こども病院の周産期医療はできるのか

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 東京都で救急搬送された妊婦が8病院に受け入れを断られ死亡した問題で、厚生労働省は25日までに、今年4月時点では、全国総合周産期母子医療センターのうち都立墨東病院を含め6施設が、産科の常勤医が3人以下だったとする調査結果を公表したという報道がありました。この6施設を含め15施設が産科の常勤医が5人以下だったとしています。国の指針では複数の産科医で24時間対応するのが望ましいとしていますが、3人以下の医師ではこれを遵守することは困難と見られるとしています。問題時の墨東病院の当直医は一人であったということですが、医師不足が常態化していたと言うことです。

 最も医師がいると見られる東京においても産科医・小児科医が不足していることは、地方ではもっと厳しい状況であることは容易に理解できます。福岡市立こども病院基本構想では周産期医療を行うとしていますが、周産期医療を実施するには産科・小児科・脳神経外科・麻酔科など医師の連携体制が必要と言われていますが、市内の小児科医・産科医の方々から果たして医師が確保できるのかと疑問が指摘されています。5月5日にこども病院の人工島移転を考えるかが開催したシンポジウムで藤井副院長は「いまこども病院は危機的な状況にある。報酬が安いために、若い医師が来なくなっている。医師を公募しているが、時給1900円、日給月給で年収300万程度。いま家族がある35歳の医師が一人来ているが、高度な技術を学びたいと言うことである。麻酔科医を公募したが8人応募があっても年収が低いため全て断られた。」という趣旨の発言をしています。今回の東京都における周産期母子センターの受け入れ拒否による死亡問題と、今の福岡市のこども病院の置かれている状況をみると、立派な建物を造っても利用する市民は減り、医師も確保できず、無用の長物になりかねません。無駄遣いによる市民負担増が懸念されます。

 いま何をすべきなのか、市民の生命を守るためには、医師不足が深刻な状況で、どのようなシステムを作るのかが問われています。命を扱う最前線の市内の小児科医・産科医のとの協議、患者家族との協議を行い、こども病院を軸に市内の医療システムを構築することです。今回の墨東病院の問題が示している深刻な医師不足の現状は、福岡市がこども病院を人工島に移転させた後の西部地区の医療体制について何も具体的展望が見いだせていない現状を見ても、東の端の利便性が悪い人工島にこども病院を移転させることが市内の救急医療体制を歪めることになることを示しています。吉田市長を始め、民主党、自民党、公明党をはじめとする人工島移転を支持する議員は本当に市民の命を守ることを考えているのか、とてもそのようには思えません。

 いま新病院基本構想についてパブリックコメントがなされていますが、その資料にはほとんど説明らしきものは記載されていません。建設費の具体的内容、収支計画の具体的根拠、具体的事業計画・事業内容など基本構想の具体的な中身は何も書かれていません。福岡市の資料では、個室がいくら作られ、使用料がいくら、医師・看護師・その他職員は何人など書かれておらず、市民には事業内容が全くわかりません。福岡市の資料を見ると、そもそも市民に理解を求めているとはとても考えられません。市長及び議会は住民投票条例を採択し、市民にこども病院の人工島移転の是非を問うべきです。