市民病院を、今後の医療需要の高度化・多様化に対応するとともに、よりよい療養環境のもとで効率的な医療を提供できるよう移転、整備するものです。
近江八幡市が診療行為をはじめとする病院経営を行い、SPCを通じ、当社を代表企業とするコンソーシアムのメンバーそれぞれが病院施設の設計・建設、所有、維持管理、市の病院経営をサポートする病院内運営業務、施設整備費の資金調達を行います。官民パートナーシップにより、従来より一層効率的で、市民サービスを向上させた病院経営を目指しています。
■事業スキーム
近江八幡市民病院整備運営事業