人工島事業見直しのポイント
はじめに
福岡市を取り巻く状況
①「三位一体の改革」で地方交付税・補助金の削減
②景気が良くなったと言われているが、グローバル化の中で賃金の低下
③海外展開している大企業は景気が良くても中小企業は厳しく地方自治体の税収は増えていない
④少子高齢化と人口減少
日本では昨年から人口減少が始まった。福岡市は2025年をピークに人口減少が始まる。
⑤国の地方財政健全化の対策としての早期是正措置
福岡市の借金 2006年度見込み 2兆6511億円(市民一人当たり195万円)
隠れ借金を含めた財政指標
・実質赤字比率 ・連結赤字比率 ・実質公債費比率 ・将来負担比率
第三セクターの整理
1、人工島事業の見直しは税金の使い方
①厳しい財政状況が続く中でどこに政策の重点を置くのか。
②今年度から税源移譲されるが財源は削減される。
③以上による一般財源化、自治体が自由に使える財源に変わる。
福祉や教育に使うかどうかは自治体の裁量、自治体間の格差の拡大
2、人工島事業に直しは
①銀行でさえ見放した事業を福岡市が続けても採算が取れるのか
平成16年の二度目の計画変更で、博多港開発第二工区(福岡市第5工区)を福岡市が
博多港開発から399億円で購入。理由は銀行が博多港開発への融資をやめたため。
福岡市が埋立を継続するためには約300億円、できあがった土地に道路や下水道など整
備するためには更に115億円、その他と地所部のために税金が使われる。土地が売れな
ければ市民の借金になる。市が購入しても市民の借金になる。
②福岡市全体としての都市計画としての見直しが必要
100万人を超える都市で博多湾や背振の山並みなど自然を抱えた都市は世界的にもまれ。
市第5工区を干潟に復元し、和白干潟と一体で保全するなど、福岡市全体の視点から博多湾
の自然を生かした街づくりをすべき。
③博多港にこれ以上の大水深の港は必要ない。港湾整備計画の見直しが必要。
博多港に入港する大型船は減っている。中国・韓国からの1万トンクラスのコンテナ船が
増えており、フィダー港化している。港は過剰投資で、将来市民の借金にとなる。
港湾整備特別会計は臨海機能整備事業(クレーンや倉庫の使用料で採算をとる)は70年
で収支を合わせている。臨海土地整備事業(造成地を売る)は50年で収支をあわせる計画
となっている。民間では考えられない計画。
以上もとに、7月17日に福岡市に提言を提出しました。基本的な視点は福岡市の将来を見据えた、福岡市全体の街づくりの視点がないことにあります。このことは福岡市の財政問題でもあり、税金の使い方の問題です。市民の財産とは何か、十分な議論が必要です。今回の見直しが山崎前市長同様の市民へのポーズでないというとにならないことを願っています。
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2007年7月17日
福岡市長 吉田 宏 様
「人工島点検」を点検する会 代表 荒木龍昇
博多湾会議 事務局長 脇 義重
「人工島事業および市立病院統合移転事業の検証・検討
中間報告」 への提言
Ⅰ.「中間報告」への評価
今回の人工島事業および市立病院統合移転事業の検証・検討の中間報告では、福岡市が、事業の現況や問題点を数字を使って率直に公表し、人工島事業が抱える問題点 について整理をしている点を積極的に評価する。しかし、今後の方向性が人工島事業のこれまでどおりの継続を念頭において記されており、せっかくの率直な問題点の整理が今後の検討に生かされずに「計画どおりの事業推進」というこれまでの姿勢に戻ってしまうのではないかとの危惧を抱かざるを得ない。
病院の統合移転については、従来の人工島移転を前提とした議論から脱却し、市の財政問題を前面に出し、 公立病院のあり方という視点が出されており、この視点が貫かれることを求めたい。
そして人工島の土地利用の検討の中で、「国際的な価値のある野鳥の宝庫、和白干潟・博多湾の自然環境を保全する」という視点がまったく入っていないのは中間報告の大きな問題点である。人工島事業の検討に当たってはこの点への配慮を欠かすことはできない。
そこで、具体的な検証 の中身と、この検討の方向についてみてみると、中間報告で示された課題としては下記の3点が挙げられている。
①拠点形成や産業集積を牽引する企業立地の見込みが不透明
②市5工区におけるエリアの将来像や産業集積拠点の土地利用の方向性が不明確
③土地処分の進捗に依存する事業収支の安定性への懸念
今後の検討の方策として、
①みなとづくりエリアにおける国際物流拠点機能の強化・企業立地の促進
②街づくりエリアにおける産業集積・企業立地の促進
