景観法活用についての調査

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 昨年12月に景観法が施行となりました。景観法では、これまで都市計画法や建築基準法ではまちづくりが充分には出来ないということから、景観をキーワードに良好な住環境や街並みを形成しようというものです。その手法はさまざまで、各自治体の状況にあった手法がとれるよう幅広いものになっています。福岡市ではマンション問題が相変わらず頻発しており、また緑地の拡大も進んでいません。景観法をどう生かすのか、福岡市の課題でもあります。以下報告します。

7月11日(月):日野市 斜面地の建築物の規制について
  12日(火):世田谷区 風景づくり条例につい
        :江戸川区 親水公園について
  
1、日野市
 日野市における斜面地開発の規制について調査した。日野市は人口168,000人、多摩川右岸丘陵地帯にあり、中央部を多摩川支流の浅川が流れている。都心のベットタウンで、交通の便はよく、市内には12の駅がある。日野市内には日野自動車の工場以外に工場は少ない。市内には多摩動物公園もあり、緑地や農地が多く残っている。日野市は土方俊三の生誕地であり、新撰組の道場があったとされる本陣跡を市が買い取り、整備している。旧甲州街道の整備も考えているという。街づくりは土地区画整理事業で進めており市街化区域の42.7%を占めている。現在、2地区の計画が進められている。斜面緑地の保存については、まとまった土地は市が買い取っているが、買い取りが出来ないところもある。

1)日野市まちづくり条例
 日野市は緩やかな丘陵地で、6割が第1種低層住居専用地区で、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域を併せると80%を超え、第1種高度地区69%、第2種高度地区30%のため、公団が開発した住宅地に13階の高層住宅があるが、それ以外高層建築物はない。公団の住宅開発については住民との協議で樹木を多く残しており、景観的にはよいものになっている。しかし、近年、工場跡地は工業地区で制限がないために高層マンションが建設されており、問題となっている。
 平成14年12月から日野市ではまちづくり条例づくりが市民参画で進められている。構成は市民13名、市職員13名、学識経験者4名の構成となっている。市民委員は13名全て公募での応募者である。2度のパブリックコメントが行われ、平成17年4月に条文化したが、まだ問題が指摘され、9月議会提出に間に合わない状況という。その理由は開発負担金制度が日野市にはまだ残っており、小規模開発では負担が大きいという地元不動産企業からの声である。

2)斜面地における建築物の構造の規制に関する条例
 日野市には大規模の開発業者はなく、地元の小規模な不動産業者しかいないため、これまで斜面開発は問題にならななかった。ところが、平静16年6月に改正された建築基準法が平成17年から施行になることから、平静16年11月に条例が作られた。地下室の扱いが緩和されたため、斜面での大規模住宅の開発が可能となり、近年横浜等での開発を手がけた大規模業者の開発の動きが出てきた。工場跡地でのマンション問題や斜面緑地のマンション問題などおこりはじめ、街づくり条例での規制を検討してきたが事態が逼迫していることから、これまで要綱で指導してきたものを条例とした。条例が成立した時点では規制を超える建物は9棟あった。条例化の動きを業者が分かっていたため確認申請を条例制定後まで見合わせていたため、経過措置を適用するものはなかった。
 条例は第1種低層住居専用地域にのみ適用され、周辺地面と接する位置の高低差が3mを超えるもに適用される。高低差が3m以下の場合は一つの平均地盤から建築物の高さが算定され、均衡がとれた市街地が形成されるが、高低差が3mを超える斜面では、3m以内毎に区分して求められる複数の地盤面のそれぞれから高さが算定される。そのため、斜面地では平坦地より見かけ上高層マンションが可能となり、街並みに不整合が生じるため規制をする。
 また、第1種低層住居専用地域は、建築物の高さの最高限度が10mであるので、住宅地下室の容積率緩和制度を最大限利用した場合、地上3階地下2階の合計5階までが建築可能となる。このとから高低差3mの斜面の建築物については5階までとしている。既存の不適格建築物の増改築の場合、増改築部分が適用される。また、高低差3mごとに5階以内での階段状建築物は認めている。これは、世田谷区では認めていない。