③市第5工区におけるエリアの将来像や土地利用の方向性の明示
④街づくり、みなとづくりの展開を踏まえた交通基盤の対応
⑤事業の着実な推進の前提となる事業収支の安定性向上となっている。
これはこれまでも私たちが指摘してきたことである。
課題の①、②、③はそれぞれ相互に関係しており、埋立地の土地処分による収支の均衡を図る事業計画はまさに自転車操業といってよい状況である。土地処分が予定通りできなければたちまち全ての計画が破綻す
る。すなわち、投入した資金は回収されず、将来の増税や行政サービスの低下等の形で市民がそのつけを負担することになる。私たちは、博多港開発㈱の処分の見通しの立たない土地を、福岡市が399億円も投じて買い取るという理不尽な事態を目の当たりにしたばかりである。
これまでと同じ轍を踏むのであれば、市民は納得しない。少子高齢化・人口減少社会、産業構造の変化、生産拠点のアジア・中国への移転などを見れ ば、現在の事業計画では、想定されているような土地需要がないことは容易に想像できる。
人工島を「市民の財産」とするためには、人工島の土地処分を事業の第一目標にするのではなく、福岡市の長期的な街づくりについてのビジョンを作り、その上で人工島のあり方を位置づけるような総合的な視点での見直しをすべきと考える。
以下の提言をおこないます。
Ⅱ.土地利用、事業計画についての提言;市民の財産となる見直しにするために
1、港湾整備事業(機能施設整備事業)について
● 博多港を取り巻く物流の環境変化を良く研究し、拙速な整備を控える。
アジアの諸港湾の整備状況を考えれば、博多港が国際海上物流におけるハブ港湾として
発展していくことは不可能といってよく、大型船の受け入れよりも今後増加が見込まれ
る小型船の受け入れに対応できる港湾整備のほうが現実的である。また港湾物流へのITの
導入により、港湾への倉庫用地の需要は減少してきている。
中間報告では、機能施設整備事業は70年経過して収支が均衡することになっているが、
施設の耐用年数を超えなければ均衡しないような事業計画は事業としては成り立たない。
しかもこの期間中、設備の更新について考慮されていないことを見れば、この収支計画で
さえ実現できない。
港湾物流の環境変化を見据え、水深15メートル岸壁やガントリークレーン・倉庫などの
設備投資計画を大幅に見直し、博多港の港湾整備の方向を再検討する必要がある。
2.臨海土地整備事業(市2~4工区)について
● 埋め立て、地盤整備は当面凍結する。
利用方法は福岡市の長期ビジョンの策定を待って検討することとし、その間市2~4工区
は保留地とする。
市内の工場移転を前提とした土地処分計画が成り立たないことは以前のアンケート調査で
も明らかである。現に全国の不動産業者に5千万円を上限に仲介の依頼をしているが、いま
だに1件も商談はない。
土地処分の見通しの立たない現況において、埋め立てを進めても、財政悪化を深刻にする
ことにしかならない。平成29年までの基金の投入額が中間報告において予想されている320
億円を大きく上回ることは容易に想像できる。
早急に土地利用計画を決定して事業を推進することを避け、これからの社会環境の変化を
見据え、福岡市の将来の長期ビジョンを作り上げた上で利用方法についての構想を練ること
が賢明だと考える。その際は事業の主体・資金調達の方法など事業の枠組みについても根本
的に見直す必要がある。
その間、当該工区は保留地として、市民のさまざまなニーズに対応した暫定利用を行う。
一方で、その間、これまでに発行した市債の償還条件の緩和についての銀行団などとの交渉
が必要になる。
3.市5工区(旧博多港開発2工区)について
● 大部分を和白干潟と一体となった湿地公園として整備し、福岡市の街づくりにあたって
の核地域の一つとする。
市5工区も福岡市の長期ビジョンの策定を待ってその利用計画が決められるべきものである
が、私たちは、博多湾の豊かな自然を街づくりの戦略の一つとし、その核として当地域を湿地
公園として整備することを提案する。
博多湾そして和白干潟周辺は、ラムサール登録地にもなりうる国際的にも価値を認められた
野鳥の宝庫である。市5工区は埋立が進んでおらず、擬似湿地として水辺が残っているので野
鳥が多く飛来している。湿地として保全し、和白干潟および前面の浅海域と一体となった大規
模な湿地公園として整備することで、エコツーリズムや環境教育の場などに活用することがで
きるとともに、周辺および福岡市全体の住環境の向上にも貢献する。「自然を大切にする都市」
として、世界に向かってその価値をアピールすることが可能となるはずである。
土地処分の見通しも立たない中で埋立を継続しても、市民の借金が増えることにしかならな
い。当該工区を湿地として残すことで、これから投入されるであろう埋立て・地盤整備費も大
幅に削減することが可能である。
但しここでも銀行団との市債償還条件の緩和についての交渉を避けて通ることはできない。
交渉に当たって市民の応援を得るには、福岡市は市5工区を博多港開発㈱から買取らなければ
ならなかったに事情について市民の理解が前提となる。
市5工区が博多港開発㈱の管轄であったときに、博多港開発㈱は土地処分の見通しが立たず
経営難に陥り、銀行団は埋立事業にこれ 以上融資しても資金回収の展望がない(「不良債権」
化していた)、と判断して融資をやめた。このとき銀行団は山崎前市長との「密 約」に基づき
市5工区を融資額満額で福岡市に買い取らせたのである。しかし不良債権化した土地を融資金
額満額で買い取らせることは通常の経済行為ではありえない。以前から採算性が危ぶまれてい
た事業に融資を続けてきた銀行の姿勢に対し、私たちは疑問を抱かざるを得ない。
4.博多港開発㈱について
● 市民病院の統合・移転が白紙に戻されたとしても、同社救済のために無理な土地購入をす
べきではない。
「中間報告」において市立病院統合・移転問題が 「公立病院のあり方」という本来的な
問題に添って検討すべきことが提案された。この問題が人工島の土地処分のために利用され
る惧れが一応はなくなったことを私たちは評価したい。ただし、人工島への移転統合がなく
なった場合に、福岡市が博多港開発㈱の救済のため、他の用地を高値で買収する可能性のあ
ることを危惧せざるを得ない。
人工島の土地利用は福岡市の長期ビジョンに基づいて構想されなければならず、博多港開
発(株)の救済のために税金を投入して土地を購入するのは明らかに本末転倒である。税金
の無駄遣いになるばかりでなく、その場しのぎの土地処分をすることによって人工島がモザ
イクのような町になってしまう。
人工島事業が博多港開発㈱の救済事業にならぬよう、やむをえないときには使命を終えた
同社の解散を発議するくらいの覚悟を福岡市に求めたい。博多港開発㈱が解散・清算されれ
ば、福岡市による無理な土地購入の必要がなくなり、不要な市民負担を避けることができる。
一方、土地も妥当な価格で評価されることになり処分が容易になる。
Ⅲ.今後の事業見直しの進め方について
市の将来を左右する人工島事業について、土地処分の見通しが立たず、時代の環境も不透明な現状で、この秋までに結論をうるには無理がある。早急に結論を出そうとすると、現計画のまま見通しの立たない事業を継続し、税金が無駄に投入され続けることになりかねない。そこで、今後の事業見直しの進め方について以下の2点を提案する。
1.福岡市の長期ビジョンを策定する。
福岡市に長期的な展望にたった市全体の街づくりのビジョンがなく、その結果、街全体の機能や
施設の配置が中途半端なものになってしまっていることはしばしば指摘されている。
・博多湾をはじめとした、市民の手の届くところにある豊かな自然
・「商人の町・博多」と「城下町・福岡」というそれぞれ異なった歴史と文化を持つ「双子の都市」
であること
・外来者に開放的な市民気質
など福岡市は他の都市にない特性をいくつも持っている。このような福岡の価値を私たち自身が改
めて確認し、少子高齢化・地球温暖化・産業構造の変化、などの長期的な社会環境の変化を視野に
入れながら福岡市全体の街づくりのビジョンを作ることが今求められている。全体のビジョンあっ
ての人工島事業であり、人工島の土地処分だけを優先させてもちぐはぐな特色のない街にしかなら
ない。
そこで私たちは、人工島の土地利用の検討に先立ち、まず福岡市の長期ビジョンの策定作業を優
先させることを提案する。
2.事業見直しの進め方について
当面は、各工区について当面凍結することも含めて事業の方向付けを行うための今後の検討課題
を整理し、人工島事業全体の今後の検討の体制について結論を得ることにとどめることを提言する。
1)検討すべき内容(例)
・港湾施設の整備など各工区で予定されている事業についての事業環境を客観的な立場から再評価
するとともに、改めて事業の収支計画・福岡市の財政見通しを点検する。
・和白干潟の人工島着工後の環境変化を事実に基づいて確認するとともに、人工島事業の大きな要
素として今後の保全のあり方を検討する
2)土地利用の方向付けを行うに当たっては、市民合意を形成させるために、次の点を原則とする。
・市民参加のもとに検討を進める。公募市民、NGO、 NPO、専門家を含めたラウンドテーブル
方式での検討を行う。
・情報を公開する。
3)今秋の報告を、今後の検討課題・検討体制について提言する第2次中間報告とする。