4)まとめ
 景観法の活用については今後検討するとしているが、現在準備中の街づくり条例では、テーマ型街づくりとして、景観整備を進めることになっている。市としては、持続的な成長をするためには一定人口増を認めざるを得ないとしている。しかし、市民的な合意の中で開発をコントロールする必要があり、市民提案型の街づくりを進める条例を作っていると言うことであった。

2、世田谷区
 世田谷区風景づくり条例および世田谷区の国分寺崖線エリアの保全についてと景観法の活用について調査した。世田谷区では以前から市民参加による街づくりを進めてきた。昭和55年に都市美委員会を発足し、区民とともに勉強会等を行ってきた。昭和60年には煙突コンペを行うなど自分が住んでいる街づくりに参加できることが実感できる取り組みをしてきた。
1)風景づくり条例制定の経緯
 世田谷区風景づくり条例制定するに当たり、平成9年から10年にかけて街づくり講座を開催し、ワークショップでアイデアを募集した。これを基に区で法文化し、条例作りの審議会で検討した。審議会の構成は学者5名と区民から男女各1名の構成だった。区民は作文による公募であった。区民参加で条例作りを進めた。
 平成11年3月に風景づくり条例を制定し、平成14年には区民の推薦で地域風景資産36箇所を選定した。平成13年にまず区民に身近な風景でよいと思うところを推薦して頂き、その後区民と一緒にその場所を歩き、推薦者に風景づくりプラン作成、選定人がその場所を歩き、意見交換会、事前説明会を経て公開選定会をもって選定された。当初160件の推薦があり、36件が選定された。風景づくりのプラン作成にはくから専門家を派遣して支援したが、特に女性のグループは活発で、現場で具体的に植栽をするなど図面だけではなく行動することでプラン作成したグループもあった。また、そのグループは推薦した場所に隣接してマンション建設が始まったときには施工主と協議し、周辺の植栽について配慮することを勝ち取っている。雑木林を里山公園にするという隣接する小学校のPTAと児童が推薦した場所では、専門家のアドバイスでクヌギの大木を切り、人が利用できるようにした。地域風景資産の選定は4年おきに行い増やすことにしているということである。

2)国分寺が異性保全について
 国分寺崖線は世田谷区と川崎市の境界近くを流れる多摩川左岸の河岸段丘地帯である。バブル期にも開発されずの起こっていた緑地であったが、バブル経済破綻後に開発の動きがみえ、国分寺崖線の緑地帯保全は世田谷区としては10年来の課題であった。昨年景観法が施行されたが、景観法に基づく条例作りは更に3年以上はかかるということから、平成17年から施行できるように、「世田谷区斜面地における建築物の制限に関する条例」、「世田谷区みどりの基本条例」、「世田谷区国分寺崖線保全整備条例」、「世田谷区風景づくり条例の改正」を行った。
 世田谷区国分寺崖線保全条例等制定に当たり、平成15年に指定地区内の町会長にヒアリングを行った。町会長の多くは地主の方で、緑を残したいという声が強く出された。相続の問題がなければ土地利用を制限することには多くが賛成した。区はコンサルト会社を使って地域の4万4千世帯にアンケートを配布し調査をした。通常はアンケート回収は5%程度ということであるが、約7千世帯15.5%の回収であった。その99%は規制すべきと言うことで、緑の保全に関心を持っている区民が多いことが分かった。3回の説明会と懇談会尾実施した。説明会や懇談会では区の提案はぬるいという声が強く、土に根付いた緑の保全を基本とし、原則屋上緑化等は認めないことになった。
 国分寺崖線保全整備条例では500㎡の開発について建築計画の届けを義務づけて規制している。斜面での階段状の建築物を制限するために、周囲の地面と接する位置の高低差は6m以下に制限している。また、色彩の配慮を求めている。またこの条例と連動して、世田谷区緑の基本条例では、250㎡以上の建築行為を行う場合の緑化基準を定め、「緑の計画書」を提出することにした。これまでの緑化基準は建築後の残存敷地に対して一律20%としていたものを、敷地の規模に応じて緑化率を指定している。緑化基準に応じた樹木の本数も基準を作っている。国分寺崖線地区はこの緑化基準の2割り増しとなっている。また、緑化計画をつくるときにはくから専門家を派遣しアドバイスをする制度もある。世田谷区斜面地における建築物の制限に関する条例は、第1種低層住居専用地域および第二種低層住居専用地域に適用し、高さが10mに規制されているところは4階まで、高さが12mに規制されているところでは5階までとなっている。
 以上の4条例を作ったことで、景観法による条例を作らなくてもほぼカバーできるということであった。5年ごとに緑被率を調査しているが、平成17年度は区全体で20.8%、国分寺崖線地区では39%となっている。国分寺崖線地区は平成13年度の調査では緑被率は60%あったが減っており、今回の条例制定で現状維持を図りたいということであった。
 みどりの保全については区民とのパートナーシップで行うということである。300㎡以上の緑地を市民緑地として公開してもらう、また常時公開できないところや300㎡以下の緑地ても年5回程度公開してもらうオープンガーデンなどを実施している。世田谷区では平成元年にトラスト協会を創り、緑保全のための基金を募ることにしたが、地価が高いため成功しなかった。現在は緑地の管理や地主へのアドバイス、緑化の啓発活動をしている。

3)世田谷区の景観保全
 世田谷区でもマンション問題が起こっており、区は住民に建築物周辺の景観等について協議するように勧めている。区では大学病院移転跡地に100mの高層マンションが建設されたこと期に、区全域で40mの高さ規制をしている。ここでは周辺の樹木を残すことで合意し、周辺の景観を維持することになった。また、会社役員の大規模住宅が売りに出されたケースでは、開発会社(三井建設)が樹木や庭石を残してマンションを建設した。ここでは樹木を残すことで容積率を緩和し、高さ規制を少しゆるめたことで住民と建築主が合意した。建築物が樹木に覆われ、景観が維持できた。開発企業としても樹木や庭石を購入すれば莫大な費用が掛かるとして、樹木や庭石を残すことで良好な住宅開発が出来ると考えているということであった。区としても、このような指導を考えているということであった。

4)まとめ
 世田谷区は残された貴重な緑地である国分寺崖線地域を区民の財産として、区民とともに保全する考えが明確に感じ取られた。そのために、区民参加で保全条例を作り、区民参加かで街づくりを進めている状況が理解できた。福岡市に欠けているのは、福岡市にある市民に残された財産がどれだけあり、どのように残そうとしているのか、その姿勢である。

3、江戸川区
 江戸川区では景観法が昨年12月に施行されたことにともない、親水公園整備の経緯と、親水公園を軸とした景観法の活用について調査した。

1)親水公園整備の経緯
 江戸川区の親水公園整備事業は、江戸川区内にある総延長420kmに及ぶ水路と中小河川の再生事業である。昭和3年代に急速な都市化によりドブとかしていた水路や中小河川を、昭和47年に下水道事業が本格的に始まったことを機に水路の跡地利用として「江戸川区内河川整備計画(親水計画)」が策定された。昭和49年に古川親水公園が完成。古川親水公園整備は当初かっての水辺風景の復元を目的に水路の整備であった。ところが工事が始まりヘドロが取り除かれきれいな水が永始めると、子どもたちが水に入り遊び始めたことから計画を変更することとなった。安全に遊べるようにと当初計画になかった浄化した水を流す、また深い淵を埋め小さな子ども遊べるように計画を変更した。1200mの水の帯は火事や地震等の災害時の避難場所、消火用水や防火遮断帯として機能する。その後整備については住民の声を生かすために建設協議会を設置して整備を進めた。当初親水性という価値観から、近年はビオトープのように水辺の生態系の復元が取り上げられるようになり、整備も変わってきた。
 しかしこれまでの経緯もあり、一之江境川親水公園の整備では周辺住民の要望から一部をプール機能を持つ水路を残すことになった。全長3200mの内、上流部、中流部、下流部に100m~200mの水遊びの場を設け、その間は生態系を復元する河川にした。水遊びの部分はそれぞれの場所で浄水を循環させ、メインの河川水は水遊びの場所の地下に水路をとして流している。
 親水公園は現在一部区画整理用地を除く23路線、26,390m(整備率97%)が整備されている。全て元あった水路や中小河川を活用している。環境促進事業団が親水公園の管理と生物調査をしている。平成14年には親水公園を紹介するパンフレットを作り、小学校の環境学習に使われている。申し込みで自然観察会も実施している。現在は生物調査は江戸川エコセンターに移管している。約200種の生き物が確認されている。問題なのは、当初鯉を放流したことから、鯉が増えて他の魚種や生物が減少している。今後の調査を見て検討が必要という。
 また、地域との結びつきが深く、古川親水公園、小松川境川親水公園、一之江境川親水公園には周辺の町会・自治会による公園を愛する会が出来、観察会やお祭り、清掃などが地域のボランティアで行われている。また、ボランティアの登録も多数に上っている。
 親水公園は全てポンプを使って水が送られ、コントロールされている。古川親水公園のようにプール的な水遊びの場となっているところは浄水を流し、生態系復元の水辺は荒川の水をポンプで汲み上げて流している。雨水は別途処理をしており、親水公園には使用していない。ポンプは200台あるが国の補助対象となっていない。既に30年を経過した公園もあり、老朽化したポンプが故障するものも出ており、今後メンテナンスの経費が心配されるが、親水公園事業は継続していくということであった。

2)一之江境川新公園の視察
 一之江境親水公園を上流から下流まで現地を視察した。幅2mほどの水路と両岸に緑地が繋がるみどりの回廊を形成している。緑地の周辺は神社や公園、と隣接しているとろもあり、隣接する建物も低層住宅が多く、塀を生垣にして景観を併せている住宅も見受けられた。途中には畑地や工場跡地などの空き地もあり、今後開発が進むことが予想され、景観法に基づいて景観地区に指定して街並みを形成する考えが示された。

3)江戸川区のまちづくりの取り組み
 江戸川区では市民参加での街づくりを進めるために公園や水辺のアダプト制度を作り、ボランティアを登録してもらっている。登録者は2700~2800人いる。環境に関する区民講座や学習会、自然観察会などが開かれ、水辺や公園についてのワークショップを開き情報交換をしている。区の支援として、講師派遣事業や公園ボランティアが清掃して集めたごみは区が回収処理している。また区内には農地が億清算緑地として保全を進めている。くには市民農園38箇所あり、それ以外にもふれあい農園制度を作り、区民が収穫だけでも参加できるようにしている。
 江戸川区では市内の全ての住居地域および準商業地域の一部を16mの高さに規制、また市街化地域の約9割は敷地面積70㎡以上に規制されている。また市街化地域全域に日影規制を強化している。江戸川区全体として良好な住環境をコントロールしていることがうかがえる。平成16年6月に実施した市民意識調査でも、永住したいと答えた市民は74.7%、親水公園がいいと答えた市民は84.2%、子育ての環境がよいと答えた市民が68%という数字にでている。また、区民一人当たりの公園面積は4.9㎡、区民一人当たりの立木の数は8本となっている。
 最後に、地区計画による街づくりの事例として船堀駅周辺地域を視察した。ここの地区計画は壁面後退により駅前空間を確保している。江戸川区では日本で初めて地区計画を策定して問うことで、地区計画は25箇所になり、地区計画による街づくりを進めているということであった。後日、地区計画についての調査をしたいと考えている。

4)まとめ
 福岡市において、農業用水路および中小河川の多くは暗渠にしており、水辺空間としての活用が考えられていないことを改めて感じさせられた。江戸川区の親水公園は人工的に水量をコントロールしているために経費がかかっているが、良好な景観と住環境を創造すし、また水辺を使ったみどりの回廊を造ることで環境保全と同時に災害時での多様な役割を果たしている。景観法を活用した、これからの街づくりの一つの大きな事例と考えられる。